すばらしくてNICE CHOICE

暇な時に、
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2021.02.10 Wednesday | - | - | -
無料配信ミックステープ8月号(2013)
国産ヒップホップを中心に2013年8月に発表されたフリーダウンロードのミックステープ一覧。日本語ラップ専門情報サイトJPRAP.COM2Dcolvicsで紹介された作品から選んでいる。日本では2010年ぐらいから徐々に増え始めたフリーDL作品だが、昨今ではその作品数の多さから反対に興味を失いかけているという声も聞かれ、確かに作品の質という意味でも少し低下気味かもしれないと思っていたところに急に豊作月がやって来て、ただただ驚いた。多分今月がこれまでで一番充実している。

<"これだけ聴いとけ作品"を簡潔に教えてくれというせっかちな人のための3枚、なんて今月は無理!9枚!どれも素晴らしい>



上段左は、ついにフルサイズで出してきたラッパー兼トラックメイカーMUMAの挑戦的な1枚。上段真ん中が大阪の高槻POSSEのBYGdaddy。センスの塊。続いて上段右端が日本のミックステープマスターことLB。今回も裏切らない。中段左はかつてSEEDAも認めた茨城のラッパー。中段中央が福岡のラッパー兼トラックメイカーのNF Zessho。来月初の一般流通盤をリリースする若手実力派だ。中段最後が今月の発見といえる神戸のラッパーTEETWOまた旅。下段左が新潟のトラックメイカーANNE Beatsが手掛けた日本語ラップリミックス集。下段真ん中はOlive Oilに見出された若きトラックメイカーArµ-2のビート集。最後が新進気鋭のトラックメイカーSHOT-ARROWの蔵出しビート集。ジャケットをクリックするとDL先に飛びます。



【○】YAN-MARK 『LOST TAPES' 1.5』
2013.08.01 / 全22曲47分 / 320kbps / blog
現在はRYUZO率いるR-RATEDに加入しているSMITH-CNらが地元の茨城県守谷市で立ち上げたヒップホップクルーBACK YARD所属のソロラッパー・ヤンマーク。シーダとDJ ISSOが"YOUNG GREEN"に選出しただけあり、確かなラップ技術がある。『花と雨』から2010年ぐらいまでのシーダフォロワーが雨後の筍状態だった頃ならば目立たない存在だったかもしれないが、スワッグ全盛の今だと反対に新鮮だ。内容は葉っぱを愛好しながら東京近郊で暮らすというありがちなものながら、それでも飽きさせず聴かせてしまうのはスキルの高さの証明。


【○】Ovrd 『The Summer』
2013.08.01 / 全6曲17分 / 320kbps / bandcamp
先月インド風味のビート集(無料配信終了。視聴か購買のみ)を発表した熊本のイル・ジ・エッセンスが同じ「Beat World」シリーズながらも、今回はオーバードという別名義での発表となったインスト集。ジャケットからは東南アジアのようだが、曲名を見ると世界各地のリズムを採取したようで、土着の打楽器を利かした粘りと生命力の宿ったビートが収録されている。今回は当り。


【○】RYO 『"TOWN PAGE"-MIXTAPE- mixed by DJ K-TRACK』
2013.08.01 / 全15曲41分 / mp3,flac,... / bandcamp
長野県松本市在住のラッパー。長野といえばBGY周辺がフリーダウンロード界隈で目立つが、彼はそのクルーに所属しているわけではないよう。KUTS DA COYOTEが現在ヒットさせているという「ラブホなう」をプロデュースした同郷のトラックメイカーMONBEEが約半数で関わっている。歌う内容への情熱でもって聴かせるラップは初期衝動の勢いをよそにこぼすことなく、正しく注ぎ込んでいる。次は独自のラップスタイルの形成か。


【△】ENICE 『Sieze the day』
2013.08.01 / 全17曲66分 / 192kbps / YouTube
那覇の城間CREWに所属するソロラッパー・エナイス。現在もクルーとしての活動があるかは不明だが、検索すると切刃や2011年のBBP MCバトルに出場していた音主らもいたようだ。最新フロウを巻き舌と切り捨てるように、ILL-BOSSTINO譲りのラップにAK-69を掛け合わせたようなスタイルで序盤は強気に攻める。M5から歌メロを取り入れ始め、一瞬面白いと思うのだけど、次第に聴いていて気持ち悪くなる。完全なる音痴というわけではないが、音感が微妙に狂っているのか、自信満々に歌うその歌声がどうにも不快感を加速させるようだ。しかも60分越えのミックステープとくるから拷問に近い。


【○】Compass Posse 『FOUR EP』
2013.08.02 / 全5曲19分 / 320kbps / SoundCloud
ヒップホップ専門雑誌Blastの廃刊を受けて、リスナー有志がアルバムレビューを中心とした「日本語ラップ WEBマガジンCOMPASS」を立ち上げたのが2007年4月25日。日本語ラップ専門サイトとしてブラストのネット版Amebreakが続いたものの、聴き手本位の記事で独自色を出し大いに賑わいを見せた。しかし、2年後の2009年同日、惜しまれながら閉鎖。そのサイトで執筆者として活躍していたYR(歪R/Kaitei Eki)、K.EG、遼、Anpyoの4人が2011年に結成したのがこのコンパス・ポッセとなる。

ペンをマイクに持ち替える難しさは当人たちが一番理解しているのだろうが、トラックメイカーでもあるYRの滋味に富んだビートを基礎に、自分たちが好きだったラッパーからの影響を隠すことをせず、それは普通ならば批判の対象にもなり得るにも関わらず、彼らのそれはどれだけ対象を聴きこみ愛聴してきたのか汲み取れるものであり、そんなスタイルもありなのかもしれないと不思議と受け入れてしまう。それには4人のキャラ立ちの良さや、何よりYRの低音ラップがグループにその質感通りに重みを与えていることが大きいのだろう。

リスナーと演者との垣根が低くなる中、必ずしも好きこそものの上手なれではないことは頻繁にアップされるフリーDL曲を聴けば一目瞭然で、演者から批判の声が上がるのも理解できるわけだけど、彼らのように豊富な知識を生かし、しっかり楽しめるラップができるグループも生まれてきている。リリック面での表現力に限っていえば、ただの自画自賛で終わる凡庸なラッパーの数倍面白いものを書いている。


【○】Clockwork 『It's How We Do It』
2013.08.03 / 全9曲25分 / 320kbps / Twitter
韓国からの留学生ラッパー(現在は兵役中)MOMENTのラップにしばしば登場する大阪大学のヒップホップサークルMastermind。そこに所属する3人組ヒップホップグループ・クロックワークの初作。彼らはモーメントのような"本格"ではなく、リスナーという殻が尻にまだ張り付いたままだ。その特性を上のコンパス・ポッセのように生かせていない。単純にメンバーにYRのような存在がおらず、どんぐりの背比べで満足していることが大きいのかも。リミックス曲のM8では注目のプロデューサーHarry Fraudがこんなビートを作っていたのかと驚かされる。


【○】Green Assassin Dollar 『"Aishu"BeatTape (Side A)』
2013.08.05 / 全15曲20分 / mp3,flac,... / bandcamp
公開・配信終了。6月から始動した、Olive Works所属のトラックメイカーNaoto Taguchiの別名義プロジェクトによる早くも4本目となるビート集。ベッドに寝っ転がりながら聴いていたところ、昔好きだった人の顔が思い出されてきた。ミックステープの題名を確認したら、"哀愁"とあり、ああ・・・と納得することしきり。短調のメロディを生かしたサンプリングは日本人の耳に馴染みやすい。


【○】GRASSRIGHT 『Mistral』
2013.08.05 / 全7曲23分 / mp3,flac,... / bandcamp
京都のソロラッパー・グラスライト。最初に知ったのはちょうど1年前に同郷のトラックメイカー・ホシノコプロが発表したEP(DL先)で、その後は同じく京都のYAMAO THE 12のファーストアルバムにも参加していた。M1冒頭の"夢は芽を出して未来となる"にハッとさせられ、リリカル路線に進んだのかと期待を高めるが、その後は日本語の質感を大事にした上での実直なラップは悪くないものの、それ以上の胸に迫る表現だったり情熱だったりが乏しく、当初の高鳴りははかなくしぼんでしまう。これまた同じ京都のラッパーTKSに雰囲気が似ている(DL先)。


【○】VA 『市民プールサイド』
2013.08.05 / 全7曲25分 / 320kbps / HP
ネットレーベルMaltine Recordsのコンピレーションミックステープ。ジャケット一発でノックアウトだ。フリー作品にプロのカメラマンとモデルを使い、しかもセンス良く仕上げているのだから敵わない。もちろん内容も豪華で、tofubeats、okadada、Osamu Ansaiなどフリー界隈でも安定したビートを作り続けている人たちからラッパーではDKXOが加わり、パブリック娘。の久しぶりの新曲も収録されている。真に市民プール的な、つまりラグジュアリー感ではなく、親しみやすさを追求している冒頭の2曲が題名との調和という意味ではよくできている。


【◎】LB 『大吉MIXTAPE mixed by DJ松永』
2013.08.05 / 全23曲42分 / 320kbps / Twitter
LBとOtowaのセカンドアルバム『THE MAD BOMBER』のリリース直前に発表されたLBとしての新作ミックステープ。本作を聴けば、正規盤への期待は弥が上にも高まるというものだが、ミックステープマスターを自ら名乗るだけあって、ラップスキルだけではなくフリーと正規盤とのギャップという意味でも本場アメリカにせまるものがある。つまり、ミックステープはいいのだけど・・・。それはそれとして、今回もよく練られている。巧みなフロウに刺激的なリリック、飽きさせない仕掛け(埋め込まれたジャケットが変わるところなど芸が細かい)、仲間のフックアップ、そして最後にRANLちゃんを登場させて焦らすことまでしてくれる。本当に見事。過去作も含めて(DL先のURLは歌詞欄に)、一貫して遊び心を忘れないスタイルには完全に魅了されてしまう。ここまで作り込めば完璧だ。


