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2021.02.10 Wednesday | - | - | -
無料配信ミックステープ1月号(2013)
毎月発表される日本語ラップを中心としたフリーダウンロード・ミックステープの一覧記事を今年も可能な限り続けていこうと思う。早速2013年1月に発表された作品を紹介。ヒップホップ情報サイトのJPRAP.COM2Dcolvicsにアップされたミックステープを扱うため、アップされた全ての作品を扱えているわけでは当然ない。あしからず。

<"これだけ聴いとけ作品"を簡潔に教えてくれというせっかちな人のための3枚>

左が昨年アップした1作で確かな信頼を得たCBSの新作。真ん中は東京/池袋らしいラップを繰り出す有望な新世代グループ。右端はネットを中心に活躍する北海道のラッパー兼トラックメイカーの歌物中心のミックステープ。ジャケットをクリックするとDL先に飛びます。



【○】Flying96 & 07ch RECORDS 『07ch Mixtape Vol.01 Mixed By Carrec』
2013.01.01 / 全13曲31分 / 192kbps / datpiff
Flying96×CARREC名義で7チャンネルレコーズから昨年アルバムをリリースした金沢在住の気鋭トラックメイカー・キャレックが相棒フライングクロのソロ音源を中心に、レーベルメイトのC.R.E.A.M SODAZや女性ラッパー・メリアス♀、未発表のリミックスを織り交ぜたもの。DJ CO-MA作への参加曲のキャレックリミックスはおいしい。大雑把に括るとMIDICRONICA周辺は聴くのにリスナーの努力を要するものが多い中、無料の紹介音源集は嬉しい。


【○】Andherpackage 『Timeless.LP』
2013.01.01 / 全18曲36分 / 320kbps / bandcamp
配信終了。2013年も元旦から元気なNaoto Taguchiの別名義でのビート集。今年も楽しませてくれそうだが、トゥイッターの呟きによるとこの名義での活動は終了だそう。Amebreakで始まった楽しみな新企画「BEAT SCIENTISTS 〜HIP HOPのおとづくり〜」(link)で、是非とも取り上げて欲しいトラックメイカーのひとり。


【△】TMU 『New G Old』
2013.01.01 / 全9曲26分 / 160,192,256,320kbps / YouTube
共に20歳の大学生のPANDA ILL BURNINGとIVIALによるラップユニット。昨年発表されたLow High Who?の青田買いフリーコンピにも収録された実績を持つが、こうしてまとめて聴いてみると学生のお遊び。特徴のないラップにテコ入れしたいのかわざとらしく変化させたフロウは耳障り。ラップしたいテーマがないならせめて人とは違う言葉を意識した方が良い。


【○】大村コウヘイ 『宇宙と僕』
2013.01.02 / 全10曲32分 / 128,192kbps / Twitter
北海道在住23歳のソロラッパー・大村コウヘイ。昨年8月以来の新作。前作は全16曲62分と手軽に聴くには大変な重さだったが、今回は30分と聴きやすい。独特な言葉使いや露悪に走りがちな表現をややハスキーで圧力のある声でラップするのが彼の持ち味だ。そこに魅力を覚えるが、以前あった闇雲なエネルギーが今回削がれ、メモしたいと思わせるほどのパンチラインにも乏しく、惹きつけるはずの声に飽きが生まれる。16曲も放り込んだことで生まれた力場ではなかったはずだ。


【○】DOMINO-P 『#musiclife』
2013.01.04 / 全17曲44分 / 320kbps / Tumblr
北海道の25歳のソロラッパーのミックステープ。ラップ自体には一定の実力を確認できるが、酒、大麻、ライフイズビッチ、ファックバビロンといった当たり障りのないリリックを聴いていると宝の持ち腐れに思える。しかし、北海道の若手が顔を揃えているので普段なかなか聴くことができない新鮮なラップを楽しめる。


【○】Kaitei Eki 『Œuvres II - AUBE INSTRUMENTALS』
2013.01.05 / 全16曲56分 / 320kbps / blog
かつてあった日本語ラップWEBマガジン「COMPASS」の執筆者のひとりとして活躍し、今はCompass Posseでラッパー、あるいはプロデューサーとしても腕を振るう歪Rが、この2年間にKaitei Eki名義で発表してきた楽曲のインスト集。際立つ個性はないが、理知的で落ち着いた音の連なりは彼の文章の筆致にも似ていて面白い。


【○】Kaitei Eki 『Œuvres I - 2005-2009』
2013.01.05 / 全11曲47分 / 256kbps / blog
上記のカイテイ・エキが同時に発表した、"2005年から2009年までの初期作品から11曲セレクト"したビート集。制作年順に並ぶのでその歩みがよく分かる。


【○】Hyrakane 『Hyrakane J-HipHop Remix Vol.1 INSTRUMENTAL』
2013.01.06 / 全8曲32分 / 320kbps / bandcamp
広島出身のトラックメイカーHyrakaneが昨年6月に発表したミックステープ(bandcamp/配信終了)のインスト版。KREVAやRHYMESTER、NORIKIYOのラップがなくなっても十分聴き応えあるが、逆をいえば記名性のあるラップ強者だけが乗せられるビートともいえるわけで、平均的なラッパーが気軽に手を出すと痛い目見そうだ。


【○】秀吉a.k.a.自称アイドルラッパー 『Alter Ego』
2013.01.09 / 全6曲18分 / 320kbps / Twitter
一週間限定配信。昨年5月の『第壱拾弐次元』に続く20歳の女性ラッパー秀吉の新作。前作でラップはお粗末ながらも何か光るものを感じたが、今回は周辺のトラックメイカーからオリジナルトラックを供給され、意欲的な作品となっていながらも、ラップそのものが以前のままほとんど階段を登ることをしていないため、期待外れに終わる。これならばラップやトラック、音質、キャラクターすらも素っ頓狂な前作の方がまだ面白い。


【○】DJ 41 a.k.a. another sun 『2013 New Year Beat Tape』
2013.01.11 / 全7曲13分 / 320kbps / bandcamp
あのMeisoも参加したファーストアルバムを昨年リリースしている、神奈川県は海老名市在住のトラックメイカーの新年一発目のビート。アマゾンで宣伝文を読むとオシャレなジャジー路線の音を構築する人と思ったが、想像以上に骨太なビートを鳴らす。有料盤で出す楽曲の土台のようにも思えるけれど、変に甘い仕上がりになるよりは本作のような武骨さはずっと好ましい。


