2012年11月に発表された国産ヒップホップのフリーダウンロードミックステープの一覧。毎度のことながら
JPRAP.COMや
2Dcolvicsに感謝です。ところで、KSKさん早く復帰してください。
てっとり早くお勧めを教えてくれという方には上の3枚!左端が横浜の22歳のラッパー兼トラックメイカーMUMA。全ての点で素晴らしい。真ん中が20歳のトラックメイカー乳歯人BEATS a.k.a. DJ Kokiの破壊と笑いが詰まったミックステープ。そして右端が京都の20歳のラッパーDUMMYの作品。今回の3作品はどれも聴き応えあります。ジャケットクリックでDL先に飛びます。
【◎】MUMA『EXIT』
2012.10.27 / 全6曲21分 / wav /
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スワッグを標榜するラップはAKLOがBACHLOGICの軍門に下ったことで、純粋なラップのかっこよさだけで勝負する段階から曲単位での完成度が問われるようになった。JPラップコムが昨年発表した『#Nibiru』(
DL先)にも取り上げられた、この北海道生まれ横浜在住の22歳の若者ムマには『THE PACKAGE』直前までのRAU DEFやQNらが盛り上げていたフロウ優先のいわゆるかっこいいラップがある。もちろん今のラッパーであり、トラックメイクもできる才気溢れる若手だけに、M5やM6のような曲調も余裕綽々で作れてしまうのに驚かされるし、フロウだけではなく、曲の幅やパンチラインの点でも際立っている。何より素晴らしいのはラップに華があることだ。たった6曲と少ないが、褒め言葉しか出てこない。才能をまざまざと見せつけてくれる1枚。
【○】Fancy『Have FUN』
2012.10.31 / 全9曲25分 / 160kbps /
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先日のULTIMATE MC BATTLE東京予選でも活躍したと伝え聞く20歳のラッパー・ファンシーの9曲入りミックステープ。人と違うスタイルを生み出す。つまり独自性があるということはヒップホップという表現方法にとって最も重要視されるべきことではある。が、目指す地点があるとして、その途上の、しかもまだ四合目ぐらいの悪戦苦闘している姿を見せられるのは苦痛というか、いやある意味では勇気があると賞賛もしたい。特に変わっているのがビートへの言葉の当て方で、もともとロック畑にいたのかなとも思わせるが、ラップはともかくせめて歌唱力だけでもあったら聴こえ方がもう少し違っていただろう。題名通りには楽しめなかったので次は完成したスタイルで聴きたい。
【△】T.A.C.T a.k.a HONESTMAN『Mr. HONESTMAN -Second Delivery-』
2012.10.31 / 全9曲30分 / 192kbps /
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1987年熊本生まれ愛知県在住のソロラッパー・タクトによる4月に続く第2弾ミックステープ。なんでも前作は1000ダウンロードを記録したとかで日本語ラップ界にその名前を"轟かそうとしている"らしい。不勉強なので前作は未聴。コネや才能がないけど、頑張ってるよと繰り返し主張している通りに、ラップの才能は、というよりもリズム感の問題か、悲しくなるぐらい不足しているものの、歌メロのフックになると急に雄弁になるのが面白い。愛知はAK-69の影響下にあることを確認できる作品でもある。
【△】Twoface『Hussalot Mixtape Vol.1』
2012.11.01 / 全16曲41分 / 160kbps /
datpiff
Jinmenusagiとコラボしている同名ラッパーやMCバトルで活躍するフリースタイラーでもなく、20歳で豪州暮らしを経験した岐阜の後天性バイリンガルラッパーが向こうのヒット曲を無難にリミックスした作品。英語での流暢なフロウを日本語にどう移植するか。さらに重要なことは何をラップし、どう人とは違う表現にするのか。先は長い。どちらかといえば歌手のAmazaと組んでいる2dubAの方がよりポップスを指向していて興味深くもある。
【△】C.O.S.A.『CAPO』
2012.11.04 / 全9曲21分 / 160kbps /
bandcamp
