すばらしくてNICE CHOICE

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2021.02.10 Wednesday | - | - | -
無料配信ミックステープ2月号(2013)
国産ヒップホップを中心としたフリーダウンロード・ミックステープの2013年2月発表分一覧。日本語ラップ専門情報サイトJPRAP.COM2Dcolvicsのおかげで毎月楽しめています。感謝。

ところで、ここ数年音楽配信サイトbandcampを利用していながらとても大事なシステムを今さら知って驚愕している、というか自分に呆れていることがある。たいていの人にとっては承知の事実だろうけど、私のようにえっーー!と驚く人が万が一にもいるなら私も心強いので図を盛り込んで一応書いておく。

よく見慣れたバンドキャンプだ。ジャズからのサンプリングを得意とする若手トラックメイカーArtbakelyのサイトを見本に使わせてもらう。アーティストが指示するDLリンクをクリックし、飛んだ先がバンドキャンプだったら、しめたとばかりに指先アイコンがすでに待っているように、図の"Free Download"をまずはクリックする。

そして、飛んだ先が左の図だ。ここでも何ら疑問に思うことなく今までは指先アイコンが示している"Download"をクリックしていたわけだけど、これまでバンドキャンプから音源を落とすといつも320kbpsのmp3ファイルだったのに、最近VBRのmp3ファイルになっていて仕様が変わったのかな嫌だなと思い続
けていたのが、ようやくその原因が判明したのだ!!知ってる大方の人にとっては何を今さらという話であることは重々承知の上で、敢えてもう一度宣言したい。そういうことだったのだ!!

で、何がそういうことなのかといえば、右の図である。ひとつ前の左図でいえば、"Download"とある下の"MP3"とあるそのすぐ右。あるいは指先アイコンのすぐ左にある逆三角形をクリックするとプルダウンできるのだぁぁ!!そうするとこの右図になって、mp3はVBRと320kbpsが選択でき、それ以上に重要なことはflacやaacなどのもっと音の良い(けど重い)ファイルでもダウンロードすることが可能なのだ。知らなかった・・・。

バンドキャンプを利用しているアーティストに尋ねたところ、音源をアップロードする際にはwavファイルやaiff、あるいはflacであることが求められ、mp3への変換はアップした際にバンドキャンプ側が自動で行っているとのことだった。(画像はクリックで拡大OK)


気を取り直して、さて本題。


<"これだけ聴いとけ作品"を簡潔に教えてくれというせっかちな人のための3枚>

左はニコニコ動画を拠点に活躍するグループで女性ボーカルとatmosというラッパーがとにかく素晴らしい。真ん中はうるさ型のヒップホップファンからの信頼が厚いトラックメイカーのビート集。右端は東京を拠点に活動しているグループによる覚醒を果たした感がある5本目。ジャケットをクリックするとDL先に飛びます。



【○】Shinobi 『Fish & Rice: The Culture Tape』
2013.01.23 / 全10曲21分 / VBR / HP
Budamunkが紹介していたアメリカ西海岸のラッパー。日本生まれだが、父親が米国軍人だった関係で幼い頃LAに引っ越したそう。未収録の「Katana」(YouTube)という曲では日本語でラップしている。今回は英詩曲のみだけど、日本への想いは並々ならぬものがあり、ちょいちょい外国人好みの日本のイメージが挟み込まれ、面はゆさを抱きながらもそれなりに楽しめる。


【△】R's 『Happy Set』
2013.01.25 / 全12曲43分 / 192kbps / blog
北海道の24歳のソロラッパー。時間がある人向け。ここでも客演しているTakachangmanを始めとした、ラップが好きな気持ちは分かるけど、広く人に聴かせようとするなら、とりあえず技術を磨こうよレベルの作品を取り上げる必要があるのかそろそろ考える頃かも。フロウが無理なら人とは違う表現、あるいは内容が大事だ。稚拙なラップながら良かったのは客演の女性ラッパーの一節、"青いLANケーブル いつか赤い糸にできたら"。


【△】TOSI 『DIG THE HEARTS』
2013.01.31 / 全9曲26分 / 160,320kbps / blog
配信終了。神奈川県海老名市在住の19歳のソロラッパー・トシ。ブログのプロフィールによれば、昨年7月から活動を始めたらしく、わずか半年で作品を作り出すというその行動力と無鉄砲さに若さだなぁと感心するばかり。


【○】Majikichi Crew 『HEHEHE』
2013.02.02 / 全16曲84分 / 320kbps / Twitter
ネットの仲間で結成したマジキチクルーの新曲「HAHAHA」(初出はコンピ『おならBOOの「BOOST COMPI」vol.1』[DL先]。数日後にXenRoNのリミックスを収録したEPも発表された[DL先])のリミックス集。Pigeondustの別名義kerberosを始めとした14パターンと、M'Bomaによるオリジナルトラックに大阪の注目ラッパーALWAIOや梅田サイファーでも名を馳せているdoikenらがラップを乗せた2曲のリミックスが収められている。RAqがラップではなくトラックメイカーとして参加。初めて聞く名前だとM8のModel SwanとM9のyakohbayが気になる。


【○】trimnica 『mr.walker』
2013.02.02 / 全11曲44分 / VBR / ニコニコ動画
詳細は知らないが、ニコニコ動画を活動の拠点にしているグループのようで、桂マザファキ乃輔とhinotomi、atmosの3MCと女性ボーカルのyucca、それと全ビートとミックスまで担当する鶴というトラックメイカーからなる5人組のようだ。M1は飛ばして、とりあえずM2を再生したらこのグループの魅力が一目瞭然だろう。ロックバンドにしても女性ボーカルひとりだけが抜きん出て素晴らしいパターンはよくあるが、彼らにはアトモスというラッパーがいる。声質、テーマ、言葉の選択、感情の込め方等々、スワッグ全盛の昨今のラッパーにはない文系ならではのラップの面白さに魅了される。忘れてはならないのはトラックメイカー鶴の存在だ。前に出すぎず、かといって後方からの支援だけに甘んじるのではなく、的確にふたりの言葉を彩豊かに飾り立てていく。


【○】Ryuuta Takaki 『stillness』
2013.02.04 / 全8曲15分 / mp3,flac,... / bandcamp
Low High Who? Productionに今年から加わった1995年生まれのわずか17歳のトラックメイカー。東京在住で1年前から音作りを始めたそうだ。題名通りに電子音が静寂を紡いでいく中で、チキチキとスネアを連打するトラップミュージックが顔を出し、一瞬激情をのぞかせたりもするが、基本となるトーンが静謐さというのは面白いのかもしれない。


【○】Warushj 『in bloom (Demo Album)』
2013.02.07 / 全8曲20分 / 320kbps / SoundCloud
大阪の21歳のラッパー兼トラックメイカーのデモ音源集。昨年は単曲でのフリー音源を始め、4本のミックステープを配信し、1枚のアルバムをリリースと常にその活躍を耳にしていた。"ひたすらに等身大"とリリックにあるように、誇大妄想を弄することなく、誠実に言葉を吐き出していくスタイルは変わらない。歌メロを多めで、デモと割り切ったことが良い方に作用したのか肩の力が抜け、耳馴染の良いフロウの楽曲が揃っている。