【○】KOITAMA 『Love Ya Like』
2013.01.12 / 全11曲25分 / 320kbps / HP
埼玉県熊谷市在住のラッパー兼トラックメイカー・コイタマのミックステープ。平熱のフロウで日常のよしなしごとを次々と言葉にしていくラップはERAを彷彿させる。それはつまり私には"フィール"しないということだけど、真のヒップホップ好きを惹きつけるラップではある。だからこの手のラップにはいつも疎外感を味わう。その中でも自身の音楽好き度合を綴るM5はいい。サンプリングを生かしたビートはさすが自作だけあってラップとよく混じり合っている。強面な顔を作らなくても言葉がラップとなって自然にこぼれ出せば、それがヒップホップになることを体現している作品でもあり、それは素晴らしいことだ。


【○】Kentbig Maler 『D.E.M.O vol.1 〜Disco, Eros, Manko, Oppai〜』
2013.01.13 / 全10曲30分 / 192,320kbps / Twitter
就業時間中は全く呟くことをせず真摯に勤務し、夜は大好きなラッパーが訪福すれば喜び勇んで駆けつけステージの真ん前でアーティストのラップに全力でかぶせていく。そんな福岡在住のアマチュアラッパーがはやりの洋楽やBACHLOGICトラックの上でフリースタイル一発録りをし、これまでサウンドクラウドに挙げていた楽曲をまとめたのが本作となる。新曲はM9のみ。

一昨年末ぐらいからフリースタイル音源を発表し始めた彼のラップを改めてこうして聴いてみると、リリックの酷いこと酷いこと。それは副題を見ても明らかなので、万が一聴いてしまい、苦情を訴えたい人は私にではなく、本人に直接どうぞ。しかし、同時に思うのは、凡百の自称ラッパーたちが決まり文句のような当たり障りのないヒップホップ・イディオムを並べ、刺激など皆無なラップしかしないのに比べたら、彼の、時に破綻しかかるフロウが繰り出す、下劣で露悪で聴くに堪えない歌詞の方がはるかにキャッチーであり、ユニークだし、子供のように純粋だ。

クラブでナンパし付き合い始めた彼女がひょっとしたら自分にとって生涯の女性になるのではと考え始めた矢先に別れを切り出され、猛烈に落ち込んだ彼がどん底からの再生を誓うM5と、亡くなった友人を悼むM8だけは名曲だから聴くべきだ。

また、「Yonkers」に乗せたM3は記念すべき初期音源であり、初期衝動の横溢に目を見張る。M4ではフックのアイディアに驚かされるし、彼が敬愛するSALUの楽曲をある意味嘔吐物まみれにするM6でのアナーキーさは特筆に値する。強くなると誓ったが、酒で悲しみを紛らわす日々が続く。そんなある日の物悲しく降る雨に彼女の横顔を思い出すM7ではメロウなリリックが冴える。

そもそも自分の名前を宣言する冒頭のM2のラップに彼の全てが詰め込まれているし、LMFAOをリミックスする新曲M9も忘れてはならない。

とりあえず落した方がいい。そして苦情は全て@DBP_rep_DKにお願いしたい。


【○】ピスタチオスタジオCBS 『ピスタチオEP』
2013.01.14 / 全9曲28分 / 320kbps / bandcamp
昨年7月にフリーに変えて配信した前作(視聴のみ)で、一部の落ち着いたヒップホップを好む向きに絶大な信頼を得た(はずの)のCBSの新作。ワンループで十分惹きつける上音とヒヨることをよしとしない武骨なビートが作り出すジャジーなトラックは、ラップが少しぐらいアレでも聴けてしまうという好例。瘋癲やFullmember、Roundsvilleが好きなら気に入るはず。革新はないが決して飽きのこないヒップホップ。


【△】FrostBite 『韻ception』
2013.01.20 / 全13曲32分 / 256,320kbps / Twitter
ニコニコ動画で活躍する冷孤とSELLERのラップユニットのミックステープ。ミキシングがまあ酷い。ラップ作品なので目立たせたいのも分かるが、ここまで耳が痛くなると、折角落としても聴かずに終わる人がいてもおかしくない。作品名から明らかなように押韻重視のラップだ。内容がない上にグルーヴに貢献しない押韻はただの言葉遊びでしかない。"意味なんか捨てて耳ん中すべて韻で埋めることで快感を得る"と自覚はしているよう。


【○】SAI BEATZ 『SAI BEATZ LOST TAPE』
2013.01.20 / 全11曲39分 / 256kbps(m4a) / blog
最近は一般流通作にそのビートが使われ始めているサイビーツが、"2006年から2009年ごろ作って寝かしていた楽曲"を放出。PUNJUとJeweillのふたりのラッパーのソロ曲となっている。現在のサイビーツが作る間口の広い音とは違い、猛々しくもがむしゃらな推進力のあるビートで、両者の強面スタイルのラップを支える。それと同時にハーコーな雰囲気の中にもポップさが隠されていて、今に繋がっているのかもしれない。


【○】sk 『車内恋愛』
2013.01.20 / 全7曲16分 / 320kbps / Twitter
ラップユニット・シロクロとして活動し、現在はK.H.BROTHERSというネットで知り合った仲間で組んだグループの一員でもある北海道のラッパー兼トラックメイカーのソロ作。こうして無料配信のミックステープや音源に接していると時々才能の原石と思えるアーティストに行き当たることがある。それは私の好みと合致しているだけで、世間的に評価されるかどうかという話ではもちろんない。本作はラッパーが作ったポップス作品で、粗いギターを利かしたM2やM3の歌メロはかなり素敵だ。低音でのラップが魅力のALWAIOが参加しているM6では仲間のDROやkoedawgにも通じる20代前半の若者の惑いが率直に綴られている(そういう意味ではM3の歌詞にも惹かれる)。最後には思わず笑ってしまう落としどころが作られていて、重い気持ちを抱えたままオロオロせずに済む良い配慮だ。