【○】Kentbig Maler 『D.E.M.O vol.2 〜Disco,Eros,Manko,Oppai〜』
2013.08.05 / 全11曲41分 / 320kbps / Twitter
SIMI LAB勢とは気軽に挨拶し酒を酌み交わし、SEEDAのライブではこの人ちょっとマズい人かもしれないから動画では一応モザイクかけとこうと配慮されるほどひとり異常に盛り上がり、SALUとはライブ後に昵懇の仲となり、バーカウンターでSKY-HIやKEN THE 390と会えば挨拶され、AKLOやKLOOZも彼のサウンドクラウドをチェックしているというケントビッグ・マラーの最新作。

そんな数々の伝説を生み出してきた男も昼間は真面目な会社員であり、それがどうして日本語ラップ界の次世代を担う有力ラッパーたちから一目置かれているのかは、本作のM7を聴けば分かる。

巧いラップをしなければいけない。それを強迫観念にまで成長させてしまった結果、ありがちなライムや言葉に頼り、似たり寄ったりのスワッグに陥っているラッパーが多い。もちろん巧いラップが悪いわけでない。巧いとされるひとつの手本を皆が安直に真似をすることが問題なのだ。

そして、マラーだ。そのふざけたMC名も含めてだが、彼は自由だ。ほとんどの楽曲をフリースタイルで仕上げるそうだ。そうしたことも関係しているのだろう。業界のおかしな常識に囚われることなく、心の赴くままにテーマを選び、内面を解放させ、どこまでも高く飛翔する。その姿勢に多くのラッパーが共感するのだろう。

しかし、本作自体は微妙だ。前作(DL先)ほどにはコンセプトが固められず、前作発表後にできた新曲を単純に収録しただけに映る。かの名曲「Be Strong」(DL先)級が1曲でもあればまた違ったのかもしれないが。


【○】Green Assassin Dollar 『"Aishu"BeatTape (Side B)』
2013.08.06 / 全15曲21分 / mp3,flac,... / bandcamp
公開・配信終了。前日の"Side A"に続くB面。シンプルに旋律の美しさに焦点を当てたA面から一転、"動"の楽曲が増えた。よれたビートや声ネタなどもあり、以前の名義の作風に戻った印象を抱く。

彼の作品は発表から数週間で取り下げられる。だからこうしたまとめ記事で紹介する頃には公開が終了している。よって、彼のトゥイッターアカウントのチェックを1日1回日課することをお勧めする。それだけの価値はある。


【○】SHOT-ARROW 『THE PAST BEATS』
2013.08.06 / 全10曲35分 / mp3,flac,... / bandcamp
昨年ERAのファーストアルバム『3 WORDS MY WORLD』の全面リミックス作(DL先)で頭角を現し、先月にはAIWABEATZと共に埼玉のラッパーKOITAMAのミックステープ(DL先)を手掛け、その確かなビート作りに注目が集まるショットアロウが2003年から2011年にかけてのビートをまとめた作品。曲の並びがどうなっているのかは不明だが、特に中盤の数曲は寝かしておいたのはもったいなかったのではと思えるほど素晴らしい。ヒップホップが脈々と受け継いでいる美学に根ざした音がある。


【◎】BYGdaddy 『ZAP2』
2013.08.07 / 全11曲37分 / 320kbps / blog
完全復活が待たれるLion's ROCKやJABらを擁する大阪のヒップホップクルー高槻ポッセに所属する3人組グループBYGダディ。2011年リリースのセカンドアルバム『ZAP』に続く3枚目としての位置付けになる。3人組とはいえラッパーはChang kowloon(以前はIPPey名義)ひとり。3人が分担して制作している音も破格だが、彼のラップ能力の高さは別格だ。KEN THE 390率いるDREAM BOYSがグループ名義で先日リリースしたミニアルバムの全トラックをチャン・クーロンが作っていたけれど、本作で詳らかになった彼のラップを聴くと、あの4人のトラックの乗り方は明らかに間違っている。完全に異質な世界観とリズム感があり、できることなら夢見がちな4人に与えたビートを彼自身が乗りこなすというディレクターズカット版を聴きたい。それと、このEDMなトラックのインストが配布されたとして、どれだけのラッパーが適応でき、しかも中身のあるリリックを落とし込めるのか見物だ。『SODA POP』のPVが発表された時もワクワクさせられたが、それ以上の世界が広がっていた。


【○】Zion Soldier 『ZION DOOM』
2013.08.08 / 全20曲52分 / 320kbps / blog
配信終了(2週間限定)。UMBで活躍し、今年のBBPでも子煩悩な"パパラッパー"ぶりを披露したY.A.SやSTOCK、豆汁らによる静岡のヒップホップクルー、ザイオン・ソルジャーが鉄仮面でお馴染みのMF Doomの楽曲をリミックス。敢えてMFドゥームという選択も興味深いが、繋がりがあるらしい名古屋の先鋭的なクルーJET CITY PEOPLEから呂布カルマやBASE、あるいは神奈川からは丸やあるまが参加しているのも面白い。


【○】SEMINISHUKEI & NEO TOKAI DOPENESS 『Gang Bang Sampler』
2013.08.08 / 全12曲43分 / 320kbps / HP
BUSHMINDやDJ HIGHSCHOOLといった地下のヒップホップ好きを刺激するプロデューサーを擁するレーベル・セミニシュケイが名古屋のジェット・シティ・ピープル所属のふたりのラッパーCAMPANELLAとTOSHI蝮の楽曲をリミックス。P-VINEからということでマスタリングは豪華にもINNERSCIENCE。曲の大半はふたりが昨年リリースしたコラボアルバム『CAMPY & HEMPY』からとなる。


【△】VA 『FOGPAK #7』
2013.08.09 / 全48曲204分 / mp3,flac,... / bandcamp
第1弾は知らないが、2回目が全14曲、次が17曲、続いて22曲、32曲、34曲と順当に増えてきて、そして今回全48曲収録。全然順当でないことはともかく204分という収録時間に端から全曲聴く気も起きない驚異のコンピ。今回のお題テーマは"深海200メートルの魂"。PARKGOLF、SUNNOVA、Ryuuta Takaki、909state、Lidly、Leasekaといった興味のあるアーティストをかいつまんで聴く。質より量。


【△】EMUBEE 『MAZEKOZE』
2013.08.10 / 全9曲30分 / mp3,flac,... / bandcamp
1991年京都生まれ、現在関西大学に通う学生さんラッパー。Asher Rothの「I Love College」をリミックスしているように、あのPVの雰囲気そのままに気ままで自堕落な生活が横溢する学生時代の楽しい思い出的なミックステープ。


【○】DJ TATSUMA 『Representation of our』
2013.08.12 / 全11曲28分 / 320kbps / Twitter
以前は頻繁に日本語ラップのリミックスなどをサウンドクラウド上で無料配信していた兵庫県在住のトラックメイカーDJタツマのプロデュース作。ブルーズを取り入れるなど作風に一定の幅はあるものの、良心さ以上の特徴はない。参加ラッパーたちは以前から彼とコラボしてきたフリーDL界隈でまとまり、最初から聴き手を絞った内向きな作品。


【】Luviia×Linn 『Luvlin』
2013.08.12 / 全7曲分 / mp3,flac,... / bandcamp
投げ銭式。東京在住のトラックメイカーで、Pepil Pewというグループに所属するLinn Moriと台湾のLuviiaによるコラボビート集。ただ、共同作業曲自体はM7の1曲のみで、前半3曲がLuviiaのプロデュースとなり、後半3曲をリン・モリが担当するいわばスプリット式。前半はおしゃれな音という印象に留まるのだけど、M4からいきなり音が深く落ち込む。そのギャップが面白く、そこだけ繰り返し聴いてしまう。


【○】REPWEB 『remake"UP!"』
2013.08.16 / 全5曲21分 / 192kbps / HP
ReoとPinkeyからなる兵庫県出身の男女のラップデュオ・レップウェブ。先月出たミックステープ『UP!』(DL先)からトラックメイカー9llA Soundzが担当していた5曲をD.R.E.A.M.WARKZが改変したリミックス集。原曲でキュラサウンドがしていたように、本作でも足し算で音を派手にする方法論が取られ、リミックスとはいいながらも似た雰囲気のままであるのは残念。

彼らのホームページの充実度は素晴らしい。ミックステープを作っても出しっぱなしで終わってしまうアーティストたちにここまでの完成度は求めないにしろ、彼らの自分の作品を大事にする姿勢を少しは見習った方が良い。なお、『UP!』のインストやアカペラも配布されている(ここここ)。


【○】REPWEB 『UP!』
2013.07.26 / 全9曲33分 / 320kbps / HP
上でも紹介している男女によるラップデュオ・レップウェブが先月発表した2本目のミックステープ(1本目は今年1月[DL先])。ふたりは共にラップのスキルがあるわけではなく、ニコニコ動画で活躍しているラッパーたちと同じ臭いがする。ただ、女性ラッパーがいるというのは男社会のヒップホップ内ではそれだけで個性になり得る。特にピンキーは声だけ聞けば愛嬌がある(容姿は見たことないので知らない)。本作でも一番良いのはM5のスキットだ。一方で、M4やM6のテーマはいいし、M7やM8のメロディラインも耳馴染みが良い。mihimaru GTのmiyakeや南海キャンディーズの山里のごとく、レオが上手に彼女を転がすことができれば、面白くなりそう。


【○】shigge 『naughty』
2013.08.17 / 全8曲35分 / mp3,flac,... / bandcamp
福岡のトラックメイカー・シゲが仲間と共に立ち上げたレーベルから第1弾として発表したビート集。作品の最後に他3人によるリミックス曲も収録されている。1曲目からFriendzoneのような音が広がり、こんな音作りだったかなと思ったら続いてトラップとなり、M3では曲の展開に翻弄される。シンセ音を厚く塗りこめる静的なビートではなく、どこか明るい音を求める後半に個性が表れているよう。