JET CITY PEOPLEに所属し、その動向が注目されているラッパーCAMPANELLAと、COSAPANELLA名義でコラボ作を発表している名古屋のトラックメイカーC.O.S.A.の『REPLICAS』(
DL先)以来8ヶ月ぶり4本目のビート集。カンパネルラとの「WHAT (C.O.S.A. Remix)」(
bandcamp)というかっこいい曲を出しているトラックメイカーだけに毎回期待はするのだけど裏切られ続けている。
【○】Andherpackage『Harlequin EP』
2012.11.07 / 全9曲13分 / 320kbps /
bandcamp
Oilworks Rec所属のトラックメイカーNaoto Taguchiの別名義作品。1985年札幌生まれで現在は東京で暮らし、映像作家としても活躍しているそうだ。多い時には平気で3作ぐらいひと月に発表している彼にしては珍しく今月はこの1作のみ。ビートは例によってつんのめるようにして進みながらも、上音は落ち着き、穏やかな楽曲が並ぶ。前作(
DL先)に引き続き、本作でも全編で"イェイ"が使われる。
【○】BLASTA『Killa Chill Vol.1 (2011〜2012)』
2012.11.05 / 全25曲60分 / 192kbps /
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元アトミックボムのJUN-GMCが地元の東京・八王子で立ち上げたインディーズレーベルに所属する1991年生まれのラッパー・ブラスタのミックステープ。レーベルメイトのRUMCHOP(ラッパー・KOOGIのトラックメイカー名義)が全面バックアップしているが、そのラムチョップが4月に出した作品(
DL先)や昨年のミックステープ(
DL先)にもブラスタは参加しているので、似たような強面ラップが25曲ぎっしり並ぶ本作を聴くよりはその2作の方がずっと楽しめる。ただ、ジュンGMCとコージが鬼と指ストンずというグループを組んでいる関係で、本作に鬼が1曲参加している。既発曲をただ繋ぐのではなく、M19以降のような八王子を殺伐とした街に変えるサグ路線の曲調でまとめても面白かったのかも。
【△】WATA the FreeMan『CHAMELEON EP』
2012.11.07 / 全5曲15分 / 256kbps /
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ラップにも音痴があることがよく分かる作品。色々聴きすぎた結果なのか彼自身の色を出せないだけではなく、トラックにしてもその音質にしてもミックステープのレベルを下げている。そもそもがこうした作品にまで手を出しているこちらが悪いのだろうが。
【○】隙間Company『TACTICS EP』
2012.11.09 / 全6曲21分 / 320kbps /
bandcamp
和歌山のヒップホップデュオ・アストニッシュから092 a.k.a. SKUNKY、大阪のラッパー・LEWD、同じく大阪のグループ・Mセットラッパーズ!!に所属するラッパーのmaeco、それと全曲のビートを手掛けるトラックメイカー・BEBEによるグループ。緩いグルーヴの上で派手さはないものの、雰囲気を崩さず的確に言葉を落とし込んでいく3人の職人的なマイクさばきが味わえる。
【○】Soul Jugglerz『Tongues of Terror』
2012.11.10 / 全20曲58分 / 320kbps /
bandcamp
S.l.a.c.k.(現5lack)やISSUGIとSICK TEAMを組むトラックメイカーBudamunkが、16歳から10年間暮らしたロサンゼルス時代に結成したグループ、ソウル・ジャグラーズの2004年から2009年までの音源集。内情についてはAmebreak掲載の
インタビューに詳しい。抑制の利いたJ Dilla直系のお得意のビートからアジア風味、ジャジーなトラック等々日本人にも親しみやすい音の上に英詩のラップが乗る。日本人が異国の地で、その土地の肌の色が全く違う人たちが作り上げてきた文化のど真ん中で、しかも屋台骨として活躍していたというのはなんだか嬉しくなる話だ。米国と日本とのハーフOYGによる日本語のラップも収録されている。
【○】GOMESS『THE ALBUM PLUS』
2012.11.10 / 全9曲22分 / 256,320kbps /
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愛媛県松山市在住の高校3年生ラッパー。昨年出したと