【○】VA 『W Record vol.02』
2013.02.07 / 全5曲21分 / 320kbps / HP
渋谷のライブハウスWWWが立ち上げたネットレーベル企画のコンピ第2弾。前回はYOUNG-GやOMSBなど日本語ラップ勢も加わっていた(DL先)が、今回は"分解系レコーズ"というネットレーベルの特集となる。"サウンドとカルチャーを分解再構築することをコンセプトに独創的な活動を続けるレーベル"とのこと。どのように音と文化が分解され再構築されているのかうかがい知ることはできないが、耳当りの良い粒揃いのビートが並ぶ。


【○】ZOOL.GΣL 『Natural Human』
2013.02.07 / 全14曲42分 / mp3,flac,... / bandcamp
異色のヒップホップグループALTでMPCを叩いていた鈴木携人がゾルゲル名義で発表したビート集。現在は"液体やゲル状の物質を用いた"作品を制作する気鋭のアーティストとしても活動しているようだ。前半はそのアーティスト活動の発表の場で使われる音なのだろうか、無機質なビートが多く、また猫も杓子も状態のトラップまで飛び出したりするが、そのM7以降は様相が少し変化し、インスト単体としても聴けるようになる。


【○】GolbySound 『The Sound of Music』
2013.02.08 / 全13曲44分 / 128,192kbps / Twitter
東京のトラックメイカー・ゴルビーサウンドのビート集。"マイクロフォンペイジャーのP.H.に見出され"たそうだ。これまでにもサウンドクラウドに発表してきたリミックスワークはヒップホップ愛好家をうならせてきたわけだけど、私自身はそれほどの感銘を受けず、最初にその名前を聞いたERAのファーストアルバムへのビートもしかりだった。が、本作に収録された音は、どれも3分とけして長くはない時間の中で、大きな展開があるわけでもないが、1曲ずつよくまとまっていて、全体を通してもひとつの物語が感じられる。深く垂れ込める雲の下を歩く前半からM6でかすかに光を感じ、M7ではついに陽光の中を散策するかと思えば、次第に重力のくびきから解き放たれ、M10ではのびやかな遊覧飛行を味わい、M11、12とさらに弧は上向きを描く。


【○】DRO 『#DROisDEAD』
2013.02.08 / 全6曲13分 / 128,160,192kbps / Twitter
配信終了。ネット中心に活躍する面々で結成したグループK.H.BROTHERSの一員として先月いち早くミックステープ(DL先)を発表したドロがようやくソロでまとまった作品を出してきた。曲ごとにフロウを大きく変えるが、今回はSIMI LABのOMSBにも似た黒く粘りつくスタイルで殺伐とした言葉を吐き、野郎臭が高い。死哭腐屍鳥の名曲「殺人、レイプ、Twitter Remix」に彼が加わった再リミックス版も収録。


【○】DRO 『#裏DROisDEAD』
2013.02.08 / 全7曲18分 / 128,160,192kbps / Twitter
配信終了。こちらは"裏"と銘打つだけあって、ラッパーと歌手のコラボ曲(表のM2で歌物ヒップホップと批判していたような曲)があったり、Lil'諭吉が宇多田ヒカルの「SAKURAドロップス」をネタにした曲にラップを乗せたりと、ややごった煮気味ではあるが、作ったキャラではなく自然なリリックのおかげもあり表より聴きやすい。


【○】LEO 『GRRR』
2013.02.08 / 全9曲26分 / 320kbps / Twitter
東京・世田谷のヒップホップクルーYaBastaのR&B担当だというLEOのミックステープ。今のEDMなそれではなく、ひと昔前のR&Bの音であり、やや憂いを帯びた歌声が魅力だ。少し尊大な歌詞もまた向こうのR&Bマナーに則っていて頼もしい。コーラスもしっかり利かせているし、このジャンルが好きなら十分楽しめる。一方で、弾ける曲にもノリの良いグルーヴを生み出せればさらに良いのだが・・・。メロウに歌っている時の良さが急に失せてしまう。


【○】Ninja Drinks Wine 『sink』
2013.02.10 / 全8曲29分 / VBR / HP
札幌のトラックメイカーのビート集。もはやヒップホップではなく、門外漢なので詳しいジャンル分けまでは知らないが、煎じ詰めれば電子音楽のそれだ。ひとつの音が生み落されると、共鳴するように次の音が湧き出てきて、その質感が面白くもあるが、それ以上に魅了されるのはしっかりとした物語性のある音になっていることだ。普段この手の音を聴かない身でもおかげで楽しむことができる。


【○】Madegg 『Alone Breath To My Family EP』
2013.02.11 / 全9曲41分 / mp3,flac,... / bandcamp
無料配信終了。春に流通盤をリリース予定の高知出身、京都在住のまだ若干20歳のトラックメイカー・マッドエッグのビート集。上で紹介しているWWWが企画したBunkai-Kei records特集ミックステープにも参加しているが、そのレーベルから18歳の頃発表した作品がまだDL可能だ。角ばった音でありながら同時にどこかいたずらっ子のような笑みも見え隠れしていて、海外からの評価が高いのも納得できなくもない。


【○】VA 『off the RAWS (rework)』
2013.02.11 / 全18曲38分 / VBR / bandcamp
1時間行われるジャズのセッション後、その録音素材を使いトラックメイカーたちが1時間で腕を競い合うOggy企画のイベント「RAWS」。その第2回の音源を使い、ネットでビートを公募したのが本作。前作(DL先)より参加人数が大幅に増えただけではなく、企画云々とは関係なくビート単体でも十分聴ける充実した曲が増えた。それとひとりで何曲も収録しているピジョンダストの曲がどれも素晴らしい出来だ。


【○】Otomitsu 『APOLLO BEATSSS vol.2』
2013.02.11 / 全6曲12分 / mp3,flac,... / bandcamp
ヒップホップクルーOddboseに所属するオトミツ。今年はビートテープを毎月発表していく予定らしく、先月(DL先)に続く、2月分が本作。1作目は様々な曲調のビートを揃えていたが、今回はスペーシーで統一。


【○】Ryuuta Takaki 『Vol de nuit [a work from the past (〜2012)]』
2013.02.17 / 全10曲19分 / mp3,flac,... / bandcamp
LHW?所属の17歳のトラックメイカー・高木隆歌の今月早くも2本目となるビート集。曲を作り始めてまだ1年という話からも、本当に最初期の楽曲をまとめたものなのだろう。展開が少ないシンプルなビートが並ぶ。すでに美意識を確認できる。


【○】Momose×Gotakozo 『The halfway point of a misapprehension』
2013.02.20 / 全14曲39分 / mp3,flac,... / bandcamp
LHW?のモモセと同郷長野のトラックメイカー・ゴタコゾのコラボ第3弾。1年ペースで発表するものと思っていたのでうれしい誤算。今回はモモセが2年前にリリースしたソロアルバムの楽曲にゴタコゾがビートを差し替えたリミックスが中心で、新作ラップは少ないようだ。モモセの文系ラップは影響元が透けつつも十分魅力的で、さらに素晴らしいのはゴタコゾの温もりのあるビートだ。ふたりとももうちょっと注目されてもいい。良いコンビだ。


【○】Ryuuta Takaki 『宇宙獣 soramonsta』
2013.02.21 / 全9曲16分 / mp3,flac,... / bandcamp
17歳のトラックメイカー高木隆歌。次々に曲が湧き上がってきているようで、溜めるのは我慢できないとばかりに今月3本目となるビート集。音数を抑制した尺の短いミニマムなエレクトロニカを展開していく。トキモンスタならぬソラモンスタという題名のかっこよさほどには音に惹き込まれないのが残念なところ。