【○】TEETWOまた旅 『EARTHBOUND』
2013.08.19 / 全10曲35分 / 320kbps / Twitter
神戸のソロラッパー・ティーツーまた旅。初めて見る名前だが、そのMC名からたいした期待を抱かずに耳にしたらこれがかなり良い。詩人ではなくラッパーとしてのリリカルさがあり、特に暗喩を効果的に使い、洋楽ヒップホップのような歌詞を自然に作り出しているのに惹かれる。言葉を正しく選択しライミングするならば、日本語を崩さずともグルーヴを生み出せることをそのフロウは証明している。それと、トラックの選択でも魅せる。同世代の向こうの実力派ラッパーたちのもので始まり、ジュークを経て、Love Psychedelicoをネタ使いするといったオリジナルトラックを織り交ぜ、最後にはR&Bを起用するなどビート面での挑戦も興味深い。


【○】NF Zessho 『Prelude to "NF" MIXTAPE』
2013.08.21 / 全17曲44分 / 320kbps / HP
待望の一般流通アルバム『Natural Freaks』を来月リリースする、1993年生まれ福岡出身のラッパーで、トラックメイカーとしてはGudamanss名義で活躍するNFゼッショー。これまでに両名義で合わせて5枚のミックステープを配信(DL先。あ、コラボ作もあった)し、自主制作EPを1枚発表してきた。その彼が以前のMC名"絶招"から"NF Zessho"へ昨年春に替えた際、新たに頭に付けた"NF"を由来とするファーストアルバムに至るまでの道程を示すのが本作だ。

初出の楽曲や今年に入りサウンドクラウド以上で発表してきた新曲(無料配信されていなかったので嬉しい処置。グダマンス名義の数曲も期待)が大半を占める中で、M16は音こそは盟友Yoshinumaのビートに差し替えられているものの、2011年3月に発表されたラップ(私が最初に彼のラップを聴いた曲でもある)であり、そこから新たな段階へと踏み出す気持ちを歌う最終曲M17に繋ぐなど素敵な構成になっている。

J Dilla直系の自身のビートに鋭利な彼のラップが乗るとまるでISSUGI!となる曲があったりするのも確かだが、M3やM7、M12、M15などで見せる才気走らせるよりも歌メロを取り入れフロウの気持ち良さを優先するスタイルに彼の良さがあるように思う。アルバムが本当に楽しみだ。


【○】BB 『BLACK & BLACK』
2013.08.22 / 全10曲30分 / 320kbps / Twitter
大阪のラップデュオGhost DogをRadooと組むBBのソロ作。相棒のラドゥはすでにソロ(DL先)やコラボ(DL先)で出しているが、ついに"Black Beast"ことBBも、5〜6月に大阪の船場にあるBLUE VERY STUDIO発のコンピシリーズ(DL先)収録のソロ曲を含めた10曲入りの本作を発表した。ブルーヴェリースタジオ作品はラップのかっこよさがありつつも、煙たいのひと言で収まってしまうのも事実で、BBもそうしたラッパーだと思っていたのだけど、こうしてソロをじっくり聴いてみると意外にも(失礼なものいいだが)路上の詩人としての繊細な言葉が並び、雰囲気としてのかっこよさだけではなく、内容でも魅せるラップであることに気づかされる。


【◎】MUMA×Quidam Beatz 『Feel Free』
2013.08.25 / 全15曲57分 / 320kbps / blog
1990年札幌で生まれ現在は東京で暮らすラッパーであり、トラックメイクもこなすムマによる、昨年と今年3月に発表した完成度の高い2枚のEP(DL先。記事の最後にある)に続く、ようやくといってもいいフルサイズのミックステープ。神奈川は川崎を拠点にするRoZEO Crewの一員で、ムマとは同年代のトラックメイカー・キダムビーツが全トラックを担当。

音作りを一任した彼はラッパーとしての力量を存分に発揮し、耳の中でうねるグルーヴを送り込んでくる。その様は暴君そのものだ。持ち味の鋭利なリリックは常に刺激を与え続けるわけだけど、今年出演したBBPのステージでも語っていた通りに、どれだけ曲を作っても認められない悔しさやいら立ちが本作の多くのリリックに認められる。そうした想いが暴力的なまでに荒れ狂うラップの推進剤となっている。浴びせられる言葉の激流に酔いしれながらも、同時に目を白黒させてしまう部分が確かにある。だから落ち着いてリリックに目を通しながら聴くと、今度は表現の巧さや独特さに驚かされることになる。

次元の高いラップができて、キャッチーなトラックも作れて、PVまで自身で制作し、今年のBBPのような悪条件下でも魅力を損なうことなくライブできるパフォーマーとしての技術も持ち、他人のケンカにまで口を出してしまうラッパーとしての正しい瞬発力や負けん気の強さ(リリックの中でも言及されている「By Me」はこれ)を持つ彼が正当に評価される時代が来ることを願わずにはいられない。


【○】ANNE Beats 『The ANNE Beats Show』
2013.08.25 / 全11曲46分 / 320kbps / blog
上で挙げているLBの『大吉MIXTAPE』にもビートを提供している新潟のトラックメイカー・アンネビーツ。これまでもKREVAのリミックスやLBの過去曲(DL先)、やはり同郷のSiro da Funkのミックステープ(DL先)に参加していたので名前は覚えていたが、その音の全体像がようやく明らかとなった。本作ではサイプレス上野とロベルト吉野やSKY-HI、KLOOZ、KEN THE 390らの曲をリミックスしている。大方の曲で原曲の雰囲気そのままだったり、あるいはさらに誇張させる路線だったりするため違和感はない。反対に、彼のリミックスバージョンで出した方が面白いのではと思わせるのは第一に音に安定があるからで、その奥底には自分のビートへの強い確信を感じさせる。

HilcrhymeのTOCがISH-ONEの「New Money」をリミックスして話題になっていたが、そのヴァースの前半を使い(もともとは本作のために録音したものなのか?)、LBヴァースも加えたM9や、そのふたりにUSU aka SQUEZやDJ松永といったやはり新潟出身者たちにより昨年10月に発表されていた「HOOD FINEST」も収録されている。


【△】Hanzo Reiza 『The Blue Jeans Monster』
2013.08.25 / 全15曲48分 / mp3,flac,... / bandcamp
英国はロンドン在住のラッパー兼トラックメイカーのハンゾー・レイザが日本人ラッパーのJulian Naganoや現在はタイで生活しているMek Piisua、かるまtheZIPPER、Majikichi Crewといったメンツを客演に迎えた作品。単純に力量不足なのか、ハリウッド映画に染まり過ぎてイギリスアクセントに慣れていないからなのかハンゾーのラップ自体が受け入れ難く、その音にしても耳当りの良い華やかさに一瞬好感を持つものの、飽きがくるのも早い。本作に参加しているメンバーらを始め、日本人と頻繁にコラボし、ずいぶんと親日家のようで嬉しくはあるが、作りの雑さもあり微妙だ。


【○】Green Assassin Dollar 『Summer Heat Breaks』
2013.08.25 / 全8曲13分 / mp3,flac,... / bandcamp
公開・配信終了。ナオトタグチによる現在の別名義グリーン・アサシン・ダラーの今月3本目。M1こそは当初彼の新しい路線だと思っていた音があるが、洋楽ラップ曲のリミックスが収録され、名義分けはただ気分を変えるための一手段なのだなということが一層明らかとなる(それが悪いとかそういう話ではもちろんない)。


【○】Arµ-2 『ThankU4ALL』
2013.08.25 / 全15曲33分 / mp3,flac,... / bandcamp
10月にはオリーブワークスからファーストアルバムのリリースが控えている、1993年生まれ埼玉県川口市在住のトラックメイカー・アルツーの『Check Me』(DL先)に続く作品。2週間に渡りオリーブオイルの本拠地・福岡でセッションという名の"音楽修行"を行ったということで、1曲目からRAMB CAMPのFREEZのフリースタイルで始まるが、基本は同地のトラックメイカーたちとの交流を中心としたビート集となる。独特なタイム感がある音世界には強固な個が感じられ、分かる人にだけ分かるミュージシャンズ・ミュージシャンになりそうでいながら、どこかユーモラスな雰囲気をたたえていて、かなり面白い存在だ。同じようにファーストアルバムをリリースするNFゼッショーも参加。


【○】不思議な庭Session 『不思議な庭Session』
2013.08.25 / 全4曲78分 / mp3,flac,... / bandcamp
クレジットを見ると、ラップ担当が3人いるが、この即興セッションで披露されているのはラップではなく、ポエトリーリーディングだ。しかも長い。特に「Improvisation FreeStyle」と題されたM1は暇を持てあました美大生たちの遊びのようで悪夢でしかない。M2の終盤からポエトリーは深くもぐり始め、M3はなるほどと楽しんで聴ける。しかし、一番面白いのはM4だ。居酒屋かどこかでセッション終了後に気ままな音楽談義をしている様子が収録されている。その理想の高さとM1とのギャップには呆れるが、しかしアーティストのこういう会話はそれはそれで興味深いものがある。


【○】starscream 『DEPTH』
2013.08.30 / 全5曲14分 / 320kbps / YouTube
今年のBBPでは"抹 with ネットラップオールスター"の一員としてMCバトルエリアのステージに立った、ネットレーベルStudio Cocoon所属のスタースクリーム。パフォーマーとしての力量はともかく、スタジオラッパーとしては確固たる世界観を持ち、一般的なラッパーとは真逆の方向に全力疾走している様が良い。「微睡み」(DL先)が確か最初に聴いた彼のラップだったはずだが、あれから時間も経ったがいまだこじらせ続けていて、それがさらに悪化しているのが表現者としては極めて正しい有り様に思える。


【○】Osamu Ansai 『Twilight Remix』
2013.08.31 / 全8曲64分 / mp3,flac,... / bandcamp
上で挙げてるマルチネレコーズのコンピ『市民プールサイド』にも参加している新潟在住のトラックメイカー・オサムアンサイが、やはり同じ新潟出身で、曽我部恵一のROSE RECORDSに所属する兄弟ユニット・ハイカラハクチと共作した夏の終わりを歌う表題曲と、PR0P0SEのthamesbeatやasahiyan、LUVRAW & BTBのLUVRAWといった腕の確かなメンツが洒脱な音で染め上げたそのリミックスを収録した1枚。インストやアカペラも同封されていて、本曲誕生のきっかけにもなった「水星」を手掛けたトーフビーツが発表後早速リミックスを発表(DL先)している。