思われるアルバムを基に中2から高3春までに制作した曲も収録したミックステープ。話題になった高校生RAP選手権(
YouTube)の第2回準優勝者だそうだ。最近では10代のラッパーも珍しくなく、以前のようにそれだけで売りなるということもなくなったが、非常に元気のあるラップは粗を意に介さず一気に最後まで突き進む。温故知新という言葉にも詳しそうだ。
【○】OYSTAR『Anything and everything』
2012.11.12 / 全5曲20分 / 320kbps /
bandcamp
8月9月と立て続けにEPサイズのミックステープを出した神奈川県相模原のトラックメイカー兼ラッパー・オイスターの新作。今回は5曲入り。例によってラップ曲は2曲。浮遊感のあるトラックにしっかりメロディを乗せたM1のラップ曲に惹かれる。M3やM4のインストもその路線で、打ち寄せる波が浜辺近くでグッと盛り上がるその躍動感をループさせているよう。
【○】JOE IRON『BANZAI BOY』
2012.11.13 / 全20曲64分 / 320kbps /
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ロサンゼルスで生まれ育った日系4世のトラックメイカー、ジョー・アイロンの新作ミックステープ。これまでの日本での活動を総括するような客演陣であり、普段フリーDL界隈では見かけないラッパーが揃っている。SCARSからはA-THUGやSTICKY、SHIZOOなどもいるし、GUNSMITH PRODUCTIONの318の秘蔵っ子ということで一気に注目が集まったKOHHも参加している。アイロンがTOKYO SOUTHの一員だったためか、Zeebraの弟SPHEREまで加わっている。他にも若手の注目株、EGOやYUKI aka JUTO、GOBURINらのラップも聴ける。ただ、音自体は中途半端な数字だが、1年と半年ぐらい前のアメリカのミックステープでよくあったような派手なだけのビートであり、若干古さを覚える。このメンツと音で半年ぐらい前に発表されていたら、本場っぽいと賞賛したかもしれない。一方で同じくトーキョーサウスに所属し、彼が全面的にバックアップしている女性ラッパーMICHOは、前作のミックステープ(
DL先)での覚醒が続いているようで、本作でもM4を始め数曲でかっこいいラップをしている。
【○】CHAIN ADICT『DIRTY CHAIN ADICT』
2012.11.16 / 全5曲18分 / 320kbps /
HP
"京都で活躍中の次世代"ヒップホップクルー、チェーン・アディクト。綴りは表示通りで正しいようだ。かなり大所帯のクルーのようで、わずか5曲を収録した本作に15人ものラッパーが参加している。クルー名のこともあるし、地雷フラグがかなり強くはためいている感はあるが、これがなかなか良い塩梅だ。押し出しの強いラッパーたちが多いものの、それぞれ地力がしっかりあり、1ヴァースだけの披露にも関わらず、印象に残るラップをする。京都の若手といえばBONG BROSも最近では珍しく大人数のグループだし、かの地はそういう土地柄なのだろうか。
【△】LAIRA『Out Of Sight』
2012.11.16 / 全6曲17分 / 320kbps /
HP
京都のソロラッパー。昨年まではSURGERというグループで活動していたそう。最近の若手では聴かれなくなったフロウで少し懐かしさもあるが、どの曲でも同じようなリズムと巻き舌ではすぐに飽きる。表題曲は同郷のトラックメイカーでフリーDL界隈でも馴染みのホシノコプロ製。
【○】乳歯人BEATS a.k.a. DJ Koki『ATOM's』
2012.11.17 / 全15曲49分 / 320kbps(m4a) /
SoundCloud
かなり驚かされた1本。乳歯人ビーツは東京在住20歳のトラックメイカーで、自身の
サウンドクラウドに頻繁に日本人ラッパーの新作リミックスをアップしている。しかしそれらは視聴のみでDLできないために音をこれまで耳にすることがなく、精力的に活動しているのを登録したRSSで確認するに留まっていた。その彼がついにミックステープを出すということで、それらのリミックス作が収録され、ようやく手元で聴けるものとホクホクしながら音楽プレイヤーのスイッチを押したら、それはもう凶悪なベース・ミュージックが迸り、鼓膜を直撃したものだから、驚きと共に楽しくなってきて思わず笑ってしまった。