【○】PRIST 『THE PURPLE』
2013.02.22 / 全11曲28分 / 192kbps / Twitter
東京は荒川区出身のラッパー。KLOOZやU2Kらと共にサイコロ一家としても活動し、2009年にはいち早く作品をリリースし、2010年にはBBOY PARKへの出場なども果たしてはいるものの、次々に現れる同種のフロウ重視ラッパーたちの後塵を拝することになってしまっている。それはまあ本作を聴けばなるほどと納得もできる。実力不足ではない。ただ、AKLOやクルーズ、mikE maTidaといったフリーDL界隈を騒がせた(ている)同世代にはもっと強い個性がある。テーマはお馴染みのものが多いが、トラックがバラエティに富み、仲間も多く参加していて聴きやすさはある。中国育ちだという、ISSUGIを彷彿させるフロウのAmiesというラッパーが気になる。


【○】NakanishiDRO 『REMIX ALUBUM PURPLE_&_BLACK_BITCH』
2013.02.22 / 全15曲28分 / mp3,flac,... / bandcamp
配信終了。DRO名義を封印してからMC名が揺れているドロの今月3本目のミックステープは、題名通りに洋楽有名曲のリミックスを中心にしたもの。ビートに合わせるだけのフリースタイルのようなリリックで、ほとんどの楽曲を1ヴァースで乗りこなしていく(あるいは使い捨てていく)。その中では単曲フリーDLもしていたDrakeの最新曲リミックスM8が比較的まともか。


【○】VA 『BFD VD 2011-2013』
2013.02.22 / 全8曲23分 / mp3,flac,... / bandcamp
2011年から今年にかけて広島で行われたイベントで配布、あるいは販売された音源から選別し収録したミックステープ。これまでもフリーDL界隈で活躍してきたRyuei KotogeやYONTZによるリミックスや吉沼のインストなどが聴ける。強烈な個性や派手さといったものはないが、それでもNF Zessho(絶招)のラップをmuzi9uestが心地良い音色で味付けしたM7は良いリミックスだ。


【○】BTS 『Ice Age』
2013.02.23 / 全15曲40分 / 320kbps / YouTube
ネットレーベルStudio Cocoon所属のラッパー兼トラックメイカー。単曲での無料配信はあったものの、まとまった音源としてはおそらく本作が初なのかな。一番近いスタイルとしてはShing02が時々行っているSFラップを思い出させるが、それよりも使われている語彙は硬く、聴き手と曲世界の共有を求めない姿勢は非常に独特で、これでフロウがもっとなめらかで意味が通じずとも音楽的に楽しめるならば評価することもやぶさかではない。


【○】Syo 『GUMS SLIM DUNGEON』
2013.02.25 / 全5曲19分 / mp3,flac,... / bandcamp
トラックメイカーSyoがKendrick LamarやDanny Brown、B.o.Bといった今を時めく向こうの実力派若手ラッパーの楽曲をリミックス。独特のタイム感を持ったビートは、ラップを主役とせずに、どちらが前に出るか競っている感もあるのだけど、でもこの目立つビートはかなり面白いし、クセになる。


【○】VA 『SPACE (Remixes)』
2013.02.25 / 全15曲42分 / 320kbps / bandcamp
KEN THE 390を中心とするKREVAを慕う後輩ラッパーたちが彼の6枚目のアルバムに1週間先駆けてリリースされたインスト盤を使いまるっとリミックスしたミックステープ。スキットを抜くと計11曲、そのうち4曲でケンザ390のまずいラップを聴くハメになるものの、ソロは1曲のみで、他はコラボとなり、基本的には元気の良い若手を盛り立てている。こうした試みは現在のレーベル運営の功績も含め、評価できる。クルーズやLBといった音源を発売済みのラッパーから、NIHA-CやKOPERUといった今後の活躍が楽しみな有力若手、何より目玉は現役アイドルのSKY-HIが4曲で参加していることだ。その内のM4ではやり捨てのリミックスではなく楽曲としてしっかり練り上げ、かなりの完成度をみせる(istの活躍も素晴らしい)。


【○】mikE maTida 『SPACE (Remixes)』
2013.02.27 / 1枚ファイル9分 / 192kbps / SoundCloud
<上の続き>、とはいうものの、ケンザ390が音頭を取ったリミックス集はありきたりな改変に終始し、面白味に欠けるのも事実だ。そんな不満を覚えながら聴いていると最後の曲で突然刺激的なラップが飛び出してきた。よく見ると、ケンザ390版には収録されていないマイク・マティーダによるリミックスだった。つまり本作だ。意図したのかは不明だ(いや、彼なら狙ってるはず)が、題名が同じために音楽携帯プレイヤーでアルバム名から選択して聴いていると、ひとつの作品扱いになってしまうのだ。1曲を丸々リミックスするのではなく、インストを9分のメガミックスさせたマティーダは、"すぐに群れたがる金魚のフン"と誰に向けたのか明白な揶揄を込めたラップをしつつ、リミックスするならこうすべしとばかりに9分間クレバ(と熊井吾郎)が制作したビートの上で本来の持ち主と対等にラップで渡り合ってみせる。オチも良い。

ラップではいいとこなしのケンザ390ではあるが、上記作のスキットの中で、"これ(インスト盤の購入)でアルバムが1枚作れると思えば安いもんだよね"と語る。それは全く正しい指摘で、わざわざ買わずともレンタルすればわずか200円でクレバのビートでラップができるのだ。


【○】Otomitsu 『APOLLO BEATSSS VOL.3』
2013.02.25 / 全6曲10分 / mp3,flac,... / bandcamp
ひと月に1作ずつかと思ったら今月は2本発表するようだ。上でも紹介している『Vol.2』の流れを汲んだまま進むのかと思えば、M5で急に親しみやすい音が鳴り出しなごむ。


【○】DJ Koki a.k.a. 乳歯人BEATS 『-Mini Mix-』
2013.02.25 / 1枚ファイル13分 / 320kbps / SoundCloud
配信終了。東京在住の20歳のトラックメイカー乳歯人BEATSが自作の未発表リミックスを中心にDJ Koki名義で発表したミニミックス。will.i.amとBritney Spearsのコラボ曲に始まり、Calvin Harrisや、PV(YouTube)がユニークなDelta Heavyなどを経て、SkrillexとDamian Marleyのコラボ曲のリミックスで締めとなる。高揚感溢れるEDMを満喫できる。


【○】N9nety-One 『Rollin' Stoned』
2013.02.28 / 全5曲16分 / 192kbps / YouTube
昨年8月にファーストアルバムをリリースしたナインティワンの5本目となるミックステープ。ここにきて突如覚醒した印象を受ける。これまでは誰々風のフロウが目立ち、悪印象しかなかったグループだったが、本作の1曲目では同じバイリンガルラッパーのL-VOKALの影響を感じさせるものの、尻上がりに個性を確立させていき、何かが吹っ切れたようにグッと良くなっていく。ところでRomancrewのALI-KICKのような掛け声が時々上がるけど、彼は参加してないよね?