【○】MC鈴木DX 『THE 鮪男セミファイナル』
2013.08.31 / 全8曲23分 / 160kbps / Twitter
2009年から続くTHE鮪男シリーズ(1作目は無料配布、2作目が2010年、3作目、4作目は順調にそれぞれ2011年と2012年にリリースされ、この2枚はアマゾンでも購入可能)のセミファイナル作は"山本彩選抜記念"とも銘打たれ、無料配信での発表となった。ありがたい。MC鈴木DXといえば無類のアイドル好きで、昨年末にはアイドルの歴史をぎゅっと3分間に凝縮したラップを披露(DL先)し、また大島優子の握手会で本人を前にして勇敢にもラップしたのは彼ではないかと一部で囁かれもした。

そんな彼だからイロモノ扱いされるのは必至で、まあ実際に聴けばコミックラップではあるのだけど、その一方でヒップホップにとって至上命題とされる"リアル"が内包されているのも事実だ。例えばRレイテッドのCEO・リューゾーは「HATE MY LIFE」で厳しい生活を送る労務者たちの生活を描写し、"お前の気持ちを俺がライム"とラップする。それとMC鈴木DXのラップは全く同じだ。そう今この文章をPCの画面越しに読んでいるあなたの生活を、気持ちを、願望を、悩み嫉み、性欲までをも彼は代弁してくれるのだ。リューゾーがハードコアなリアルを切り取っているとされるなら、MC鈴木DXもまたナードなリアルを綴っていて、それは間違いなくリアルヒップホップだ。


【○】R.O.G 『JUDGEMENT』
2013.08.31 / 全5曲11分 / 320kbps / Twitter
秋田を拠点とするYOUNG CHAINというクルーに所属するラッパー・ログの初作。インターネットのおかげで全国各地に散らばるラッパーたちの楽曲を手軽に聴けるようになって久しいが、秋田というのはまだ珍しい気がする。"こいつでしてくれジャッジメント"と若者らしい強気な姿勢が頼もしい。M2で聴ける高い声も自然な声音でのラップが普通となった最近ではなかなか聴けないもので、"ハイハーイ"とやって欲しくなる。


【○】N9nety-One 『Lifted』
2013.08.31 / 全5曲18分 / 160kbps / blog
曲数自体は少ないものの、今年に入り偶数月に新作(DLはここの"Trailer"とある動画から)を出し続けているナインティ・ワンの通算で8本目となるミックステープ。2013年突如覚醒し、毎回意欲的な楽曲を発表し続けてきたのに、今回は去年までの彼らに戻ってしまったようだ。L-VOKALが久しぶりにアルバムを出すからということでもないだろうが、テーマ的には面白いはずのM2にしても、いまいち冴えが見られない。






【○】AudioSniper 『1st demo EP』
2013.06.14 / 全5曲10分 / mp3,flac,... / bandcamp
アルバムの完成が待たれる期待のラッパー蛇(ex. Nakaji。彼のミックステープはここから)が率いる滋賀のヒップホップ集団花魁音盤に所属する1990年生まれのSparrowとその4つ下に当たるAtokによるオーディオ・スナイパーの初作。彼らのテーマ曲ともいえる「百花繚乱」の新リミックスが収録され、DREAM BOYSや八王子Pの「fake doll」の上で歯切れの良いラップを披露する。M5のフックの入りは原曲よりずっと盛り上がる。


【○】GORO-MC 『RE:ACTION!! JPN HIP HOP REMIX'S』
2013.06.23 / 全15曲40分 / 160kbps / blog
愛媛県西条市出身の1993年生まれ。ラップを始めたのが昨年2月で、9月には輪廻 the CREWを結成し、現在は京都で活動。ラップ歴がどうという問題ではないことがよく分かる。そもそも声質が良く、その素直な声音を生かした自然体なラップは聴いていて気持ちが良い。後は内容か。KLOOZ「Supa Dupa」のリミックスでは花魁音盤の蛇が3番手で登場し、前ふたりの内容を全てまとめてなおかつオチを付ける。さすがだ。


【○】Paranel 『HALFMONSTER』
2013.05.31 / 全9曲32分 / 160kbps / HP
日本でいち早くフリーダウンロードで作品を発表し始めたインディーズレーベルLow High Who? Productionを率いるパラネルの無料配信としては久し振りの作品。最近は雨風食堂やCOASARU名義で一般流通盤をリリースする一方で、有望な新人を次々に発掘しレーベル運営をさらに活発化させているだけに驚きもあるが、その多忙さがあるからこそ、優しい声が際立つ歌物作品集となったのかもしれない。昔よく聴いていたロックを彷彿させるM4や、声にうっすらとエフェクトをかけたM5、ひたむきに生きるM7、そして最後のM9がとりわけいい。チューリップのいわばラップ挿入版でほんの数小節加えるだけで曲をグッと引き寄せている。


【○】JIVA Nel MONDO 『YABA EP』
2013.07.25 / 全5曲15分 / 192kbps / Twitter
サウンドクラウド上にもコンスタントに新曲を発表している愛知県春日井市在住のラッパー・ジヴァネルモンドが7月に出した楽曲をまとめたもの。M4のような聴かせるリリックやフックがあるものの、大半のラップは確かにそれがはやりだからではあるが、Jinmeusagiが指摘するところの"発音障害"ラップであり、いい加減そのフロウはもう十分では?と思わせるものがある。




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<まとめ>
2010年〜2011年1月〜9月分 Tegetther
2012年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2013年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月

・「JPRAP.COM presents "The Se7en Deadly Sins"」 →記事(2011.05.26記)
  2010年の主要フリーダウンロードミックステープについてもある程度まとめてある。
・「昨今の国産ヒップホップ・無料DLミックステープ事情」 →記事(2011.09.30記)
  2011年前半の作品に焦点を当てた記事。
・「VA『Fat Bob's ORDER vol.1』」 →記事(2011.10.07記)
  記事の最後に名古屋関連のミックステープのまとめた。
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2013.08.31 Saturday 23:59 | 音楽 | comments(2) | trackbacks(0)
Charles Mingus『Charles Mingus Presents Charles Mingus』

Charles Mingus / Charles Mingus Presents Charles Mingus
Label: Candid
Release: 1960

Personnel:
Ted Curson - trumpet
Eric Dolphy - alto sax, bass clarinet
Charles Mingus - bass
Dannie Richmond - drums

Recording Date: 1960.11.19

Song List:
01. Folk Forms No. 1
02. Original Faubus Fables / フォーバス知事の寓話
03. What Love
04. All The Things You Could Be By Now If Sigmund Freud's Wife Was Your Mother / 汝の母もしフロイトの妻なりせば
2013.08.31 Saturday 00:00 | ジャズ | comments(0) | trackbacks(0)
Art Pepper Quartet『Modern Art』

Art Pepper Quartet / Modern Art
Label: Intro
Release: 1954

Personnel:
Art Pepper - alt sax
Russ Freeman - piano
Ben Tucker - bass
Chuck Flores - drums

Recording Date:
1956.12.28: Tr.1-2, 6-8
1957.01.14: Tr.3-5

Song List:
01. Blues In
02. Bewitched / 魅せられて
03. When You're Smiling / 君微笑めば
04. Cool Bunny
05. Dianne's Dilemma
06. Stompin' At The Savoy / サヴォイでストンプ
07. What Is This Thing Called Love / 恋とは何でしょう
08. Blues Out
2013.08.30 Friday 00:00 | ジャズ | comments(0) | trackbacks(0)
Kenny Dorham『'Round About Midnight At The Café Bohemia Volume 2』

Kenny Dorham / 'Round About Midnight At The Café Bohemia Volume 2
邦題: カフェ・ボヘミアのケニー・ドーハム Vol.2
Label: Blue Note
Release: 1984

Personnel:
Kenny Dorham - trumpet
J.R. Monterose - tenor sax (Tr.2 omit)
Bobby Timmons - piano
Kenny Burrell - guitar
Sam Jones - bass
Arthur Edgehill - drums

Recording Date: 1956.05.31 Live at Café Bohemia, NYC

Song List:
01. K.D.'s Blues
02. Who Cares
03. Mexico City (alternate take)
04. Royal Roost
05. My Heart Stood Still
06. The Prophet
2013.08.29 Thursday 00:00 | ジャズ | comments(0) | trackbacks(0)
Freddie Hubbard『Open Sesame』

Freddie Hubbard / Open Sesame
Label: Blue Note
Release: 1960

Personnel:
Freddie Hubbard - trumpet
Tina Brooks - tenor sax
McCoy Tyner - piano
Sam Jones - bass
Clifford Jarvis - drums

Recording Date: 1960.06.19

Song List:
01. Open Sesame
02. But Beautiful
03. Gypsy Blue
04. All Or Nothing At All
05. One Mint Julep
06. Hub's Nub
2013.08.26 Monday 00:00 | ジャズ | comments(0) | trackbacks(0)
Thelonious Monk『Thelonious Alone In San Francisco』

Thelonious Monk / Thelonious Alone In San Francisco
邦題: アローン・イン・サンフランシスコ
Label: Riverside
Release: 1959

Personnel:
Thelonious Monk - piano

Recording Date:
1959.10.21, San Francisco: Tr.1-4, 7, 9, 11
1959.10.22, San Francisco: Tr.5-6, 8, 10

Song List:
01. Blue Monk
02. Ruby, My Dear
03. Round Lights
04. Everything Happens To Me
05. You Took The Words Right Out Of My Heart / 君は奪いぬわが心を
06. Bluehawk
07. Pannonica
08. Remember
09. There's Danger In Your Eyes, Cherie (take 2) / あなたの眼がこわいの
10. Reflections
Bonus Track
11. There's Danger In Your Eyes, Cherie (take 1) / あなたの眼がこわいの
2013.08.25 Sunday 00:00 | ジャズ | comments(0) | trackbacks(0)
BBOY PARK 2013(8月18日)@代々木公園野外音楽堂

さて、BBOY PARK(以下BBP)2日目。1日目の疲れを不思議と気にせずサクッと起きられたはずなのに、代々木公園に着いたのは13時21分。慌てて家を飛び出した昨日よりも遅いとはどういうことだろう。