ジャンル名にはかなり疎いので、先のベース・ミュージックという言葉が適切なのかも不明だが、リンク先のタグには、EDM、afrojack、house、wobble、brostep、skrillex等が並ぶ。音の名称はともかく、体ではっきりと分かるのは活力がみなぎる音楽ということだ。学生の頃、バイト前にRage Against The Machineを聴いていたのと同じ効果を得られることは間違いない。
この夏の
BBOY PARKでは秋田のラッパー羅漢のバックDJを務めているのを見ていたし、もっとオーソドックスなヒップホップビートを奏でるトラックメイカーだとばかり思っていたものだから、本作でのビートの狂奔には本当に驚かされた。素材として日本語ラップも使われていて、その扱いの酷さ(褒め言葉)も楽しませてくれる。全く予想していなかったからこその意外性の面白さもあるが、この手の音には普段は縁がないものの、それでも楽しませるのだからかなりの良作なのだろう。
【○】HOME WORK『ContRasT EP』
2012.11.18 / 全5曲19分 / 160kbps /
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あおりんご、SPU、LOOPの3MCのグループ。今年の
BボーイパークのMCバトルでは3人共ベスト16に勝ち進み、同門対決までしていた彼らの初音源。あおりんごはActiveとのコラボ作(
DL先)で好感触だったので期待させたが、3人共SALUが撒き散らすウィルスをモロにかぶってしまい、どうにもいただけない。ZeebraがKjに対して怒っていた意味を考えれば、今はやっているそのフロウをそのまま取り入れることのだささに気づくはず。
【○】KERNEL『de-View [配信版]』
2012.11.21 / 全15曲56分 / 192kbps /
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breakerbeats名義でトラック制作もこなす宮崎出身、現在は横浜在住22歳のラッパー・カーネルの初作。フリーでも2本のミックステープ(
DL先)を発表している名古屋のSOARAと繋がりがあるようで、本作でも数曲で客演している。カーネルが無料配信していたKREVAのシングル曲のリミックスを聴いていたので、その影響を多分に受けたラッパーとの認識しかなく嫌な予感だけがあったが、いざ耳を通してみると、意外にも先に挙げたソアラほどのクレバの模倣はなく、ややハスキーながら鼻にかかるラップは心地良く、自作トラックやフックでのメロディの助けもあり、ポップで聴きやすい作品になっている。
ただ、技術的にも内容的にも抜きんでたものがあるわけではなく、"昭和を知らない平成時代Kidz 教科書にはない経験したいシーン 昔話ばっか書いた4分間よりも未来を見据えた3分が俺らには響く"とありがちな若者の主張を散りばめた当たり障りのない耳に優しい曲ばかりだ。
彼に限った話ではないが、ラッパーとしては22歳は若いのだけど、20歳を超えた人間がキッズや"ガキ"と自称し、"大人"との対立軸に自身を位置づけるのはどうなのだろう。特に社会的なテーマを扱う際には。別れを描くM12はスキットがひどくお寒いものの、ビニール傘が増えていく描写が良い。
【○】SKM『バナナとドーナツと、それからのうとうと』
2012.11.21 / 全5曲12分 / 320kbps /
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これまでもフリーDLで曲を発表してきた兵庫のソロラッパー・かるまtheZIPPERと、埼玉のshunsk.12、それにトゥイッター等で知り合った仲間の無料配信曲用のジャケットを制作しているsaru masterの3人が結成したグループの初音源。本職はかるまザジッパーのみで不安しか覚えないが、M1ではその彼のフロウの良さも手伝い、意外に楽しめる。しかし、曲が進むごとに質が落ちていくのは否めない。スキットが2曲で実質3曲入り。
【△】RAq『TwiRAq』
2012.11.21 / 全12曲42分 / 320kbps /
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前作(
DL先)を持ち上げて次作で落とすなんてことはなんとも芸のない書き方だと自覚しているが、しかし作品の出来を正直に書くと残念としかいいようがない。