【○】Beats Zan 『Beats Zan Remixies Vol.4』
2013.01.23 / 全10曲40分 / 320kbps / Twitter
弱冠20歳のトラックメイカーが早くもシリーズ第4弾を配信。今回は00年代前半の洋楽ヒップホップとR&B。NasやJay-Z、Pharrellといった記名性の高いラップ曲とはいえ、Salaam Remiや9th Wonder、Stargate、Kanye Westらが手掛けた原曲との戦いにもなるわけだけど、彼はかなりの善戦を見せる。特にM7での落ち着き払った手腕は見事。その後のR&Bパートは、歌メロの力も大きいのだろうが聴き応えがある。


【○】buddha donuts『dusty buddha tape』
2013.01.23 / 全6曲13分 / VBR / bandcamp
お題ビートをネタに72時間でトラックを作る企画を以前行っていたBeat Train Recordingsが新たに始めた"Monthly Beat tape series"の第3集。月刊と銘打っているが10月以来となる。今回は同レーベル所属のブッダ・ドーナッツ。はらドーナッツのような健康志向だかなんだか知らないが食べた気にもならない軟弱さだったらどうしようと思ったが、オールドファッションドーナツみたいなしっかりとした作りのビートに仕上がっていて美味。


【○】Fla$hBackS 『FLY FALL』
2013.01.24 / 全5曲13分 / wav / Twitter
ラッパー兼トラックメイカーの18歳Febb(TETRADのSperbとのユニットCracks Brothersとしても活動)と23歳のjjj、それとライブDJのKID FRESINOによる、来月13日リリースのファーストアルバムも待たれている東京の3人組グループ(結成などはototoyのインタビューに詳しい)。脈々と受け継がれている東京の地下ヒップホップの新たな担い手。これも真のヒップホップ好きにははまる音とスタイルなのだろう。


【○】K.H.BROTHERS 『ハチ』
2013.01.24 / 全18曲58分 / 160,320kbps / Twitter
KHブラザーズとは、数日前にソロ名義作を発表したskや、フリーDL界隈でその独特な呟きと共に着実に名前を浸透させているDRO、女性ラッパー・メガネの3人を中心に他4名を加えた総勢7人のグループらしく、活動の中心や繋がりもインターネットのようだ。大人数でのマイクリレー曲を始めとした多くの楽曲は"ラップが趣味"といい切っているに等しい出来だが、M15を聴けば明らかなように実に楽しげでそれはそれで幸せそう。skのソロに近い路線のM9と中心の3人が光るM16は聴いて損はしない。


【○】VA 『FOGPAK #5』
2013.01.25 / 全32曲82分 / VBR / bandcamp
あるお題に沿った楽曲をネット上で募集し、無料配信コンピとしてまとめる企画の第5弾。以前聴いたのが第2弾だったが、シリーズは続いていて収録曲の多さからも人気が高いようだ。今回のテーマは"雪の毒"。確かに"雪"をイメージさせるインストが多い。後半にまとまっているとはいえ、"毒"成分が全体的に弱い。また、企画の性格上編集が難しいのも分かるけれど、82分はさすがにボリュームがありすぎだ。気になったのはM2、3、19、20、22。PARKGOLFが1曲目で参加している。


【○】SHABRINA QWAINA 『crazytricking』
2013.01.25 / 全6曲18分 / 256kbps(m4a) / Twitter
グループ名を見た時、どう腐してやろうかとそれだけを考えていた。で、素性を全く知らないまま開始ボタンを押すと流れてくるのは、ジャケットにもあるように池袋のクラブbedを連想させるラップスタイル。気負うことなく緩くまったり、時にタイトに吐き出されるラップはそれはもうかっこいいもので、認めざるを得ない。初めて聞くグループだが、東京でも上記のフラッシュバックス共々確かな実力を身に着けた新世代が現れ始めている。


【○】Otomitsu 『APOLLO BEATSSS vol.1』
2013.01.30 / 全6曲11分 / VBR / bandcamp
Takuanらも所属するOddboseの一員であるオトミツの新作ビート集。"今年は毎月ビートテープ出して"いくと宣言しているので、サンプリング主体の活きのいいインストを期待できそう。


【○】VA 『Finest Ego Japanese Beatmaker Compilation』
2010.09.01 / 全12曲38分 / VBR / bandcamp
期間限定無料配信。ベルリンのネットレーベルFINEST EGOが企画した各国のビートを集めたコンピ集のうち、2010年に配信された日本版。1月30日から5日間5000DL分を無料配信可能に。Olive OilやEccy、Budamunk、ichiro_、Himuro Yoshiteruらの音が取り上げられている。M11と12が刺激的だ。




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<まとめ>
2010年〜2011年1月〜9月分 Tegetther
2012年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月

・「JPRAP.COM presents "The Se7en Deadly Sins"」 →記事(2011.05.26記)
  2010年の主要フリーダウンロードミックステープについてもある程度まとめてある。
・「昨今の国産ヒップホップ・無料DLミックステープ事情」 →記事(2011.09.30記)
  2011年前半の作品に焦点を当てた記事。
・「VA『Fat Bob's ORDER vol.1』」 →記事(2011.10.07記)
  記事の最後に名古屋関連のミックステープのまとめた。
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2013.01.31 Thursday 23:59 | 音楽 | comments(2) | trackbacks(0)
崖っぷちの男 / Man on a Ledge

88点/100点満点中

サム・ワーシントン主演による2012年のサスペンス・アクション。共演は出演作を意外に見ているはずなのに顔と名前が一致しないエリザベス・バンクスに、ジェイミー・ベル、大病患ったのかと思うほど痩せたエド・ハリス。製作費4200万ドル。

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マンハッタンのマディソンアベニューと45番街の一等地にある高級ホテルのルーズベルトホテル。30億円相当のダイヤモンドを横領した罪で服役し、父の葬儀を利用し脱走した元警官のニック・キャシディは21階の部屋の窓枠を乗り越え、地上60m幅30cmの縁に立ち、今にも飛び降りようとしていた。彼に指名されたNY市警の女性交渉人リディア・マーサーが説得に当たるが・・・。
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これはよくできたサスペンス。地上60mにあるわずかな縁に立ち、自分は無実だと訴える元警官のニック。それを止めようと説得する女性交渉人リディアは、男とのやりとりを通してどこか不自然なことに気づく。それもそのはず、ニックがその縁に立つ第一の目的は自殺ではなく一帯の注目を集めることだからだ。それというのも向かいに建つ不動産王デヴィッド・イングランダーの事務所が入るビルに、彼の弟ジョーイ・キャシディとその彼女アンジーをひそかに侵入させるために彼が取った妙手だった。