【SILENT HILL'Z】 〜13:24

静岡のグループ、サイレント・ヒルズ。昨年は1日目のメインステージに立ったが、今年はメインとは名ばかりのステージできっと驚いたことだろう。賑やかなフックが印象的。

【スナフキン】 13:25〜13:40

自分のトゥイッター・アイコンを考慮せずにそのグループ名をタイムテーブルで見た時に思ったのは、ヒップホップなのにずいぶんとメルヒェン(Ⓒ川原泉)なんだなってことだったけど、舞台のふたり組は少しもかわいくはない。BBPでは「証言」トラックを使えば簡単に人集めができるようで、あのメランコリックなビートが鳴り出すとすぐさまわらわらと我こそは意識高いと自認する"ヘッズ"が誘蛾灯に集まる夏の虫のごとくステージ前に集う。BBPで「証言」は鉄板だ。

【DJ CELORY from SOUL SCREAM】 13:40〜14:04

「I REP」に始まるDJセロリの選曲はなりふり構わず盛り上げようとするもので、「STAY STRONG」「デッパツ進行」「最ッ低のMC」「NMU」「蜂と蝶」と進み、「口からでまかせ」ではK DUB SHINEからZeebraのヴァースの頭まで聴かせてそのまま「Street Dreams」へ。"雷 RHYMESTER BUDDHA BRAND"と同志を上げていくところですかさず「人間発電所」。フックを十分歌わせた後は「WE SHINE」「Zoo Rock」「AREA AREA」「ONCE AGAIN」と新旧のクラシック、アンセムの目白押しでそれはもう盛り上がるしかない。

この後に平均年齢14歳のアイドルグループが控えているにも関わらず、NIPPSのパンチライン"中学生のプッシー"を流してしまうところに、DJセロリの悪意を読み取れなくもないが、彼女たちのために場を温めたともいえる。いずれにせよ、日本語ラップの聖地BBPに生粋のアイドルが出演することが伝えられ、当然賛否両論ある中、その直前にDJをするという難しい役どころを与えられた彼が、例え選曲が卑怯なほど名曲揃えだとしても、お盆の灼熱の太陽光が降り注ぐ下、問答無用で躍らせるのはやはりレンジェダリー・ソウル・スクリームの名に恥じないプレイだ。


晋平太が出てきて、ちょっとした説明を始める。"次のグループは今までのアーティストとは毛色が違うかもしれないけれど、どうしてもBBPに出たいといってわざわざ九州から出てきたグループで、俺は詳しいことは知らない(あ、責任放棄)し、文句もあるかもしれない。とにかく自分たちの目で見て判断して下さい。とにかくバイアスはなしで。ダサかったらダサいでいいじゃん。かっこよかったら応援してあげて下さい。それがBBPだと思います"。なかなかいいことをいう。


さすがは晋平太。ULTIMATE MC BATTLE史上初の2連覇を成し遂げた猛者の男気溢れる紹介を受けて、ステージに上がるのはショートカットが涼しげな深瀬智聖17歳(【追記(2013.09.12)】27歳とのこと。じわじわと尊敬の念が湧いてきた。ひと回り以上離れた若い子たちと同じステージに立っているなんて本当にすごい)。偉人Dr.DREをさらに大金持ちにさせ(、アルバム出さなくても金あるし別にいいっしょとさせ)た罪深きヘッドフォンを装着、DJブースに立つ。

まずはFla$hBackSが鳴らされ、程よいところでB.D.の「GOROAWASE」へ。BBPでもレアキャラのGORE-TEXヴァースが終わり、ということは曲も終盤がすぐそこというところで、これでいいのかなといった調子でポチっとすると、それまでの東京勢から一転、博多のTOJIN BATTLE ROYALの「Nan Shot-Ya」が鳴り出す。前列で見ているのでいつの間にかLinQファンに囲まれているが、彼らは一斉に喝采を送る。彼らもトージン好きなのか、あるいはリンクと同郷で粋な選曲と判断したのか。

そんな一時の盛り上がりをよそに日本語ラップファン、それもコアなファンにしか分からないような曲がSEとして使われている間、ブースでは初めて見る機材なのか17歳アイドルが戸惑い続けている。スタッフが駆けつけ教えたり、彼女自身が配線を変えてみたりするが、リンクのパフォーマンスは始まらない。舞台奥(ステージはテントなので控えているのが丸見え)には他のメンバーが所在無げに立ち尽くす。MC漢に唐突に変えた直後、深瀬はいきなりマイクを持ち、"みんな地蔵になってんじゃねぇぞこの野郎"と煽る。そういえば、大量発生すると予想されたリンク地蔵(参照)は杞憂だった。DJセロリの鬼のパワープレイが利いたのだろう。それはともかく、地蔵にもならざるを得ないだろう。炎天下、地味で根暗で向上心も協調性もない地下のラップを聴かされ続けるのだ。

漢のラップが続く中、マイクを一度は置いた深瀬が再び"こっちだって緊張してんだよぉー"と話し、さらに驚愕の事実を吐く。"下手くそなDJの後はアイドルで楽しんで下さい"。

ここでようやく理解したのはBBPの大ボスCRAZY-Aの数日前の呟きだ。

"LinQってアイドルグループの一人がDJで日本語ラップ好きらしいんだがBBPに出してくれって言うんでOKしたんだが他のメンバーも来ちゃうらしいのよね"

リンクの名前だけは知っていたものの、実際にどういうグループなのかは知らずにいた。RTでこの呟きを見た時、まさかアイドルグループにDJがいるものだとは思わず、コンサートの時にバックを支える大人のDJ、遊助でいえばDJ GPみたいな存在がいて、その人の後押しがあって今回の出演になったと理解したのだ。ずいぶんな早合点だ。今読みなおせば、"グループの一人"とちゃんと書いてあり、アイドルがDJをするとしか読めないことは分かる。

話を戻せば、先ほどまで深瀬がブースに立ち、ポン出しでBBPに合うような選曲のSEを出しつつ、機材トラブルを解消しているように見えたのは、つまるところDJプレイだったのだ。あー驚いた。

漢のらしくないフック、"成功の裏にある溜息の数 試してみなきゃわからない自分の力 ワンチャンス モノにできる実力と行動 できる判断力 準備はできているのか 次はお前の番だ"まで流してから、彼女は本来のアイドルとしての立ち位置に戻り、メンバーもステージに現れ、"完全アウェイですけれど頑張りますね"と健気に振る舞ってみせる。

【LinQ】 14:13〜14:27

地蔵から戻ったファンも手拍子をし、フックでは"おおぉーーだ"とか"せいやせいやせいや"だとかいう歓声を送る中、いかにもなアイドルソングを彼女たちは歌い踊る。2曲目の性急なビートだけは面白く感じるが、それでも歌メロはアイドルのそれでしかなく、自分の場違いさに気づき、後方に退却する。

ひょっとしたら低年齢のアイドルを目の前で見るのは初めてかもしれない。アイドル曲自体は嫌いではないし、あの一定のフォーマットに収まった歌はポップソングの鑑だとも思う。彼女たちの何に忌避感を覚えるのかといえば、同じ振り付けで踊る群舞の気恥ずかしさもある。振り付けはクレイジーAによれば、"日本を代表するダンスチーム(自己申告)"BE BOP CREWというチームが行っているらしいが。

それと、もうひとつ。正視できないもっと大きな要因は私の年齢が多分に関係しているのだろう。10代前半の女の子たちが大人の好奇な視線にさらされているのを、テレビではなく、実際の現場を見ることで感じる戸惑いは想像以上に大きい。アイドルとはそういうものだろうし、少女たちも大人から搾取されるだけの被害者ではなく、裏で支えるスタッフを始め、彼女たちを応援するファンとの間で共犯関係を築いていることは理解できる。しかし、実際に自分がその場に身を置くと、その生々しさはとてつもなく、しかもここが大事なところだが、パフォーマンスとして稚拙で、結局すごすごと後方に下がることしかできない。

どうしてアイドルについてこんなに長々と書いているのか分からなくなってくるが、BBPの日本語ラップファンが彼女たちにどうジャッジを下したのかは以下の写真の通り。上がリンク。下が同時刻のMCバトルエリア。NONKEYが自らいわば"対バン"を買って出たようだ。



終わりの方は日本語ラップに合わせて踊るのを遠目で眺めるに留める。帰宅後TLを眺めていて教えられたのだけど、最後に流れたRHYMESTERの「ウワサの真相」の一節にこんなリリックがある。"次の生贄はミスター喰わず嫌い はなから耳貸す気ないくせになにかとケチつけるお前とケリつける"、あるいは"オレにゃ意地がある めざすオリジナル"。曲に含まれる音やリリックを通してメッセージを伝えることもヒップホップの楽しみ方のひとつで、彼女たちは暗にそれを示していたと擁護する意見だった。なるほどとも思ったが、その歌詞の続きには、"キレイな見た目のウラにゃダサい真実"とあるのも興味深い。

"本当にBボーイのみなさんごめんなさい。ここに立っていることは本当に間違いだと思ってるんです"と17歳のいたいけな少女に恐縮させ、でも彼女は自分たちのグループ名に込めた想い──様々なモノを結び付けさせることができるアイドルを目指していると胸を張って語り、ステージを後にする。

最近ではtengal6改めlyrical schoolやライムベリー(参照)といったラップをするアイドルグループが活躍している。アイドル戦国時代などといわれ、これまでにない新しい切り口が必要となり、ラップを選択した奇形種であることは容易に想像つくが、そういったラップをするアイドルグループの出演ならばもう少し印象は違うのかもしれない。

リンクは確かにDJの真似事をするが、基本は笑顔を振りまきながらポップソングを歌う昔ながらのアイドルグループだ。最初に知った時は今回の趣向を面白がったにも関わらず、これ以上ないぐらいに鮮やかな掌返しを見せてしまうのは、何とでもリンクさせるという理想は素晴らしいものの、そのための説得力となる他ジャンルの人間を圧倒するパフォーマンス力が決定的に欠けているからだ。