声にエフェクトを掛け荘厳な雰囲気を漂わせながら歌い出す冒頭には、オッ次はこう来るのかと期待させるものがあるけれど、続いてビートが鳴り出し、持ち味のスワッグなラップがかぶさると、両者のちぐはぐさに戸惑うことになる。こんなに空疎なラップだったかと首を傾げながら、M3に辿り着くとこれまでなかった恋愛をテーマにしたメロウなラップが披露され素直に惹かれはするも、その油断が災いしM4やM5での酷い客演者に頭が痛くなり始め、息もたえだえにM6に至ってみれば、そこではより奇形なラップを披露するEscar5otにラックが見事に食われている始末。
ラップで成功したいと歌うM11など楽しませてくれる曲も収録されてはいるし、ラップ自体はまさに今こそ光り輝くスタイルであり、かっこいいのは確かだ。問題はトラックにあるのかもしれない。前作は有名曲のリミックスであり、その完成度は保証されていた。今回オリジナルを揃えるという挑戦を買いはするものの、特に前半はラップを下支えする出来ではなく、反対に足を引っ張り、さらに客演陣が本来は鳥のように空を軽やかに舞うはずの彼の両の翼を無残にもいでいる。
【○】菊禅『COOL DUCK MUSIC vol.1』
2012.11.21 / 全12曲44分 / 192kbps /
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長野県は松本在住の24歳のソロラッパー菊禅の、5月の6曲入りミックステープ(
DL先)に続く、今年2本目のフリーDL作。8月下旬から11月上旬まで彼がニコニコ動画上で行っていた、毎週水曜日に新曲を1曲アップするという企画をまとめたものになる。ニコ動に挙げていたからといって、いわゆるニコ動ラッパーたちの線の細い声ではなく、実戦をしっかりこなしているMCの太いラップであり、週一ペースで作っていたにしては安定した品質を保ってもいるも、ラップからだけではそれ以上の魅力を覚えない。
【○】DUMMY & DJ開斗『ARDENCY ACT』
2012.11.22 / 全7曲19分 / 320kbps /
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これはかっこいい!"京都の若手リリシスト大本命"という安易な煽りにはたいてい鼻白むものだけど、今回は思わず頷いてしまいそうになる。21歳になったばかりのダミーのラップにはILL-BOSSTINOが北の大地で大切に抱え続け、今は田我流に手渡したのと同種の"熱さ"がある。日本語のイントネーションを崩すことで流れるフロウを作り出す今の主流のスタイルを採用しないでも、やや武骨なグルーヴではあるものの、それでもしっかり首を振らせるラップができることを証明している。太いビートもヒップホップ美学そのものであり、ラップスタイルとがっつり四つに組んでいる。京都は今面白そうだ。
【○】OMSB『Before Last Meal』
2012.11.24 / 全10曲27分 / 320kbps /
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『地獄』『Kitajima "36" SubLaw』『Shaolyn Smelz(笑)』に続く、SIMI LAB率いるオムスビーツの今年4本目のビート集。"昔の楽曲を集め"たということで、それほど興味深い音が詰め込まれているわけではない。というよりも先月ようやくリリースされたファーストアルバムを聴いた今となってはフリーでの楽曲と売り物との乖離があまりに大きすぎて、アルバムの前ではほとんどの楽曲が色褪せてしまう。まだ未聴ならば、そちらを先に聴くことをお勧めする。本作でいえばM4〜6の黒さ(ファンクネスという意味での黒さではなく)をさらに煮詰めさせた深い闇を、丹念に鍛え上げた強靭な筋力に乗せることで、まるで暴走する蒸気機関車のような楽曲が揃うアルバムに仕上がっている。
【○】JohnIll, the deadbeat dictator『The Deadbeat Dictator EP』
2012.11.25 / 全7曲16分 / 320kbps /
bandcamp
3月に故郷をテーマにしたビート集(
DL先)をirish名義で発表している長崎のトラックメイカーIrie Yoshihisaが今度はジョンイル・ザ・デッドビート・ディクテイター名義でヒップホップビートを紡ぎ出したのが本作。前作を聴いた時には全く知らなかったのだけど、よくよく検索したら
Discogsにもページがあったりと、キャリアの長いアーティストのようだ。M1から悲しみに満たされニンマリするが、基本的にはシンプルなビートが多く、明るい上音とは対照的に地で蠢く低音が面白いM4に惹かれる。