周囲の注目と警察の関心をできるだけ長く自分に向けさせようとするニックと、素人丸出しな侵入劇を繰り広げるジョーイとアンジー。どちらもハラハラさせられながらも、後者のふたりのやりとりは軽妙で緊張感の中にも笑いがあり、いい塩梅だ。単純にアンジーを演じるジェネシス・ロドリゲスが美人ということもあるが。

3人が狙っているのは不動産王デヴィッドがニックを罠にはめ、彼にダイヤモンド泥棒の罪をなすりつけた、その当のダイヤだった。それを奪うことはニックの無実の証明になるからだ。3人が2年間かけて立てた綿密な計画がことごとく当たり、狭く不安定な高所からニックがふたりに指示を送りながら、相手の行動の裏をかいていく様は爽快そのもの。

そうして彼ら3人の目的が達成されようとした時にやはり狂いが生じる。そこからクライマックスにかけては、それまでの"静"から"動"に一気に移り、同時に思惑が複雑に絡み合う真相をも浮かび上がらせる。その展開はまさに息を飲むという良くある惹句ではあるが、でもそれを珍しく実践している終盤といえる。

かなり面白い。オチも良い。当初見えていた状況よりももっと深い闇が姿を現すのも良い。ただ、なんだかもったいない気にもさせられる作品ではある。脚本と演出は間違いなく最高に近い。演技も悪くない。今回の髪型のおかげもあって同郷のメル・ギブソンの若い時を彷彿させるサム・ワーシントンは本作のヒロインと同じく毎回顔が違っていて、一向に顔を覚えられないのだけど、よく健闘している。ニックの元相棒マイク・アッカーマン役のアンソニー・マッキーは『アジャストメント』でも印象的な演技をしていた若手の黒人俳優でこれから伸びていきそうな俳優さんだ。他の役者も文句のない演技を披露する。

ひょっとしたらカメラと編集がいまいちなのかなとも思うが、どうだろう。カメラは『マイ・ボディガード』や『デジャヴ』でトニー・スコットと、あるいは『コラテラル』でマイケル・マンとも仕事をし、最新作はリメイク版『トータル・リコール』となる。どれも悪くなかった。臨場感のあるいい絵だったと記憶している。かたや編集のケヴィン・スティットは『キングダム/見えざる敵』や『クローバーフィールド/HAKAISHA』、最新作はトム・クルーズ主演作『アウトロー』だ。両者とも楽しんで見た映画に関わっている。でも先日鑑賞した『リンカーン弁護士』は法廷サスペンスではあっても軽快なカット割りやカメラワークが肝となり、作品をより面白くさせ動きを出していたのを思い出すと、どうもその点で本作は弱かったように感じられる。細かい技術的なことは分からないが、後半に向け緊張感が高まっていく中で、展開は面白いのに、映像にばたつきを感じてしまうのだ。
2013.01.31 Thursday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
リンカーン弁護士 / The Lincoln Lawyer

79点/100点満点中

マシュー・マコノヒー主演による2011年の法廷サスペンス。共演にはライアン・フィリップ、ウィリアム・H・メイシーら。製作費4000万ドル。

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リンカーン・コンチネンタルの後部座席を事務所代わりにLAを忙しく駆け回り、司法取引を最大限に利用し軽い刑に収める戦略で依頼人の利益を守るやり手弁護士ミック・ハラー。資産家の息子ルイス・ルーレの弁護というおいしい話が舞い込む。ルイスが女性に重傷を負わせたとされる事件で、いつものように司法取引に持ち込むだけで高額の報酬が舞い込むはずだったが・・・。
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マシュー・マコノヒーが出ているだけで敬遠することが多い。ちょうど映画を見始めた頃に彼の出世作『評決のとき』(1995)が公開された。黒人差別をテーマにした同作は主演だった彼の若手弁護士役も素晴らしく、ずいぶんと感銘を受けたものだけど、その後の出演作が大作ではあるもののどれも大味な印象を否めず、作品選びのセンスがない俳優と断じていた。が、各所での本作への評価を聞き、手に取ってみたらこれが面白い。マコノヒーというハンサムな白人俳優だけど、どこか胡散臭さをまとうイメージが、"社会のゴミを出しっぱなし"にする刑事弁護士ミック・ハラーにふさわしく、2005年に発売された本作の原作もその後順調にシリーズ化されているようだし、映画でも彼を主演に2作目、3作目と続くならぜひ見てみたい。

悪党であっても依頼がありたんまり料金を貰えるなら、弁護を快く引き受ける弁護士ミックには、別れた妻マギーにも理解されないが、一応の信条があり、罰するべき悪人を世に放つだけの悪徳弁護士ではない。しかし概ね金次第ではあり、今回も通常業務でボンボンの依頼人ルイスに司法取引で刑の減刑に導こうとする。が、彼は自身の無罪を主張する。

被害者の娼婦を半殺しの目にあわせたのは一体誰か。彼女が主張するようにルイス・ルーレなのか、ルイスが証言するように策略なのか。物語は次第に思わぬ方向に進み始める。被害女性が受けた暴行痕が、以前にミックが携り、依頼者が無実を主張したものの、確たる証拠がなく司法取引に応じさせ死刑を免れ終身刑で服役させたヘスス・マルティネスの事件と酷似しているのだ。

ミックは自分の周りに知らぬ間に張り巡らされている罠に気づき始める。弁護士と依頼者間の"秘匿特権"を始め、裁判の原則や弁護士の規定を逆手に取る戦略は巧妙を極め、ミックが真犯人を悟る頃にはすでに時遅く身内までもが脅かされる。法廷内では陪審員を前に弁護人を救う方便を強いられ、法定外では命の危険を感じるほどに追い詰められていく。裁判制度という厳格な規定に守られている中で彼は窮地をどう脱するのか。その妙技とダーティな彼だからこその制裁など、最後まで特異なキャラクターを生かした作品になっている。