【MIKU a.k.a tomboy』 14:29〜

"BBPのアイドルは私だと思ってるからー"と現れるのは元YA-KYIMの女性ラッパー・ミク。昨年末解散し、今年はソロで意地の連続出場を果たす。元気に飛び回り、盛り上げる。

あの3人組の中なら黒髪ロングのクールビューティーこそ見たいのにと思いながら会場内を散策しながらMCバトルエリアへ向かう。


今年はサングラスも販売。ちゃちいという評判だったが・・・。

もはやBBPの名店かなへび屋(HP)。今年は色々あって大変そうだったが、名物コンピも無事発売。良かった。アーティストの自主音源の委託販売はもちろん、無料配布のCD-Rなども置かれていて、飴ちゃんも貰える。

BボーイのBはブレイキングのB。

レディたちも。


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ここからの全ての写真(Y.A.Sの以外)はトゥイッターでアップされていた画像の無断掲載です。しかも400×300のサイズにトリミングしています。写真にリンクが張ってありますが、勝手な使用は不快とのクレームが来ればすぐに対処します。ピンボケ写真ながらもこの2日目も見たライブの写真を撮っていたつもりだったのに、なぜだかデータが消失していて、こんな失礼な形になりました。断りもなく使っておきながらアレですが、ありがとうございます。
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【龍道】 〜14:45

早口のラップの最後で"その速さ ライク快速アクティー"とあり、龍道と分かる。この日見たいとチェック入れていたラッパーのひとりだ。ミックステープを聴き、平塚出身ということもあり気になっていた。最新作はここから、2本目となる前作はここから落とせる。

高速でラップできることはもはや評価の対象となる時代でもないが、若手らしいふてぶてしさを宿すリリックは刺激的で、"先輩"を嘲笑する。かと思えば大甘なフックも作れたりと楽曲に振れ幅ありつつ、ヒップホップの王道を突き進むスタイルを保ってもいる。実際に見るライブパフォーマンスも音源から受ける印象そのままだ。

ライブの終わりに、"俺はホント有名になる。ここ数年でみんな見て見ぬ振りできなくなるから。龍道がヤバかったといっておけば、俺が売れた時にだからいったろとでかい顔できると思いますんでよろしくお願いします"と挨拶。惜しくも若くしてこの世を去った無名に近いラッパーがかつて似たようなことをいっていたと思い出す。彼こそはその思いを果たして欲しい。

・ラップマシンガン1号
・JUDGEMENT
・? ("HOOD FINEST REMIX"に新たなヴァースとフックを加えた曲)

【KOWICHI from enmaku】 14:46〜15:02

"ワッツァッープ!"と威勢よく出てくるのは川崎のenmakuからコウイチ。機材トラブルからかDJが曲の入りで数度躓くも、アウェイな状況を打破しようと声を張る。ソロで活動しているとは知らなかったが、エンマクはいいと評する声を聞いていたのでハードル高めで望む。でも仲間内のパーティでこそ生きるラッパーのようで、ぶらぶらとメインエリアに逆戻り。


【Sound Luck】
ミクの次だった六本木実業家ラッパーTOMOROのステージがすでに終わり、歌舞伎町生まれのふたり組サウンド・ラックがパフォーマンス中。チラっと見て、またMCバトルエリアへ。トモローみたいないかにもなギミックラッパーを呼ぶならアイドルがいても間違いではないのではと思えてくる不思議。実際に聴いてないので何ともいえないが。


【Y.A.S】 15:03〜15:18

伊豆の"至宝"ことY.A.S。ototoyでこの言葉を使い紹介されているのを先日読み、思わず"至宝"って・・・と吹いてしまった。2週間限定でミックステープを発表したばかりの仲間のZion SoldierからSTOCKやONE、INNTANAらと共にMCバトルエリアのステージに立つ。パパラッパーを強調するスタイルはやや押しつけがましさもあるが、STERUSSのcrime6と同種の熱さがある。健全に社会生活を送りながら(昼間はトラックに乗って夜は音のトラックに乗る)、ラッパーとして活動していることを全面に出し、途中ではふたりの愛娘をステージに上げ、彼女たちに向けて歌う感謝ラップは狭い日本語ラップファンの枠を飛び越えて、もっと広く訴えるものがありそう。

【金勝山】 15:18〜

いきなり講談調の語りが流れ出す。昭和初期のクーデター、ニ・ニ六事件をまるで目の前で見てきたように講談師が話す。軍備増強を目指す軍部と、国の財政の立て直しが先決だと拒否する時の大蔵大臣・高橋是清が対立し、力で政治を我が物にしようとする陸軍青年将校たちが決起。高橋邸に乗り込んだ。就寝中に突如サーベルを向けられた高橋と軍人たちの緊迫のやりとりが語られ、そして唐突にサゲを迎える。落語だったのだ(聴きたい人はニコニコ動画で。アップされている5代目三遊亭圓楽の「目黒のさんま」のマクラで聴ける)。

先ほどまでY.A.Sが"お昼だから楽しみましょうよ"といっていた雰囲気がサッと拭い去られる。SEの落語のオチには笑えたものの、初めて名前を知る埼玉は熊谷のラッパー金勝山のラップは一時期のKダブシャインかと思うほど社会派なのだ。確かに"雰囲気で飲み込む選挙"はたいがいだし、自衛隊の権限拡大も危険だ。堂々と日本の上空を飛んでいく北朝鮮のミサイルも問題で、呼吸しているだけで被曝しているのも事実だ。

彼のいわんとすることは分かるが、祭りというBBPの雰囲気の中では異質であり、それでも聴かせるだけの実力があれば黙って耳を傾けもする。が、フロウというよりもラップ調で自分の意見を語り出すそれはいささか滑稽に映るのは否定できない。ただ、"ファックバビロン"ということで断罪した気になっているラッパーに比べればその意識の高さは評価できよう。アイドルのリンクではないが、ふさわしい場があるだろうし、そうでなければそのアウェイを超越するだけの圧倒的な表現力や巧さが欲しい。

まさに彼が批判する日本国民そのもののようにその場を離れ、再びメインステージに向かう。


【MEKA from 孔雀】 15:22〜15:29

昨年のBBP MCバトル王者のメカが素敵な前向きさを全面に押し出して、"賭けてみる今日へ 振り向くな前だけを見ろ"と歌っている。MCでも"私が日本一顔が長いラッパーです"と笑いをとりつつも、押韻、フロウ、思わず口ずさめるフックの歌メロと、以前から確かにポップであることを隠すスタイルではなかったとはいえ、久し振りに見るとステージングも堂に入ったものでうまいこと流れに乗ると意外にSALUやAKLOよりも上に行けそうな印象すら抱く。9月にはファーストアルバムを出すそうだが、彼が2011年にソロで出したミックステープはまだダウンロードできる。

【孔雀】 15:29〜15:36

メカもメンバーの4MC1DJ1MPCの東京町田市のグループ孔雀が続けて登場。実際にライブ時間が短かったこともあるが、パッと現れ、4人の息の合ったラップの掛け合いを見せながら、あっという間に告知なども済ませ、風の如く駆け過ぎていく。メカと共にグループを引っ張る菊丸(2010年のU20 BBP MCバトル優勝者で、昨年のメカが栄冠に輝いたBBP MCバトルでは決勝で彼に敗れる)もまた11月にソロアルバムを出すそうだ。すでにDEJIとのコラボアルバムをリリース済みだが、やや退屈な作品だっただけに先輩に気を使わない、今日のライブのような若さみなぎるアルバムを期待したい。

【MATCH】 15:37〜15:48
那覇の普天間出身のソロラッパー・マッチ。アクロやKLOOZらがフリー音源を発表することで新世代の基準を作り上げている中で、GUNSMITH PRODUCTIONのJIGGが全面バックアップする形でいち早くファーストアルバムをリリースし、そのラップ技術に一部で高く評価されていたラッパーだ。ただ、私には最新のフロウというだけで評価するならば、何も日本語ラップではなく向こうのヒップホップを聴くわけで、実際にそのファーストもたいして面白いと思えず、今や携帯音楽プレイヤーの肥やしとなっている。よって先月2年半ぶりに出されたセカンドアルバムもスルーしていたわけだけど、生で聴いても分かるスキルの高さにかなり驚かされる。確かに英語混じりではあるが、ビートの深みを意識した言葉の乗せ方に稀有な才能が見え隠れする。あとはその態度以上に刺激的なリリックを生み出せればすごいことになりそう。

【KLOOZ】 15:49〜16:00

"ホワッツアッーープ!俺の番だぜ"と飛び出してくるDREAM BOY所属のクルーズの1曲目はKREVAプロデュースの「It's My Turn」。観客が一斉にステージに向かう。この日最初の圧力かもしれない。続いて、一度聴いたら十分でやっている当人ほどには面白いと思えない「Supa Dupa」。ただ、フックの歌いやすさからか、みんな口ずさんいる。そのまま同じくファーストアルバム収録曲の「Get It and Go」。最後にはSWAYと共に新曲の「Summer Vacation」を披露して終える。ドリームボーイに入ったことで、かなりの不安とそれが的中しつつあることにがっかり感の拭えないクルーズではあるが、こうした晴れの舞台ではネアカなキャラが一層輝くわけで、お祭り男然としたパフォーマンスは見ているだけで楽しい。

【KEN THE 390】 16:00〜16:11

クルーズが下がった瞬間、代々木公園に鳴り渡るのは「24 Bars To Kill」ならぬ、「What's Generation」。このビートを聴くとどうしてもSki Beatzが浮かぶ。ともかく、今や日の出の勢いのドリームボーイの総大将ケンザ390が姿を現す。そこら中から歓声が上がり、観客の密集度もさらに増す。フックだけではなくヴァースの語尾をかぶせる青少年たちも多数。やっぱり巧いとは思えないのだけど、声量が安定し、しっかり通る声を出せるのは野外フェスでは強い。それと、確実に規模を大きくしていると聞くイベント「超・ライブへの道」で掘り起し育ててきた成果でもあるのだろう、若い客からの声援が本当にすごく、感心させられる。晋平太がゲストの3曲目でさすがに限界に達し後退。その後はクルーズが再度ステージに立ち、最初の今日イチの盛り上げを果たす。