【△】DOMINO-P 『#moremusiclife』
2013.02.28 / 全19曲55分 / 320kbps / Twitter
1週間限定配信。北海道・札幌在住の25歳のソロラッパー・ドミノPが先月発表した『#musiclife』に新曲2曲を追加したノーDJ版。ラップを足した曲もあるようだ。しかし、1月の作品もそうだったが、限定にする意味が分からない。盤にしてリリースするつもりなのか。




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<まとめ>
2010年〜2011年1月〜9月分 Tegetther
2012年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2013年 1月

・「JPRAP.COM presents "The Se7en Deadly Sins"」 →記事(2011.05.26記)
  2010年の主要フリーダウンロードミックステープについてもある程度まとめてある。
・「昨今の国産ヒップホップ・無料DLミックステープ事情」 →記事(2011.09.30記)
  2011年前半の作品に焦点を当てた記事。
・「VA『Fat Bob's ORDER vol.1』」 →記事(2011.10.07記)
  記事の最後に名古屋関連のミックステープのまとめた。
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2013.02.28 Thursday 23:59 | 音楽 | comments(0) | trackbacks(0)
第85回アカデミー賞

2013年2月24日発表。

作品賞
アルゴ

<ノミネート>
愛、アムール
『ハッシュパピー 〜バスタブ島の少女〜』
『ジャンゴ 繋がれざる者』
Les Misérables 〜レ・ミゼラブル〜
ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日
リンカーン
『世界にひとつのプレイブック』
『ゼロ・ダーク・サーティ』


監督賞
アン・リー監督 『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日

<ノミネート>
ミヒャエル・ハネケ監督 『愛、アムール
ベン・ザイトリン監督 『ハッシュパピー 〜バスタブ島の少女〜』
スティーヴン・スピルバーグ監督 『リンカーン
デヴィッド・O・ラッセル監督 『世界にひとつのプレイブック』


主演男優賞
ダニエル・デイ=ルイス 『リンカーン

<ノミネート>
ブラッドリー・クーパー 『世界にひとつのプレイブック』
ヒュー・ジャックマン 『Les Misérables 〜レ・ミゼラブル〜
ホアキン・フェニックス 『ザ・マスター
デンゼル・ワシントン 『フライト』


主演女優賞
ジェニファー・ローレンス 『世界にひとつのプレイブック』

<ノミネート>
ジェシカ・チャステイン 『ゼロ・ダーク・サーティ』
エマニュエル・リヴァ 『愛、アムール
クヮヴェンジャネ・ウォレス 『ハッシュパピー 〜バスタブ島の少女〜』
ナオミ・ワッツ 『インポッシブル』


助演男優賞
クリストフ・ヴァルツ 『ジャンゴ 繋がれざる者』

<ノミネート>
アラン・アーキン 『アルゴ
ロバート・デ・ニーロ 『世界にひとつのプレイブック』
フィリップ・シーモア・ホフマン 『ザ・マスター
トミー・リー・ジョーンズ 『リンカーン


助演女優賞
アン・ハサウェイ 『Les Misérables 〜レ・ミゼラブル〜

<ノミネート>
エイミー・アダムス 『ザ・マスター
サリー・フィールド 『リンカーン
ヘレン・ハント 『セッションズ』
ジャッキー・ウィーヴァー 『世界にひとつのプレイブック』


脚本賞
『ジャンゴ 繋がれざる者』

<ノミネート>
愛、アムール
『フライト』
ムーンライズ・キングダム
『ゼロ・ダーク・サーティ』


脚色賞
アルゴ

<ノミネート>
『ハッシュパピー 〜バスタブ島の少女〜』
ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日
リンカーン
『世界にひとつのプレイブック』


撮影賞
クラウディオ・ミランダ 『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日

<ノミネート>
シーマス・マッガーヴェイ 『アンナ・カレーニナ』
ロバート・リチャードソン 『ジャンゴ 繋がれざる者』
ヤヌス・カミンスキー 『リンカーン
ロジャー・ディーキンス 『007 スカイフォール』


編集賞
アルゴ

<ノミネート>
ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日
リンカーン
『世界にひとつのプレイブック』
『ゼロ・ダーク・サーティ』


美術賞
リンカーン

<ノミネート>
『アンナ・カレーニナ』
ホビット 思いがけない冒険
Les Misérables 〜レ・ミゼラブル〜
ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日


衣装デザイン賞
『アンナ・カレーニナ』

<ノミネート>
Les Misérables 〜レ・ミゼラブル〜
リンカーン
白雪姫と鏡の女王』 (石岡瑛子)
『スノーホワイト』


視覚効果賞
ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日

<ノミネート>
ホビット 思いがけない冒険
『アベンジャーズ』
プロメテウス
『スノーホワイト』


メイクアップ&ヘアスタイリング賞
Les Misérables 〜レ・ミゼラブル〜

<ノミネート>
『ヒッチコック』
ホビット 思いがけない冒険


歌曲賞
アデル, Paul Epworth "Skyfall" 『007 スカイフォール』

<ノミネート>
J. Ralph "Before My Time" 『Chasing Ice』
ウォルター・マーフィ, セス・マクファーレン "Everybody Needs A Best Friend" 『テッド
マイケル・ダナ, Bombay Jayashri "Pi's Lullaby" 『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日
クロード=ミシェル・シェーンベルク, ハーバート・クレッツマー, アラン・ブーブリル "Suddenly" 『Les Misérables 〜レ・ミゼラブル〜


作曲賞
ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日

<ノミネート>
『アンナ・カレーニナ』
アルゴ
リンカーン
『007 スカイフォール』


音響賞 (編集)
『007 スカイフォール』

<ノミネート>
『ゼロ・ダーク・サーティ』
アルゴ
『ジャンゴ 繋がれざる者』
ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日


音響賞 (調整)
Les Misérables 〜レ・ミゼラブル〜

<ノミネート>
アルゴ
ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日
リンカーン
『007 スカイフォール』


外国語映画賞
愛、アムール』 (オーストリア)

<ノミネート>
『コン・ティキ』 (ノルウェー)
『No』 (チリ)
『ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮』 (デンマーク)
『魔女と呼ばれた少女』 (カナダ)


長編アニメ賞
メリダとおそろしの森

<ノミネート>
フランケンウィニー
『パラノーマン ブライス・ホローの謎』
『The Pirates! Band of Misfits』
シュガー・ラッシュ


ドキュメンタリー長編賞
『シュガーマン 奇跡に愛された男』

<ノミネート>
『壊された5つのカメラ』
『The Gatekeepers』
『How to Survive a Plague』
『The Invisible War』
2013.02.24 Sunday 23:55 | | comments(0) | trackbacks(0)
攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX 全26話


2002年10月1日から2003年11月30日にかけてスカパーにて月に2本ずつ放送。全26話。DVDでは2話ずつ収録され、全13巻。

1989年に連載が始まった漫画「攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL」を基にしたテレビアニメシリーズ。監督・シリーズ構成は『東のエデン』や『009 RE:CYBORG』の神山健治。