ややテレビドラマを彷彿させるほどに身軽なカメラワークは、最初こそは違和感を覚えるが、そのスピード感が次第にミックの動きや物語の展開の速さに合っていることや、その軽さがあるからこそリンカーン弁護士というこれまでにない弁護士像を作り上げていることにも気づく。

周りを固める俳優たちには目立って派手なのはいないが、実力派揃いであるのも良作にしている要因のひとつだろう。最近では『レスラー』で年増のストリッパーを演じたオスカー女優マリサ・トメイや、『J・エドガー』ではリンドバーグ役で出演し、最近見たのだと『ミッシング』で主演していたジョシュ・ルーカスは今回はミックと法廷で争う検事役で活躍する。ミックにルイスの件を紹介した保証金立替業者ヴァルに扮するのはジョン・レグイザモ。昨年鑑賞したギレルモ・デル・トロ製作のメキシコ・エクアドル映画『タブロイド』でも印象的な演技を披露していたコロンビア生まれの俳優だ。免罪なのに終身刑に服しているマルティネスにはマイケル・ペーニャ。その出演作一覧を見るとたいてい鑑賞していることに気づく。他にも名脇役は多く出演しているが、何よりも笑ったのはウィリアム・H・メイシーのメイク。登場するとなぜかホッとする俳優というのはいるもので、彼もそのひとりだ。安心する。


最後に、ヒップホップファンにとっても音楽的に興味深いかもしれない。オープニングクレジットに合わせて流れるのは、Jay-Zの「Heart of the City (Ain't No Love)」のサンプリング元の「Ain't No Love in the Heart of the City」だ。ミックが事務所代わりにしているリンカーンに乗ると必ず鳴らされるのがラップ曲で、殺気立つバイカーとやり合った後にはErick Sermonの「Music」であり、Marvin Gayeの歌声と共に場の空気を換える。ルーレ家の顧問弁護士から小金を踏んだくった直後にはEric B. & Rakim「Don't Sweat the Technique」。そして終盤ついに敵をやり込めた後、車内に響くのはGang Starrの「Moment of Truth」だ。エンドロールに流れるのは、そのギャングスタ―の「Check The Technique」の元ネタでもあるMarlena Shawの「California Soul」にサンフランシスコのラッパーYa Boyがラップを乗せた"Lincoln Lawyer Remix"となる。
2013.01.30 Wednesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日 / Life of Pi

94点/100点満点中

2001年に上梓されブッカー賞に輝いたベストセラー小説を、『ブロークバック・マウンテン』『ラスト、コーション』のアン・リー監督が3D映像化。サバイバルアドベンチャー。フランスの名優ジェラール・ドパルデューがチョイ役で出演している。製作費1億2000万ドル。2013年公開作品。

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小説のネタを探しにカナダ人作家はパイ・パテルというインド人男性を訪ね、驚愕の冒険譚を聞く。パイは、かつてフランス領だったインド東部の街ボンディシェリで私営動物園を営む一家に育つ。16歳の時、家族はカナダへの移住を決意。一家は動物たちと共に貨物船に乗り込むが、太平洋上で嵐に遭遇し船は沈没。運良く救命ボートに乗り移れたパイだったが、同じように逃げ延びてきた4匹の動物と相乗りに。中でも"リチャード・パーカー"と名付けられていたのは獰猛なベンガルトラだった。最大搭載30人の小さいボートで巨大な肉食獣との漂流生活が始まる。
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これはまたすごい物語をぶち上げたものだ。原作も当然素晴らしいのだろうが、映像の魔法をふんだんに効かせ、映画だからこそ可能と思わせるほど魅力的な世界をアン・リー監督は作り出している。物語と映像というふたつの巨大な力を正しく、かつ最大限に発揮させているからだ。

127分と比較的長めな上映時間の序盤、パイ・パテルという中年の男が作家に求められるがままに身の上話を語り出す。このパートに結構時間をかけていて、最初のうちはトラと少年とのサバイバル生活の映画を見にきたはずなのに何だか様子がおかしいぞと思うのだけど、インド人が主人公の物語らしく、ヒンドゥー教、キリスト教、そしてイスラム教とかの国に根付いている宗教の話はパイ一家の教育方針のユニークさもあり、次第に楽しんで見られる。

そして大嵐に遭い、乗っていた船が沈む。16歳のパイ少年は大海原に浮かぶ救命ボートにひとり取り残される。ただ、船には人間は彼だけだが、呉越同舟する動物たちがいて、脚を怪我したシマウマ、気性の荒いハイエナ、オランウータンのオレンジジュース、そして問題のベンガルトラの"リチャード・パーカー"だ。彼の父が経営する動物園にそのトラがやって来た直後のエピソードもあり、人間と動物(それはあるいは"神"もそうなのかもしれない)という決して相容れない関係は、生存を賭けた現実的な対立以上の意味合いを含ませながら、その時々で距離感は違うものの物語の最後まで緊張を持続させる。

そうして始まったパイの漂流は、トラとの関わりに注意しながら、何とかして食糧確保に苦心するサバイバル生活であり、ひとつの失敗から多くを学び、自然の大きさに感動し畏怖しその無情さに嘆く日々となる。

本作は3Dだ。たいていの3D映画にとってその技術は不要であり、このブームが早く去ればいいと願っているわけだけど、本作の主人公パイや観客が洋上で目にする光景の数々は今まで見たことのない事象が多く、『アバター』がそうであったように、非現実的な印象を強く抱かせる3D技術がうまく機能している。

物語の後半、不思議な島(寝釈迦の形をしている)に漂着するなど、回想という形を取り現実に起きた話という一応の設定にも関わらず、幻想的にも限度があるだろうと感じる展開を辿る。それ以前にもあったいくつかの不可思議すぎる現象には目をつぶってきたが、後半に入るとミーアキャットの生態を持ち出すまでもなく不自然さが目立ちだし、3D技術を使い荒唐無稽にやりすぎているのではないかと興醒めしかける。しかし、そんな気持ちをクライマックスのひと言がガツンとやってくれて、目が覚めることになる。その揺れ戻しが本作の本当にすごいところだ。その直前にもめくるめく冒険譚を全否定するシーンがある。それまでの摩訶不思議な体験談を台無しにする演出であり、折角の良質なファンタジ映画を壊さないでくれと見ながら嘆くが、そうしたこと全てをひっくるめた上で、パイは漂流物語の意味を静かに私たちに教えてくれる。