【○】宇宙忍者バファリン×DJ HARAKIRI『ibitsu』
2012.11.25 / 全7曲22分 / 320kbps /
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新潟県上越市で暮らし、2010年のUMB新潟代表でもあるソロラッパー・宇宙忍者バファリン。彼が4月にリリースしたアルバムではDr.FDとタッグを組んでいたが、本作でも同じく同郷のトラックメイカーDJハラキリと手を結び、商品であるアルバムと変わらない熱いラップを吹き込んでいる。早口でのラップを持ち味としていて、そのスタイルこそは違うものの、昨年24歳の若さで急逝した不可思議/wonderboyがもしラップをし続けていたら、やるせない日常を怒りや諦念を込めつつ少しの希望と笑いを含んでこんな風に綴っていたのかもしれないと思わせるラップでもある。
宇宙忍者バファリンなどと名乗りながらも現在28歳だそうだ。ラップは若者の音楽という一面もあり、若さが重視されがちだけど、大方のポップスとは違い一人称の表現であり続ける限りは、現実離れしたリリックに向かうよりも彼のように社会人、一生活者としての日常や年を経ることで得られる経験をラップにすることは素晴らしいことであり、ファンタジーに逃げることのないラッパーがもっと出てきて欲しい。
【○】大吉郎 & DJ tiga『THE NEW SHIT DELIVERY Vol.1』
2012.11.30 / 全22曲63分 / 192kbps /
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初めて名前を聞くラッパーだけど、客演には名前を覚えているラッパーがちらほらといて、今注目のSMOKIN' IN THE BOYS ROOMからはAce za STが参加していたり、vanadian effectの3人も顔を揃える。大吉郎は、jjjや数か月前にミックステープ(
DL先)を発表した3&ONEが所属するレーベルFive Star Recordsを率い、またYoung Drunkerという、時々フリーDLの単曲に参加しているmutaもいるグループの一員でもあるそうだ。abのような青森のラッパーもいるが、基本的には東京を中心に活躍するラッパーたちが多く参加し、いかにもヒップホップらしい男臭いラップが詰め込まれている。こういう集団芸の中にひとりでも女性ラッパーがいれば、華やかさが演出されるのだろうが、この村は男社会を基本としているためにそんなことすら難しい。
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<まとめ>
2010年〜2011年1月〜9月分
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2012年1月分
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2012年2月分
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2012年3月分
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2012年4月分
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2012年8月分
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2012年9月分
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2012年10月分
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・「JPRAP.COM presents "The Se7en Deadly Sins"」 →
記事(2011.05.26記)
2010年の主要フリーダウンロードミックステープについてもある程度まとめてある。
・「昨今の国産ヒップホップ・無料DLミックステープ事情」 →
記事(2011.09.30記)
2011年前半の作品に焦点を当てて書いた記事。
・「VA『Fat Bob's ORDER vol.1』」 →
記事(2011.10.07記)
記事の最後に名古屋関連のミックステープのまとめがある。
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