************************************
大戦後、科学技術が飛躍的に進歩し情報のネットワーク化が加速度的に進んだ西暦2030年。複雑化する犯罪の芽を事前に探し出し、除去する組織として内務省直属独立部隊公安9課"攻殻機動隊"が組織される。その管轄は、電脳犯罪への対処、政治家の汚職摘発、凶悪犯罪の捜査から要人暗殺まで。軍属上がりの彼らは電脳戦を基本に、高性能義体を生かした物理的戦闘でもその卓越した能力を発揮。9課の実質的リーダー草薙素子を中心にさまざまな犯罪に対処するが、その影にはいつも"笑い男"と呼ばれる凄腕ハッカーの存在がいた。
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今年6月から開始される各50分全4部作構成の新シリーズ『攻殻機動隊ARISE』に先立ち、YouTube上で今月20日まで無料配信されているので、途中で止まるいらだちにも負けずコツコツと見ていた。だから上に並べたようにDVDでの鑑賞ではないのだけど、ちょっと懐かしかったので。

序盤の一話完結の回の脚本がどれも秀逸。新型多脚戦車に開発者の脳が移植され、彼の鬱屈していた気持ちを暴走させるという第2話「暴走の証明」の骨子自体はどこか聞いたことがある話なのだけど、30分弱の中で9課の各人の活躍を盛り込みつつ、きれいにまとめている。そうした一話完結回と全体を貫く"笑い男"の大きな物語とがうまく融合している辺りも巧みで、前半は笑い男話に若干飽きる部分がありつつも、終盤での大掛かりなアクションを交えた畳み掛けには震える。タチコマの雄姿たるや!中盤で一度舞台から降りるのもそのための伏線だったのか(単に作画が面倒だからかも?)と思えるほどで、なかなかの活躍ぶりだ。

アニメ『エデンの東』は、掴みは最高だったのに後半グダグダとなり、TVアニメ単体としては冴えない出来だったのと比較すると、笑い男の真相を全26話の中でしっかり語り、オチを付けているのを見るに、とても同じ人が指揮したとは思えない。DVDの特典映像だった「タチコマな日々」が今回見られないのは残念。

第16話「心の隙間」で登場するロシアの各家庭で作っているというお酒"メダブーハ"は蜂蜜酒のことらしく、蜂蜜とレモン、ドライイーストがあれば手軽に作れるらしく、ぜひ試してみたい。
2013.02.14 Thursday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
隠された記憶 / Caché

59点/100点満点中

2005年のミヒャエル・ハネケ監督脚本作。サスペンスドラマ。カンヌ国際映画祭監督賞受賞。主演は、『あるいは裏切りという名の犬』や『やがて復讐という名の雨』などのノワール映画にも出演するフランスの名優ダニエル・オートゥイユと、『ショコラ』や『陰謀の代償 N.Y.コンフィデンシャル』とハリウッドでも活躍するジュリエット・ビノシュ。製作費800万ユーロ。

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テレビの人気キャスター、ジョルジュ・ローレントは妻アンと小学生のひとり息子ピエロと共に忙しくも充実した毎日を送る。ある日、謎のビデオテープが届く。自宅を正面から隠し撮りした映像が延々と映されている。その後もテープは送られてきて、内容はジョルジュの過去へと踏み込んでいく。夫婦の間に恐怖が高まり、亀裂が生じる。やがて少年時代のある記憶が呼び起こされ・・・。
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オーストリア人監督ミヒャエル・ハネケ。昨年は最新作『愛、アムール』で2009年の『白いリボン』に続き、カンヌでパルムドールを再び獲得している。つまり巨匠だ。ただ、『白いリボン』や『ファニーゲーム U.S.A.』の面白さを理解できなかった私が本作に太刀打ちできたのかといえば、そんなはずもなく、そんな終わり方でいいの!? という悲痛な叫びがこだまする中、粛々とクレジットは流れていった。

何者かが自分の家を盗撮し、そのビデオテープを送りつけてくる。何か脅しがあるわけでもない。意図が分からないだけに怖さがある。しかもテープをくるむ用紙には子供の手による幼くも不気味な絵が描かれている。

2本目、3本目と届き、警察に相談するも事件とまではいえず取り合ってもらえない。そうした中でダニエル・オートゥイユ演じるジョルジュは彼が6歳だった時の記憶がよみがえる。1961年当時パリで起きたアルジェリア人デモへの警察の強硬な弾圧で、両親を亡くしたアルジェリア人少年マジッドがいたことを。

何本目かのテープでアパートの部屋の扉が映され、それを手掛かりにジョルジュが実際に訪れることで次の展開を迎える。サスペンス仕立ての物語は確かに惹かれるし、オートゥイユの演技や、神経を高ぶらせるアンに扮するジュリエット・ビノシュの巧さもあり、どこにでもいる普通の家族が突然恐怖に陥れられる様子はよく描かれている。

家族の行方不明騒ぎがあるがそれも一段落し、テープの謎がふわふわしたところで唐突に起きる惨劇はかなりショッキングだ。生々しさもある。それを効果的に見せるためにきっと計算もしているのだろう(特典映像では、終盤のエレベーターシーンにどれだけ時間をかけ、緻密な演出のもと緊張感を作り出したのか熱心に語っている)。

しかし、問題は、オチまで書いていいのか分からないけれど、ビデオテープの送り手が最後まで不明なことだ。いくつかの後始末があった後に、50年前に施設に送られたことで満足に教育を受けられなかった子供がいたことを描写するエピソードに続いて、夫婦の子供が通う小学校を映し出し終わる。は?ではある。

特典映像に収録された巨匠ハネケ監督のインタビューをそのまま抜き書きする。

"解釈は観客に任せる"。つまり、"「誰がビデオを送ったか」という疑問に対する答えはそれぞれ個人が考えるべきであり、映画の重要な要素ではない"。

あんたそれいっちゃぁとは思うが、彼は続けて本作のテーマを分かりやすく教えてくれる。

"本作は、個人が「罪」とどう向き合っているかについての映画であり、誰がビデオを送ったかについては観客自身で考えて欲しい。人間は世に生まれたことですでに「罪」を持っている。意図的であろうとなかろうと先進国で生きる我々は、絶対的に後進国や貧しい人々を犠牲にして高い生活水準を保っている。つまり、先進国にいる我々は誰でもある種の罪意識を心の中に抱えていることになる。そういったやましさを個人がどのように消化するかは人それそれだが、私自身は「罪」を映画の中でどのように表現するかを仕事にしている。

ジョルジュは使用主の子供という立場で、使用人の子供で身寄りのない同い年のアルジェリア人少年マジッドを辛い目に合わせた。それは6歳という幼い子供が行った行為ではあっても、決して許されることではなく、常に心の中にその"罪意識"を抱えて生きなければならない。

その罪、もちろんキリスト教のそれと無関係ではないにしろ、宗教とは離れた位置からでも理解できるその考え方は、本作のアルジェリアとフランスとの関係だけではなく、いまだ飽食の国に生きる我々も身の回りの様々なことで同じ意識を持たなくてはならない。それは分かる。そんな深い意味があったなんて鑑賞しているときにはこれっぽちも思い馳せなかったけれども、いわれてみればなるほどと思うことはできる。

ただ、誰がビデオを送ったのか?取るに足らない問いだとは分かっていても、単純なハリウッド映画を日頃楽しんでいる身にはずるくない?とはどうしてもなってしまう。allcinemaにあった紹介文、"現代の社会問題をミステリー仕立ての巧みな語りでスリリングに描いた衝撃のサスペンス・ドラマ"は、まさに的を射ているのだろう。