227日間も続いた狭い救命ボートでのトラとの生活という誰もが驚嘆する想像力に富んだ物語と現実。そしてラストでその現実が私たちを襲う。私たちもまた彼らの選択に素直に従うしかないのだ。空想物語のとてもいい面を捉えている本作は、矮小な比較であることを十分理解しているが、月に数回となく映画館に足を運ぶ私たちを肯定しているようで、シンプルながらも3D効果をうまく使ったエンドロールを見やりながら、しみじみと感慨にふけった。


ホームページに掲載の制作ノートやウィキペディアによると、トラは全てCGだそうだ。『ナルニア国物語』を手掛けたCG制作会社リズム&ヒューズ・スタジオの手によるもので、同作を見たリー監督が、"ナルニアのライオンよりリアルにしたい"と依頼したという。正直いって本物のトラを使っていると思っていた。すごい調教師がいたものだと。それほどまでにリアルなのだ。表情、四肢の動き、毛並。CG技術の進歩はハリウッド映画を見てある程度理解しているつもりだったが、見慣れた動物までもがここまで精巧に再現できていることに心底驚かされる。


【追記】2013.02.01
フランスで行われた試写会は臨場感に満ちていたそうだ。劇場の椅子に普通に座っているだけでも、少し酔いそうになる場面があったぐらいだから、主人公パイの心境により近づける鑑賞になったことだろう。→レポート記事
2013.01.29 Tuesday 23:59 | 映画 | comments(0) | trackbacks(1)
ドンファン / Don Juan Demarco

70点/100点満点中

フランシス・フォード・コッポラも製作総指揮として名前を連ねる1995年のコメディ映画。ジョニー・デップ、マーロン・ブランド競演。製作費2500万ドル。

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深夜に呼び出された精神科医のジャックは、飛び降り自殺を図ろうとしているマントに目隠しの仮装男を説得。思いとどまらせる。入院させ、カウンセリングを試みたところ、彼は自分を"ドンファン"と名乗る。メキシコで生まれ育った生い立ちから、アラブ王族のハーレムで暮らした2年間など、荒唐無稽な物語を語り出すが、燃え尽き症候群だったジャックはなぜか惹かれていく。
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不思議な感触のコメディだ。"ドンファン"という言葉は遊び人の代名詞的な使われ方をしている(最近は聞かないけれど)が、その元となる話は17世紀のスペインの伝説上のプレイボーイ、ドン・フアン・テノーリオに由来するという。イタリア語では"ドン・ジョヴァンニ"であり、モーツァルトのオペラの題名にもなっている。

それはともかく、1502人の女性と愛を交わしたと豪語する"愛の貴公子"ドンファンを演じるのは当時32歳のジョニー・デップだ。明らかに虚言癖と思われるし、おかしな格好ではあるのだけど、彼がいるだけで病院の看護婦たちはそわそわし出し、マーロン・ブランド扮する精神科医のジャックに回春効果をもたらす(奥さん役は『俺たちに明日はない』や『チャイナタウン』のフェイ・ダナウェイ)。

カウンセリングを通して彼が語る突拍子のない人生はユニークで、少しずつ影響を受け始めるジャックとのやりとりは面白い。真面目な顔で赤面もののセリフを話すジョニー・デップという図も笑える。しかし、その一方で祖母だという人物が現れ、彼の素性を話し始めると、それまで積み上げていた愛の物語が急に色褪せそうになる。辛い現実を受け入れられずドンファンを語るのか、それとも本当に彼はメキシコ生まれの愛の貴公子なのか。

ただ、オチが説明足らずで釈然としない。そこが不満だが、懐かしのブライアン・アダムズがエンディングで歌い始めて、彼もまたあのハスキーな歌声で愛を説き始めると、美男子とされるデップが女性を目で耳で愉しませる作品であり、ファンにとっては彼が貴公子然としているだけで十分なのだろうと悟ることができるし、映画界を担う新旧の俳優が楽し気に会話している光景だけでもいいものを見たという気にさせてくれる。
2013.01.28 Monday 23:57 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
青いドレスの女 / Devil in a Blue Dress

54点/100点満点中

1995年製作デンゼル・ワシントン主演のミステリー。ドン・チードルがワシントンの友人役で出演。"青いドレスの女"のダフネには『フラッシュダンス』のヒロイン、ジェニファー・ビールス。製作費2700万ドル。

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1948年のロサンゼルス。職探し中の黒人エゼキエル・"イージー"・ローリンズは、行きつけのバーの経営者で友人でもあるジョッピーから白人のオルブライトを紹介される。市長選に立候補中の大富豪カーターの愛人ダフネを探し出して欲しいと依頼され、胡散臭いとは思いつつも家のローンが滞り始めているイージーは引き受けることに。
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黒人小説家ウォルター・モズリーが1990年に上梓した同名のハードボイルド小説(アメリカ私立探偵作家クラブ[PWA]と英国推理作家協会[CWA]の新人賞をダブル受賞)を原作としている。同作で生まれた黒人探偵イージー・ローリンズの活躍はシリーズ化され、今年5月刊行予定分まで含めると13作発表されているそうだ。

原作を読んだことはないが、時代や舞台設定もあり、ハードボイルド小説の大家レイモンド・チャンドラーの黒人版といったところだ。今回は素人探偵ではあるけれど、依頼された人探しの仕事を果すべく、まず目に付く手がかりから取り掛かり、そこで得た情報を足掛かりに次へと向かう。ひとつひとつコマを進めていくのと同時にひとり死にふたり死に、やっかいな女に翻弄され、いくつもの危機に見舞われ、シャーロック・ホームズのように何かすごいひらめきがあるわけではなく、自分の見落としに気づき、少し歩を戻すことでなんとなく解決し、渋い余韻を残す。