【DARTHREIDER】 16:11〜1621
ケンザ390のかつての上司ダースレイダーが"レゴー"と歌いながら現れ、"俺の話をきけぇ〜"やブルーハーツを引用しているのをケバブ屋台に並びながら眺める。メインステージではDJ YUTAKAのプレイが始まったので、食べ歩きしながら、16時31分MCバトルエリアに。


【DJ BUNTA】 〜16:41

万寿目的で来てみると、少し早かったようでDJブンタのパフォーマンス中だ。ラッパーがラップすることについては言葉を扱うことからああだのこうだのいえるし、楽器にしても普通のロックバンドならあのギターは巧いだとかベースがヘタレだねとか調子に乗って指摘できるわけだけど、DJ、あるいはMPCなどのヒップホップのトラック制作機材となると一度も触ったことがなく、どこをどう押せばどういう音が出るのかが分からず、いまだ理解できていない。

よってDJも単純に選曲で躍らせるたぐいなら、機材の事に思い馳せることなく踊って楽しめるが、プレイヤーを楽器のように使うターンテーブリストとなるとやっていることはさっぱりだ。ギターでいえば冗長なソロ(ニルヴァーナを好きになってからはソロを認めなくなった)みたいで、アートフォームというよりも自己満足な自慰行為にしか思えないことが多い。

そんなわけだから、かなり冷ややかな心持ちで眺めるが、彼のプレイは意外にも面白い。もちろんどう音を出し、どのプレイがすごいのかははっきり理解しているわけではないのだけど、メリハリのある展開や常にキープされているリズム(いつかのBBPでDJユタカが力説していた。どんなに高度なプレイを決めようがリズムキープを忘れるな!)が体を音に乗せ、それはきっと小難しいことをしているのだろうが、見ている身には常に音楽であり続ける。音をスクリューさせている間、リズムは消失するが、それでも彼の場合聞こえないリズムが聞こえる。「Smoke On The Water」のあの有名なリフをスクラッチだけで行うという技もキャッチーで楽しい。

【万寿】 16:46〜

DJのセッティングが長引き、しばらく時間が空くも、横須賀のソロラッパー万寿が登場。最近ごたごたが続くforteのキャップをかぶっていて、それだけで好印象だ。しかし、ライブ自体は前列のファンをそれなりに盛り上げるものの、一見さんをむんずと捕まえるほどの力がない。TLで時々熱烈なファンを見かけ、気になっていたが、これまで聴いてきた客演時のラップのように特に記憶に残る何かがあるわけではないことを実際に確認。

退屈なので、メインエリアに行くとステージには今年もBBPでしか名前を見ないLUCK-END。メンバーのBIG-Tが亡くなったことは話題になったものの、本隊は無視されているラックエンド。ふたつステージがあってもこういうことはあるのだろう。MCバトルエリアにすごすごと戻る。


【TAKUMA THE GREAT】 〜17:14

一部ではそのラップ技術の高さを称賛する声を聞くものの、昨年のソロアルバムの出来はイマイチで、ちょくちょく見かける客演でのラップもいわれるほどかと常日頃疑問に感じている横浜のソロラッパー。たんに大柄のラッパーの声が苦手といってしまえば身もふたもないが、"俺の物は俺の物 お前の物も俺の物"と歌う姿には空地のドカンの上でリサイタルショーを開催する彼を、本人が意図する以上に彷彿させる。とはいえ、男女問わず熱く盛り上がっている光景からはヒップホップってよく分からない音楽だという疎外感を強く突きつけられる。

【USU aka SQUEZ】 17:15〜

数年前には大所帯グループNITE FULL MAKERSを率いて出演を果たし、今回はソロでMCバトルエリアのステージに立つ新潟のラッパー・ウス。それまでのHOOLIGANZファンと場所を入れ替え、前列には新潟から駆け付けたと思しき熱烈なファンが声を送るが、それをとりまくようにして見つめる後方との乖離がずいぶんとある。フックでの歌メロはよく声が通るのに、ヴァースでのラップの声が小さいことをいぶかしみながら、メインエリアへ戻る(この後、客演にhilcrhymeのTOCが登場したそうだ)。


【MaryJane(LUNA & TSUGUMI)】 〜17:21

Mr.マリックの不肖の娘として親子でテレビにも出ているルナとSOULHEADのツグミが結成したラップユニット。最後の曲の終盤をチロッと見ることができた。

【SIMON JAP】 17:21〜17:33

今年のBBPの功労者のひとり、サイモン・ジャップ。晋平太や次に登場するD.D.Sと共にアーティストの紹介や観覧マナーの注意、ゴミ拾いなどを率先して行っていて、そういう姿勢を見てしまえば、ライブ内容や楽曲の微妙さについて指摘することは難しい。自分が歩いてきた失敗続きの人生を隠すことなくリリックにしたため、そんな過去やそこから諦めずに這い上がってきたからこそ今の自分があると自己肯定するラップはまさに定型化されたヒップホップであり、教科書通りだ。決して難しい言葉を使わず、日本語のイントネーション通りにラップされるために初めて曲でも理解しやすい。大変な人生だったんだなぁと感慨にふけっていると突然襲い掛かってくる歌メロフックにはしびれるダサさがある。

【D.D.S】 17:34〜17:45

BBP功労者ふたり目。タクマザグレートのところで大柄なラッパーのラップを苦手と書いた矢先に180度違うことを書くようだが、彼のラップはいい。何が違うのかといえばやはりスキルなのだろう。ビートへの対応力の点でずば抜けている。昼間に出演していたマッチと同じ沖縄出身で、そのマッチが柔軟にビートと遊んでいるとすると、D.D.Sの場合はその体型通りに重いフロウを繰り出しながらもリズムに対しては繊細そのもので、それが力強いグルーヴを作り出す。

スピーカーからの出力は十分なのに、音を上げるようにPAに指示するものだから、彼のラップがさらに力を増して轟くのには辟易させられるが、それでも聴かせてしまい、乗らせる巧さが減じないのはさすがだ。PONYとのコラボアルバムをリリース済みだが、ソロ作が待たれるラッパー。

3人目の功労者、晋平太の、"晋平太だぜっ!"との決め台詞を背中で聴き、急ぎMCバトルエリアへ。


【KUTS DA COYOTE】 〜18:05

日が陰り始める中、すでにライブはスタートしているが、ともかく見たかったステージに間に合う。なかなか全体像が見えてこないグループEMERALDの一員としても活躍する彼は、故郷の南相馬について歌った「4 MY CITY II 南相馬REMIX」(YouTube)が素晴らしく、期待する若手ラッパーのひとりではあったのだけど、それまでの客演曲やソロ曲をまとめた昨年リリースのミックスCDがパンチに欠け、新作のファーストアルバムも視聴機止まりで終わってしまったわけで、生で聴けば印象も変わるかもとわずかばかりの期待を抱いて望むも、見込みは外れる。

「YOUNG.WILD & FREE REMIX」の客演で登場のGIPPERがSnoop Doggかくや(写真手前の人。風貌も似ているかも)の日常会話の延長線上にある極めて自然なフロウのラップをしていて目が覚める。名前だけは聴いていたし、実際のその曲もミックスCDに収録されているのだけど、実際に生で見た方が感銘を受けるというカッツダコヨーテとは逆パターン。

彼で第2部のライブショーケースが終わり、続いて年齢制限なしのMCバトルが始まるので、またまたメインエリアへ帰る。


【鎮座DOPENESS】 〜18:12

メインステージを大勢の観客が取り囲む中、鎮座ドープネスは宇宙人のようなラップをしている。確かなスキルがあり、ユーモアも人一倍持ち合わせている。だから一般的なラッパー像とはかけ離れた格好やラップ内容でもイロモノ扱いされない。UFOの曲から"放射能 NoNoNo"というフレーズが飛び出し、すかさず"俺も社会派だ"とコミカルに振る舞う。さらに続けて"まるでKダブ・シャイン"と付け加えることでBBPを一気にヒートアップさせる。サービスでKダブの決め台詞"自分が自分であることを誇る"とまでいい足す。独特な世界観を保ちながらラップだけでしっかり沸かせるのだからさすがだ。

【G.K. MARYAN】 18:12〜18:31

鎮座ドープネスの頃から人が多くなり、とてもではないがステージに近寄れない。まあ次はG.K.マーヤンだしと後ずさりし、歩道橋の上から眺めやる。彼はゴミの分別に一家言あり、ペットボトルの包装をミシン目に沿って破って捨てているなどのとても当たり前のことをさも大変そうに話す姿はもはや微笑ましい。真面目に聴いているヘッズたちの年長者を敬う気持ちも立派だ。

とはいえ、この日、いやBBP両日でも目玉といっていいSEEDAが次の次に登場するわけで、我慢してできるだけ前に進み、シーダ地蔵(参照)となる決意を固める。孔雀の菊丸やサウンド・ラックのHIDEを従え、「TAKE THE VICTORY」を意気揚々と披露するも、途中で息切れするのは若手がどれだけ素晴らしいかを伝えるべく、自らを貶めるという年の功がなせる秘技だろう。

しかし、彼は馬鹿だ。本当に頭が悪い。BBP名物の毎度のお楽しみと思い、固まりながらひたすら時が過ぎるのを待っていると、G.K.マーヤンは唐突に政治を語り出す。"戦争に行かざるを得ない法律を勝手に作らせるな。施行されてからいっても遅い"と少しは真っ当なことをいったかと思うと、声を落とした体で、"直接クビを取りに行っちゃえばいいんだよ。危なそうな奴誰かいないの? 今から行ってこい!"。どこかでお調子者が"行ってくるぜぇーい"と声を上げる。"首相のクビを。その前にセキュリティとかがいるからなぎ倒して、首相のところへ。色々やった方がいいよ"。その後は"フリーだぜ Bボーイパーーク"と叫んだが、彼のいうフリーが何なのか理解できない。どんなことでも自由に発言できる場という意味で"フリー"なら彼は自由をはき違えている。