最近タンブラーに流れてきて知ったアルフレッド・ヒッチコックの言葉にこんなものがあるそうだ。

"ある場所に爆弾が仕掛けられていたとして、その爆弾を「誰が仕掛けたのか?」がテーマになるのがミステリで、「その爆弾が爆発するのか?あるいは未然に止められるのか?」がテーマになるのがサスペンスである"

本作も、ミステリーではなく、確かにサスペンスだ。
2013.02.12 Tuesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
そして、ひと粒のひかり / Maria Full of Grace

68点/100点満点中

2004年のアメリカ・コロンビア合作映画。人間ドラマ。主演のカタリーナ・サンディノ・モレノはコロンビア人として初めてアカデミー賞主演女優賞の候補に。ベルリン国際映画祭では主演女優賞とアルフレート・バウアー賞(革新賞)を獲得。サンダンス映画祭でも観客賞受賞。製作費300万ドル。

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南米コロンビアの田舎町。母と幼児を抱えた姉の家族をバラの仕分け仕事でひとり支える17歳のマリア・アルバレス。上司との関係悪化で仕事を辞し、しかも互いに愛情を持てず惰性で付き合っていたホアンの子を妊娠してしまう。追い詰められた彼女は巨額の報酬に心動かされ、麻薬の運び屋の仕事を引き受けることに。
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日本がスシゲイシャハラキリ等のイメージで今も語られることがあるように、コロンビアといえば、遠く離れた土地からの勝手なイメージでは美女とコカイン、あとはコーヒーだろうか。信頼の情報集積地ウィキペディアによると、同国の麻薬王パブロ・エスコバルが作り上げた麻薬密売組織メデジン・カルテルの最盛期だった1980年代には、"世界のコカイン市場の8割を支配し、年間最大250億ドルの収入を得ていた"そうだ。米経済誌フォーブス誌に、"世界で7番目の大富豪としてに取り上げられたこともある"。

生花の仕分け作業で一家を支える17歳の少女が不運なことに妊娠し、具合が悪いこともあり、仕事に支障を来たし、主任からは注意され、カッとなって辞めてしまう。お腹の子供の父親で同じ年頃のホアンは頼りなく、気持ちも定まっていない。シングルマザーがどれほど不安定なのかは一緒に暮らす姉を見れば分かることで、その姉と母親からは収入が無くなることについてなじられてしまう。そんな不幸三昧な中で知り合ったばかりのフランクリンから運び屋の仕事を紹介され、引き受けることを決める。

"粒"と彼女たちが呼ぶコカインの詰まったブドウひと粒大(飲み込む練習に使う)のビニール袋を胃の中に50〜60個入れて、アメリカに持ち込む。当然体内で破裂したら命はない。またアメリカもそのやり方を熟知しているわけで、水際で流入を阻止しようと懸命になる。その辺りの描写がスリリングで"怖い"との評判を聞き、今回鑑賞してみようとなったわけだけど、確かにリアルさはあるが怖いまではいかない。それよりも、袋詰めの作業行程がやけにきっちり描かれていて、その印象が強い。

右も左も分からないニューヨークで同じコロンビア出身の女性カルラと出会うことで、マリアは感化される。彼女はアメリカに渡るという目標を持ち、周到にお金を貯め、計画を遂行させ、異国で懸命に生き、働き、故郷の家族に仕送りをし、温かい家庭を築き、子供を宿している。心の充足は確かにあるものの貧困の連鎖に絡め取られる田舎町にはおそらくいなかった種類の人間なのだろう。

また彼女はニューヨークの街角の花屋でバラが売られているのを見る。彼女たちがコロンビアで仕分けし、棘を取り、包装したものかもしれない。母国からアメリカに渡るものでも自分が体内に入れて必死に運んだものとの大きな差は何なのか。真っ当に生きることとは。そうしたことに気づいたマリアは決心を固める。17歳と十分若い女の子が直面するには重たすぎる決断が多すぎるのだけど、彼女は懸命に生きる女性と異国の地で出会えたのだ。

過酷な現実の中で17歳のマリアが下した決断が描かれるドラマは、311以降とはいえ安穏と暮らす身には恐れひれ伏すしかないが、まあ物語としては順当なものだ。マリアの親友で小太りのブランカという少女が彼女のように逼迫した理由があるわけでもないのに、大金欲しさに運び屋仕事に加わる。マリアの対比として与えられた役柄とは分かっていても、演技の下手さがプラスされ、かなり苛立たせる言動を取り、どうにも腹立ちが収まらない。それだけマリアと同化して作品を見ていたことになるわけで、良作の証明のひとつだろう。
2013.02.11 Monday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
インランド・エンパイア / Inland Empire

60点/100点満点中

前作『マルホランド・ドライブ』以来5年ぶりとなるデヴィッド・リンチ監督の2006年の不条理スリラー。製作費1750万ドル。

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ハリウッドの実力者である夫と豪邸で暮らす女優のニッキー・グレイスは、新作の主演に抜擢され、再起を狙う。その作品『暗い明日の空の上で』は、いわくつきのポーランド映画『47』のリメイクだった。ニッキー演じるスーザンは愛憎に巻き込まれ・・・。
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2006年の映画にはなるけれど、いまのところリンチの最も新しい監督作だ。まさに"不条理"。全米映画批評家協会賞という映画賞では"実験的作品賞"に選ばれたらしく、そう形容する以外に言葉はなかなか見つからない。内容はもはや何が何だからさっぱり。しかも3時間ある。劇場で見る機会を逃し、家でDVDとなると、3時間はちょっとした拷問にも早変わりするわけで、その上リンチだ。年を経るごとに不可思議さが増している彼の映画を見るにはタイミング(あるいは踏ん切り)が必要となり、なんだかんだと先延ばししていたら今になってしまった。

回るレコード。顔にモザイクが入る男女。兎の被り物をした3人家族のシットコム。テレビを見て泣く女。そしてハリウッドの豪邸で暮らす女優ニッキー・グレイス。彼女が主演する映画『暗い明日の空の上で』の監督と彼を支える助監督、彼女が演じるサリーの相手役となるデヴォン・バークが扮するビリー。

物語は冒頭から異界に飛び出す。振り落とされまいと必死にキーワードとなりそうな言葉や物を頭の中に刻み込みながら見ていると、女優のニッキーが登場し、隣に越してきたという老婆が彼女を訪ねてきた辺りから不穏な影が忍び寄る。カメラは不気味な角度から女の歪んだ顔を捉える。映画全体を通して画質が粗く、デジタル特有の奥行きを感じさせない質感がある。カメラワークも自由度が高く、そういったこと全てをひっくるめて"リンチだから"で納得してしまう。ファンとは従順に飼い慣らされた存在なのだ。

謎めいた老婆が語る、"もしも今日が明日だったら"の言葉通りに、ニッキーは映画スタジオで打ち合わせをしている前日の自分をそのスタジオの片隅から目撃することになる。そこから先はもはや理解はできない。ただただリンチの映像世界に翻弄されることになる。

彼の作品が好きでなければ本作を受け入れるのは難しそうだ。作り手すらも自分で制作したものを理解できていないただの混乱の産物でしかないと否定する見解があったとしても不思議はない。テレビドラマシリーズ「ツイン・ピークス」に始まり、『ロスト・ハイウェイ』で感銘を受けていなければ、私も本作を途中で投げ出しただろう。訳の分からないエピソードの連続ではあるのだけど、カット割や展開に不思議なリズムがあって、そこに魅了されているところもある。