全く嫌いではなく、反対に大好物といってもいい。しかし活字だと自分のペースで探偵と共に歩けるが、決められた枠の映画で描いてしまうとエピソードや登場人物が詰め込み過ぎとなり、しかも筋を追うだけの見せ場の乏しい平面な物語となってしまう。また本作では40年代を舞台にしているため、当時の車やファッションがふんだんに使うことで往時のロスを演出するが、どうしても安っぽさが抜けない。撮影は『羊たちの沈黙』や『シックス・センス』のタク・フジモトであり、本作でも全米映画批評家協会撮影賞を受賞し、その腕は確かなはずだがどうにもテレビドラマのようなのっぺりとした質感は大いに不満。黒人が主人公ということで、人種差別が描かれているのだけが新鮮だ。
2013.01.27 Sunday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
デンジャラス・ビューティー / Miss Congeniality

67点/100点満点中

2000年のサンドラ・ブロック主演(製作も)コメディ映画。最近だとクリストファー・ノーラン監督の諸作で重要な役どころを任されているマイケル・ケインがゲイの美容コンサルタント役で好演。人気シリーズ「スタートレック」で長年カーク船長を演じたウィリアム・シャトナーも魅力的な演技を披露。製作費4500万ドル。

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男勝りで色気ゼロ、仕事一筋の女性FBI捜査官グレイシー・ハートは、ミスアメリカコンテストに爆破予告を送ってきた連続爆弾魔を阻むべく、ニュージャージー代表として潜入することに。
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美人部類に入るはずのサンドラ・ブロックが、眉毛を整えずぼさぼさの髪でがさつに振る舞い、おまけに豚鼻笑いまで響かせる。ミスコンに潜入しなければならないということで、美容コンサルタントでゲイのビクターの手を借り変身していく過程でもさらなる笑いが生まれ、各州のミスコン代表たちとのやりとりを通してもまたおかしみを生み出していくわけだけど、基本姿勢にあるのはミスコンを小馬鹿にし続けることだ。確かにブロック演じるグレイシー・ハートは、最初彼女たちを容姿だけの頭がからっぽな人種だと決めつけるが、親しくすることで印象が大きく変わったとかなんとかいうのだけど、その実映画自体は徹頭徹尾ミスコンを冷笑し続ける。

FBI仲間と繋がっているイヤフォンから大音量の音が漏れてきたため、ミーティング中にも関わらず思わず大声をあげてしまったハートがそれをごまかすべく、品行方正で道徳的な人間に思われたがっているミスコン出場者たちの考えを逆手にとり、食事前に祈りを忘れたと大仰に後悔してみせるシーンなどはその最たるものだし、クライマックスでの混沌が増していくのに全く動じず、ウィリアム・シャトナー扮する司会者スタンがマイクを握り、台本通りに優勝者をべた褒めするセリフを読み上げていく演出には、ミスコンへの執拗なまでの揶揄がある。その粘着質さは、ブロックの比較的さっぱりとした笑いとは異質で、物語の展開だけでいえば安直なコメディなのだけど、拭っても落とし切れないべったりとした黒さが最後まで残り、そういう意味で本作はなかなか面白い。


原題は"Miss Congeniality"。直訳だと"ミス適応性"になるが、ここのブログ記事の説明によれば、"一般に美人コンテストにおける候補者達自らが選ぶ賞の名称で、最も友達甲斐のある人気候補者が受賞するもの"だという。つまり、ラストシーンでグレイシーが貰っていた賞だ。字幕では"ベストフレンド賞"となっていたが、確かに耳をこらしてよく聴いてみると、"Miss Congeniality"といっている。
2013.01.25 Friday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ウォーキング・デッド (シーズン1)・第3〜4話 / The Walking Dead (season 1)

フランク・ダラボンが企画・製作総指揮したテレビドラマシリーズ。ゾンビ&世紀末ホラー。今回はシーズン1の第3話「命を掛ける価値 / Tell It to the Frogs」(監督グウィネス・ホーダー=ペイトン、脚本チャールズ・H・イグリー、ジャック・ロジュディス、フランク・ダラボン)と第4話「弱肉強食 / Vatos」(監督ヨハン・レンク、脚本ロバート・カークマン[原作コミックの執筆者])。本国では2010年11月14日と11月21日に放送。

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街は荒廃し、死体がゾンビとなって生き返り、わずかに残った生者に襲い掛かる世界。病院で目覚めた保安官リック・グライムズは妻ローリーと息子のカールが生き延びていることを信じ、大都市アトランタに向かった。そこはすでに大量のゾンビが徘徊する死の街と化していたが、郊外でキャンプを張るグループに助けられ、なんとか脱出に成功する。
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キャンプ地でリックが妻子との再会をついに果す第3話は、警戒を強いられながらのキャンプ生活に倦み始めている状況なども描かれるが、実質休憩の回となり、やや退屈なのは否めない。一方、4話目は第2話でアトランタに一行が置き去りにした荒くれ白人メルルを助けるべく、再び危険地帯に戻るリックや韓国系のグレン、Tドッグ、それとメルルの弟ダリルの活躍が描かれ、"動"の回となり、面白さが増す。

3話冒頭でのメルルの独演がなかなかの名演技で、誰に看取られることもなくひとり死んでいく男をわざわざ映し出す悪趣味さに、さすが『ミスト』のフランク・ダラボンと思ったものだけど、その後の展開で伏線だと理解する。メルルにしてもその実弟ダリルにしても、差別主義のくそったれ白人具合が素晴らしく、主人公が思ったよりも光らない中で、アクセントとなる輝きを放つ。
2013.01.24 Thursday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
コヨーテ・アグリー / Coyote Ugly

72点/100点満点中

2000年のアメリカ映画。青春ドラマ。主人公の父親役でジョン・グッドマンが好演している。製作費4500万ドル。

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職業作曲家を夢見てニュージャージーからニューヨークにやって来たヴァイオレットは、生活資金を稼ぐためクラブ・バー"コヨーテ・アグリー"で働くことに。そこは同じように夢を持った女性バーテンダーたちがカウンターの上で激しいダンス・パフォーマンスを繰り広げる人気店だった。
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その昔、"『レオン』がすごくいい!2回も劇場に行って見た。お前の映画代も払ってやってもいいから一緒に行こう"と誘ってくれた友人が公開当時に勧めてくれたのでありがたく見ようともしなかった作品。前日の『テルマ&ルイーズ』と同じく今でも好きな映画の1本として挙げられることが多いわけで、この機会に鑑賞してみた。