最近のリンチは絵画以外にも音楽アルバムを発表しているが、本作ではこれまでのような作曲だけではなく、歌も披露する。そうした音楽的な素養が編集に表れるのかは分からないが、物語の奇天烈さと比べるとその繋ぎ方からは彼の呼吸を感じるし、見ている側の集中力を確かに引きつけ続ける巧さがある。よくあるおどかしでさえも彼の手にかかると相当な不気味さを覚える。

終盤、ロスに遊びに来た英語の下手くそな日本人役として裕木奈江が登場し、虚構世界(劇中劇の方)と現実との境が再びはっきりしてくる。が、ああそういうことかと思った矢先に再び虚構に没入していく辺りもまた何というか、リンチだからしょうがないとなってしまうわけで、まあそういう難解な、その難解さを解釈し、もて遊ぶ映画でもあったりするのだろう。分かりやすいハリウッド大作が好きで、スノッブな楽しみ方をする作品は好まないないのだけど、リンチだけは許せてしまうところがどうしてもある。

しかし、主演のローラ・ダーンは1986年の『ブルーベルベット』、1990年の『ワイルド・アット・ハート』とリンチ作品の常連ともいえる女優ではあるから慣れてはいるのかもしれないが、どういう心持ちでこれだけ分裂した作品を演じるのだろう。大変だろうね。


ウィキペディアで映画情報を仕入れようと、"インランド・エンパイア"で検索したら、"アメリカ合衆国内には、「インランド・エンパイア」と呼ばれる地域が3ヶ所に存在する"とまず出てきた。行方不明の男が、"インランド・エンパイアに行く"といい残したというセリフが作中にあるけれど、実在の地名だったのか。"ロサンゼルス東郊100km圏内に位置するリバーサイド市とサンバーナーディーノ市を中心とする都市圏を指して使われることが多い言葉"とある。

以下ウィキペディアより。
・"リンチが好きな時に俳優を呼んで自分でカメラをまわしその断片を繋げていくという製作方法だったため、製作期間は2年半にも及んだ"
・"結果的にほぼ自主制作映画のような形になった"
・"リンチ本人は映画のことを「トラブルに陥った女の話」とだけ語っている"
・"リンチの頭の中にはおおよその考えはあったが、まとまった脚本なしで撮影に挑んだため、リンチ本人ですら製作中のインタビューで「この映画の全体がどのように明らかになるのかは私にも分からない」と述べている"
・"撮影中はリンチが毎朝各役者に数ページの書きたての台本を渡していた"
・"全編デジタルビデオで撮影"
・"リンチの運営する会員制サイトで公開された『Rabbits』(YouTube 42分)の一部が作品内で使用されている。同作にはナオミ・ワッツ、ローラ・ハリングなどが出演してるが、兎の被り物のため見分けがつかない"
2013.02.10 Sunday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
まほろ駅前多田便利軒

70点/100点満点中

第135回直木賞を受賞した三浦しをんの同名連作短篇集の映画化。2011年。主演は瑛太と松田龍平。共演には本上まなみ、大森南朋、松尾スズキ、麿赤兒、高良健吾、岸部一徳、とチョイ役程度の出番とはいえ豪華。

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東京の外れ、まほろ駅前で便利屋を営む多田啓介は、年の瀬に中学時代の同級生・行天春彦と出会う。サンダル履きの彼に"今晩泊めてくれ"と切り出され、一晩だけと渋々了承する多田だったが、結局そのまま居座られ、奇妙な共同生活が始まる。
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放送中の続編のテレビドラマ「まほろ駅前番外地」シリーズが、『モテキ』の大根仁監督が手掛けていることもあるのか、結構楽しんで見られることもあり、それならば映画版もと手に取ってみた。ドラマ版でも大森南朋が登場し、テレ東のドラマでチョイ役な扱いとはまた豪勢だと思っていたのだけど、もともと映画版に出ていたのか。この映画版の監督は南朋の兄・大森立嗣で、彼らの父親である麿赤兒の出演にも繋がっているのだろう。麿はドラマでも別の役で出演している。

「番外地」の方は原作から離れたオリジナルの脚本を使っているようだけど、本作は原作にかなり忠実で、こんな話もあったなぁと思い出しながら楽しめる。1年を数回に区切る演出も同じで、それぞれのエピソードは独立しているようでいて、ふたりの男がそれぞれ過去と未来に持つ喪失感が底を流れる。大人なのだからそうした苦い記憶は各人で飲み込み、解決しなければならないのだろうが、心に欠落を持つふたりは、それを口にはしないものの、時に諍いながら戦友のように寄り立つ。その関係はどこか不自然さを付きまとうのだけど、瑛太と松田龍平が持っている雰囲気が功を奏し、何となく楽しんで見られる。

原作で最後がどうだったのかもう覚えていないが、松田演じる行天が多田の事務所兼自宅に戻るきっかけがほとんど描かれておらず、何のドラマもなしにその行動は不可思議に映る。

原作を読んだ時に思い描いた情景に近い映像化作品というのはそれだけで評価したくなるものだが、何か引っかかるところがあり、注意深く見ていてようやく気づくのは、音楽が場面から遊離していることのだ。その場面でそんなにギターを強調させるのかと思うことなど、音楽で気を散らされる場面がたびたびある。同じく途中で思い出すのだけど、本作はくるりの岸田繁が音楽を手掛けているのだ。くるり名義で関わった『ジョゼと虎と魚たち』の時は映像と寄り添う音楽で評価できたけれど、今回はマイナス要素なっている。
2013.02.08 Friday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ブローン・アパート / Incendiary

77点/100点満点中

2008年のイギリス映画。ドラマ。主演は、『ブロークバック・マウンテン』『ブルーバレンタイン』『マリリン 7日間の恋』のミシェル・ウィリアムズ。共演にはユアン・マクレガー。監督は『ブリジット・ジョーンズの日記』でデビューしたシャロン・マグアイアで、今回は脚本も担当。

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ロンドンの下町イーストエンドで暮らす若い母親。夫レニーとの関係は冷え切っているが、4歳の息子を心の支えにしていた。大ファンのサッカーチーム・アーセナルの応援に父と子が向かうのを見送った後、彼女は新聞記者ジャスパーと再会する。一夜の過ちと思っていたはずだが、惑いながらも結局彼の家に行ってしまう。ふたりがソファーで楽しんでいるその時、テレビから爆発音が聞こえてくる。スタジアムで自爆テロが発生し、夫と息子が犠牲になる。
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原作は、英国人作家が2005年に発表し、サマセット・モーム賞も獲得した『Incendiary(邦題は"息子を奪ったあなたへ")』。映画の原題にもなる"incendiary"は"焼夷弾・扇動者・放火者"を意味する。見終えるとそれぞれの意味合いが物語の中に散りばめられていることに気づく。原作小説が発売されたのは2005年7月7日。その日は地下鉄の3か所でほぼ同時に爆発し、その1時間後にはロンドン名物の二階建てバスも爆破され、アルカイダの自爆犯を含む計56人が死亡したロンドン同時爆破事件と同日だったそうだ。

夫と最愛の息子がサッカー観戦に行っている間に、ミシェル・ウィリアムズ演じる若い母親がアバンチュールを楽しんでいると、アルカイダによる自爆テロがサッカースタジアムで起き、千人以上の犠牲者を出すと共にふたりもまた亡くなってしまう。母親は嘆き、不徳な行いをしていたからと自分を責める。