本国公開の1年後に崩れ落ちたツインタワーがマンハッタンの夜景シーンでひときわ目立っているのを見るのは物悲しい。先日読んでいたウィキペディアの「アメリカン・ニューシネマ」の項に、そのブームの終焉は、"ベトナム戦争の終結と共に、各地で起こっていた反体制運動が下火"となり、"個人の無力"を描いてきた一連の作品群もまた人気を失ったそうだ。70年代後期には、"『ロッキー』に代表される「個人の可能性」を打ち出した映画が人気を博し"、さらに"『スター・ウォーズ』の大ヒットで再び子供向けとされていたSF映画や50年代の夢とロマンが詰まった大作映画"が製作されるようになった。911事件があり、アメリカはテロとの戦い、あるいは世界の現実を突きつけられる。夢とチボーを抱えて大都会に出てきたニュージャージー娘が苦労の末成長し、仲間と成功と男を掴み取るキラキラとした青春成功物語である本作は幾度めかの無邪気な時代を迎えていたアメリカの最後のきらめきなのかもしれない。

ツテのない無名の音楽家がレコード会社にデモテープを持ち込み、門前払いを食らう様子が前半で描かれる。マライア・キャリーも連れられて行ったパーティ会場で偶然会ったレコード会社の重役にデモテープを渡したことで輝かしいキャリアが始まったのだ。世界中でフリーダウンロードが盛り上がり、有能ながらも埋もれている才能を自宅のPCで発掘できる今の状況と比較するとこの10年の様変わり具合はすごいものがある。でもまあ、そこからスター街道を駆け上がるのは今も昔もひと握りであるのは変わりないだろうし、小さくなりゆくパイをみんなで分け合っているだけなのかもしれない。

それはともかく、地元のみんなの期待を背負い、母の果たせなかった悲願でもあり、幼い頃から描いていた夢を実現させようとマンハッタンにやってきたニュージャージー娘ヴァイオレット(すごい役名)が生活費のために高い賃金を稼げるアルバイト先として選んだバーが「コヨーテ・アグリー」となる。これがはちゃめちゃなバーで、カウンターの上で女性従業員が薄着で踊り、バーを盛り上げ、より酒を飲ませようという営業戦略を取っている。が、見ていて思うのは酒ぐらい静かに飲みたいし、こんなところ行きたくないよという拒否感だ。少しも魅力を覚えないが、ニューヨークにモデルとなったクラブがあるというのだから驚き。

引っ込み思案のヴァイオレットは最初カウンターで目立つのを嫌がる。その彼女がマイクを持ちパフォーマンスを始めるきっかけ、つまるところ彼女の成長はとても自然に描かれている。その展開は悪くないのだけど、肝心の歌声がバーの荒ぶる観客を惹きつける強さがない。クライマックスも同様で、大きな不満だ。13歳でグラミー賞を獲得したリアン・ライムスというカントリー歌手が吹き替えで歌っているとのことだが、ヴァイオレットというまだ才能が花開いていない役を意識しすぎているのか、歌のメッセージはともかくとして最後まで歌に力がない。

それ以外は彼女を支える故郷の友人や父親とのエピソード、いくつかの苦労、出会ったばかりの彼氏とのいちゃいちゃ、バーカウンターでのダイナミックなパフォーマンス、苦手意識の克服とそこからの成功などがバランスよく描かれ、見ると元気になるというのも納得の分かりやすくも素敵な映画であることは間違いない。


興行収益が1億ドルを突破し、日本でも結構ヒットした印象があるが、監督も俳優陣もその後の活躍を聞かないのが不思議だ。主人公ヴァイオレット・サンフォードを演じたパイパー・ペラーボの最新作はなんと『LOOPER/ルーパー』。ヤング・ジョーに扮するジョゼフ・ゴードン=レヴィットが惚れ込むショーガールのスージーがそうだったようだ。"NYのアバズレ"ことレイチェル役のブリジット・モイナハンは『世界侵略: ロサンゼルス決戦』で、警察署に取り残された獣医ミッシェルとして出演している。また、ヴァイオレットの親友グロリアを演じたメラニー・リンスキーは『インフォーマント!』でマット・デイモンの奥さん役を、『マイレージ、マイライフ』ではジョージ・クルーニーの妹役として出ている。「コヨーテ・アグリー」の支配人リルのマリア・ベロも『サンキュー・スモーキング』や『50歳の恋愛白書』とこれまで鑑賞してきた作品に顔を出しているが、みな一様に名前を覚えようと思うほどの記憶に残る演技をみせていない。
2013.01.23 Wednesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
シルビアのいる街で / En la Ciudad de Sylvia

25点/100点満点中

2007年のスペイン・フランス合作映画。ドラマ。

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演劇学校の前にあるカフェ。店の奥に座り、客を観察しながらノートにデッサンを描く男は、ガラス越しに美しい女性の姿を認め、カフェを出た彼女の後を追う。
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最近気づいたことのひとつに映画を見ながら眠ることの気持ち良さがある。ベッドの中で音楽や小説を読むのも悪くないが、その場合は寝落ちになってしまう。映画は座って見るため、もうダメだ諦めて眠ろうとなった時、一時停止を押しテレビのスイッチをひねり、そのまま強力な睡魔に導かれ枕に顔を押し当てる。その柔らかく迎え入れてくれる枕の具合は至福そのものだ。

本作の意義は人によっては色々あるだろうが、私には枕の優しさや眠ることの尊さを改めて教えてくれる作品でしかない。

カフェに座り女性客をスケッチする男が、昔知り合ったシルビアという女性を見かけ、声を掛けようかと迷いながらも後をつけ、フランスの北東部のライン川沿いにある街ストラスブールをただ歩き回る。据え置かれたカメラが多用され、それは長回しというほど意欲的なものではなく、街を切り取るひとつの視点として機能し、音楽も街の喧騒がそのまま使われる。"斬新かつ野心的な手法で綴る異色作"と信頼のallcinamaが評するが、監督がそれらの手法に込めた意図を私は共有できずに、ひたすら眠くなる退屈さに枕の素晴らしさを再確認する。
2013.01.22 Tuesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
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今日も愚痴り中