ユアン・マクレガー扮する新聞記者ジャスパーが警察の失態を突き止める中で、大局で事象を捉えることと、そのために犠牲となるひとりひとりの死の重さといった解決しがたい難問をも描かれつつ、主題は若い母親の立ち直りの物語となる。テロという大きな出来事を映し出しながらも、常に母親が受ける喪失を中心に展開するため、物語としては大きな広がりを見せない。それはある意味で地味ではあるのだけど、ウィリアムズの見事な演技力は誰にでも伝わる悲しみとそこからの復活を鮮やかに切り取り、鑑賞後は静かではあるものの確かな感情の高ぶりを得られる作品となっている。

イギリス国民が本作を見た時に思い描くのは当然ロンドン同時爆破事件だったろう。私も忘れていたわけではないが、あれが2005年とかなり前の事件になるとは思いもしなくて、ニューヨークで起きた911事件を、2008年当時のハリウッドではまだ正面から捉えることができない代わりに、イギリスに場所を変えて描いたのだろうと思っていた。原作はそうだったのかもしれないが、映画版の本作に限っていえば、ロンドンの事件は当然避けて通れないわけで、後半に向かうにつれて若い母親とロンドンという街が同化していく。

事件直後の街の様子を日本人が綴ったブログ記事を読んだ。映画にもあるが、ロンドン市民はテロリストの攻撃に動揺することは彼らに屈することであり、これまでの生活を平然と続けようとしたそうだ。ヒトラーによるロンドン空襲という歴史もあり、それでも焼け跡からたくましく発展を遂げてきたロンドンっ子たちの矜持がそこにはあるのだろう。物語の主人公が親子3代に渡り暮らしているアパートもまたその焼け跡に建てられたものなのだ。
2013.02.03 Sunday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ローマ法王の休日 / Habemus Papam

35点/100点満点中

『息子の部屋』で2001年カンヌ国際映画祭の最高賞・パルムドールに輝いたイタリア人監督ナンニ・モレッティが監督・脚本・製作・出演(精神科医役)まで果たした2011年のコメディ映画。製作費800万ドル。

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ローマ法王が逝去したことで、システィーナ礼拝堂には各国の枢機卿が集結し、次期法王を決める選挙"コンクラーヴェ"が開催される。誰もが法王という重責に尻込みし、時間ばかりが過ぎていく。そんな中、全く予想されていなかった無名の枢機卿メルヴィルが新法王に決定する。パニックに陥った彼は待ちわびる大群衆を前に逃げ出してしまう。
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とんだ駄作。予告編を見た時にこれは面白そうだという確信があって、是非とも劇場で見たいと思ったのだけど、なんやかやでDVDでの鑑賞になったが、それで良かった。映画館で見ていたら怒りのやり場を持て余しただろう。

監督はカンヌを始めヨーロッパで高い評価を得ている人のようではあるけれど、やはりキリスト教文化の人間であるためか、宗教を敬う姿勢が体にこびりついている。本作が仮にコメディ映画であるとすると、新人法王メルヴィルを笑いの対象として捉えられていない。一方でヒューマンドラマだとすれば、メルヴィルがバチカンの敷地を出て市井の人と触れ合うエピソードがあまりに断片的だ。宗教人として長い間生きてきた彼が、普通の人々の営みを通して何かを得るというとてもありふれた展開しか描いていないのに、観客が納得する物語に欠いている。

重責に耐えかねて逃げ出し、町をさまよい、結局自分では法王の座に就きたくない仲間の枢機卿たちに捕まり、戻される。そこにあるのは笑いではなく、人間的な成長もほとんどなく、そうして向かうオチについては少し意外性があるので、予定調和ではないという意味においては評価できるとしても、シニカルな笑いというほどには強固な面白味を作れていない。

英題は"We Have a Pope"であり、原題も"(選挙の結果)新教皇が決まった"を意味するラテン語だそうだ。邦題は、要人がローマで脱走を図るという一点でのみ共通項がある『ローマの休日』を倣ったもので、配給会社はきっと悦に入ってるのだろうが、こういうのが一番醜悪だ。
2013.02.03 Sunday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ザ・レイド / The Raid

57点/100点満点中

2011年のインドネシア映画。格闘アクション。製作費110万ドル。

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インドネシアの首都ジャカルタ。麻薬王タマ・リヤディはスラム街の高層アパートを支配し、犯罪者たちに部屋を提供することで悪の巣窟と化していた。長年警察も手出しできなかったが、ついに強制捜査に乗り出す。新人警官ラマを含む20人のSWAT隊が奇襲作戦を決行。各フロアを順次制圧しながら、最上階のリヤディの部屋を目指す。しかし、作戦はリヤディに筒抜けだった。一行は退路を断たれ、押し寄せる凶暴な犯罪者たちの攻撃で次々に仲間を失う。
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マレーシアやインドネシア、シンガポール、ブルネイ、ベトナムなど東南アジアで盛んな伝統的な武術"シラット"が炸裂するアクション映画となる。シラットはインドネシア語では"プンチャック"とも呼ばれ、ドラマ「SP」で岡田准一が実践していた武術"カリ"(フィリピンの国技)とは違うようだが、素人目に大きな違いはない。

悪人だらけの建物に正義の味方が踏み込み、最上階の大ボスを目指す。往年の香港映画、あるいはテレビゲームを思い出させるシンプルな筋立てに、肉弾戦だらけのアクションシーンを満載させ、ちょびっとだけドラマを付け加えたとても明朗な作品だ。

ここ10年ぐらい、格闘シーンを近接して撮り、迫力を生み出すのがハリウッド映画のアクションの主流だ(印象としては「ジェイソン・ボーン」シリーズぐらいからか?)。しかし、本作はブルース・リーやジャッキー・チェンといった元々素養のある俳優たちが行っていた、闘いを引きで撮影する手法を取る。そうなると、闘いの全体像が映し出されるので、俳優たちにはそれなりの技術が必要になる。とはいっても、あくまでも作り物の映画を制作しているのであって、リング上の格闘技ではないわけで、拳や蹴りを相手に当然当てない。しかも本作はキレのある動きで魅了すればそれで十分と考えている節があり、打突への工夫が足りず、明らかに当たっていないのが丸分かりなシーンが多々ある。

だから、見ている方も往年の格闘アクションを鑑賞するのと同じモードに入る必要に迫られる。つまり、相手にダメージを与えている効果音が鳴るなら、例え当たってないように見えても、相手にヒットしたのだと理解するのだ。懐かしの設定をこの21世紀に復活させたという意味で本作は画期的だ。

そんな揶揄の言葉しか思い浮かばないのに結構評価されているから戸惑ってしまう。確かに今のハリウッドアクションは生々しさはあるものの何をやっているのか分からないほどカメラが対象に近づき過ぎるきらいはある。けれど本作での古風な格闘シーンを今さらどう面白がるのか私には理解不能だ。

東南アジアの挌闘アクションといえば、トニー・ジャーが主演した「マッハ」シリーズがある。私は未見だけど、その監督が手掛けた『チョコレート・ファイター』はかなり楽しんだ記憶がある。本作も劇場の迫力ある大音量で見れば、もう少し印象が違ったのかもしれない。
2013.02.02 Saturday 23:57 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
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