彼の台詞を聞き背筋が寒くなるのは、上記した金勝山のライブの冒頭で二・二六事件のあらましが綴られたことも影響している。正当な選挙で選ばれた大臣を自分たちの意に反するからと起こしたクーデター。そうした事件の怖さを彼は想像できないのだろうか。都知事を拉致するというストーリーテリング曲がキングギドラにあるし、この後に登場する漢もまた"東京都知事にヒットマン"とラップしている。が、それらはヒップホップというアートフォームの中に落とし込んだものだ。ここでのG.K.マーヤンはフリースタイルでもなくただのMC中の言葉であり、実力的にはどうかと思うが、日本語ラップの歴史の生き証人のひとりであることに変わりはない。つまり、ある程度影響力のある人物が二十歳未満の若者も多い中で放ったわけであり、大げさにいえばテロの教唆だ。1年に一度の大舞台でマイクを持てる高揚感から思わず出てしまった本音で、本人はその意味など全く理解できていないのだろう。だから馬鹿なのだ。ステージの上で腕立て伏せをするといった愛すべき馬鹿なら笑うこともできるが、真性のそれはかなりきつい。

昨日はMCバトルエリアでライブしていたTAKARABUNE CREWのKM$やK-RICHと共に最後の曲だと「城南STYLY」を披露。ようやく終わったと安堵するのもつかの間、"友達が来てるぜ、UZI"と盟友のウジを呼び入れ、アカペラで「俺の言い分」を実演。新日本プロレスの中邑真輔の物真似だというおかしな叫びを発し、ようやくステージから下りていく。

次がDELIで、その次にシーダだ、と期待に胸を高鳴らしていると、G.K.マーヤンが最後の最後で、"お前らレゲエは好きか? レゲエとヒップホップはお友達だし、師弟関係にもあるぜ"と雲行きの怪しくなることをいい出し、"次はレゲエ界から大御所来るぜ、BOY-KEN!SHIBA-YANKEE!"。

あーもう、また余計なサプライズ。

【SHIBA-YANKEE & BOY-KEN】 18:31〜18:47

シバヤンキーというのがレゲエ界でどういう位置付けなのか知らない。喉の血管が切れんばかりにでかい声を出し、"早口は好きですか?"と高速でまくしたてる。"聴いてくれよ音と言葉を"というわりには、その言葉に内容がない。つまり高速で言葉を吐き出すといっても、それは例えば志人のように日本語で内容や韻を内包する高速ラップとは違うのだ。基本はスキャット。即興で言葉を繰り出すことが多い点では評価もしようが、内容が伴わずそれで速射ならよそでやってくれ。

続いて、日本語ラップ界隈では"BOY-KENとは同意見"で一番有名なレゲエの人、ボーイケンに交代。さらにでかいレゲエ声を代々木の空に響かす。誰もが願うガンジャ自由化を心の底から希っているのが分かるステージだ。短い出演時間の中にもしっかり反原発の歌を盛り込んでくる辺りは、ヒップホップよりもレゲエの方が政治に意識的なのかもしれない。

やっとレゲエ界の大物だというふたりのショーケースが終わり、タイムテーブル通りなら次がデリとなる。まだまだ地蔵が続くなと思いつつ、できるだけこの隙に前へ進もうとするが、それでも心の奥底に油断があったのだろう。D.D.Sと交互に司会を務めているサイモンジャップが"次はシーダ"と叫んだ時には一瞬戸惑う。しかし、場内のワァーという歓声と共にみんなが前に一気に詰めかけ、その今日イチの圧を利用し、要領良く歩を進める(しかし、ここでひとつ誤算があった)。

【SEEDA】 18:48-18:58

最前列は大変な状況のようで、サイモンジャップやDJユタカらが出てきて大声で一歩下がるよう呼びかける中、シーダの1曲目はなんとSCARSの「Come back」。"ここから夢が見えーる"と力強くも気高く、最後のラインを歌い切ると、「S・S・C・C・A・A・R」と連呼。しかも上半身はまさかの裸(後から知るが、腰パンの下がり具合がシカゴ仕様)。2曲目は"君はどうしたい?"と問いかける「HELL'S KITCHEN」。

CONCRETE GREEN新作の制作のため赴いたシカゴでは平和を表すハンドサインとして"Love"の"L"を掲げていたとMCで話し、"ラブある奴はみんなL掲げてくれよ、ナーミーン"と求め、チームという意味の"Squad"でコール&レスポンスを行う(これもシカゴで仕入れたのだろう)。新しい刺激から素直に影響を受け、すぐさま取り入れる速さ、それは制作にももちろん関係するモチベーションになり得ているわけで、その心の開きようが彼の動きを面白くも興味深くさせる。子供が誕生し、前年よりもピースフルな方向性に向かうのかとか思いきや今年は終始攻めの姿勢でいい意味で期待を裏切り、10分という短い時間の中でも新鮮な驚きを与えてくれる。

「不定職者」後には、"来年もこれたら嬉しいな"とこちらこそ嬉しくなるひと言を呟き、もはや合唱状態となる「花と雨」。この最後の曲の2ヴァース目でそれまでかぶっていた赤いキャップを空に飛ばす。ステージがギリギリ見られるかどうかの状態なので、彼が投げた瞬間を目撃しておらず、何か赤いものがシュルルルとやって来るのは見えたものの、とっさに掴もうと思えず(疲れて判断力もかなり鈍ってはいた)、そのままスルーしたところすぐ後ろに落ち、後方の人が手にできたのだ。残念。それはともかく今年もEMI MARIAのコーラスパートで大歓声が起きる。

"Give me love!"と叫び、"大げさじゃないけど愛してるぜ"と去り際に話し、ステージを後にする。

さぁ終わったし、MCバトルエリアでこの日チェック入れていた最後の一組SMOKIN' IN THE BOYS ROOMを運が良ければ見られるかなと離脱の構えを取った瞬間、ステージでD.D.Sが"今日アナウンスされていないシークレットゲストがもうひとりいる"と話すので踏みとどまざるを得ない。

【MC漢 & DJ琥珀 from 鎖GROUP】 18:59〜19:14

DJ琥珀が小気味良くスクラッチを入れる中登場した漢は前列のファンと握手するという珍しい光景ができる。"BBPは意外に時間に厳しくて速攻でマケっていわれてて、まあ俺は巻けるんだよ。時間はマケねぇけど、俺が巻くのはポリスとガンジャだけだ"。初っ端からサービス精神全開だ。DJ琥珀が機材トラブルと奮闘する間、いらつかずにMCで繋いでいく姿勢はエンターテイナーそのもの。発声と口の形が異なるいっこく堂の芸を真似してみせ、"これでいつかラップやってやろうと思っている"など、曲や外見からは想像できないチャーミングさを惜しみなく披露。

打ち合わせなしのライブと豪語するだけあり、選曲でももたつき、なかなかライブに入らないが、ようやくDJ琥珀との呼吸が合い、これが日本語ラップだと大見得を切り始まる。がしかし、入りを間違え再び中断。中堅どころのステージとして普通ならどうなんだろうと思ってしまうところだけど、見ている側にいら立ちを募らさせず、笑いに転化させることができるのは強面なのにどこか愛嬌がある漢の面白いところだ。

ヒューマンビートボクサーのMASTERも加わり、予定していた「光と影の街」と「スキミング」の2曲を終え、アカペラで数小節やって切り上げようと振り返った漢は、犬を抱えた男がステージの端に立っていることに気づく。"あ・・・"で言葉が途切れ、すかさず"TABOO1です"とマスターの解説が入る。漢は小学校時代からの仲間に、"お前これ以上しらふでぶっ飛ばせるの止めてくれよ"と言葉を投げかけ、マスターのビートボックスの上でILL BROSのふたりは「新宿U.G.A remix 03'」をパフォーマンス。

"マイクを握る現場 俺たちがやってるのはアルティメット でも次出るのはRレイテッドだ"と漢がきれいにまとめて次に繋ぐ。タイムテーブルによるとそのR-RATED枠は容赦なしの50分間。T.O.PとSMITH-CNが気になりはするものの、50分も耐える自信は端からなく、「24 Bars To Kill」のビートが流れる中を抜け、MCバトルエリアへ向かう。


【ISH-ONE】 〜19:30

シーダや漢の裏というかなり不利な状況でも想像以上に人を集めていることに驚く。軽くフリースタイルした直後に、"(音が悪すぎて)チョー鍛えられるぜ"と笑いを取り、ファーストソロアルバム収録曲「Music」へ。続いて鎮座ドープネスやCRAZY-Tを呼び入れる。もはやリリックは聴き取れないほど酷い音環境ではあるが、そんな状態でも体の動きすら音楽と感じさせる鎮座ドープネスには感心するしかない。

最後は「New Money」。MCによれば、ニューヨークのヒップホップ専門ラジオ局HOT97で流れたという。タクマザグレートを始めラッパーがたくさんステージに上がる。確かに音の調子も悪いが、それだけみんながマイクを持てば出力に問題が出てくるのは当然だろうと素人にも思えるほどで、ラップが巧いとかそれで踊れるとかそういうのとはもはや別問題。ファンが集まる前列はさすがに盛り上がるも、その周辺はステージの狂乱を遠巻きに眺めるのみ。イシュワン(ブラックミュージック専門サイトbmrにイシワンとあるが、司会進行のノンキーはイシュワンと呼ぶ)のラップは英語が混じることで本格っぽく聞こえるのかもしれないが、決して巧くはない。

【RHYME BOYA from DINARY DELTA FORCE & DJ BUNTA】 19:32〜19:44

人のごった返すメインエリアからMCバトルエリアへ移動してきた時に結構集客していて、イシュワンも頑張っているなと思ったものだけど、ライム・ボーヤが登場するとみんなのお目当てが違っていたことを知る(当然トリも注目なわけだけど)。

神奈川県でも川崎や横浜、相模原に続くヒップホップの町にいつの間にかなっている藤沢市出身者だとか。モス・ヴィレッジってなんだよとも思うが・・・。MCバトルで活躍するラッパーと名前だけ記憶しているが、音源では未聴で、今日初めて耳にする。なかなか面白い声を出す。狐火の泣きそうな声にも近いウェットさ、あるいは不安定さがあり、地下のラップにありがちなドスの利いた声音でないのが、ロックでいえばベンジーだ。ユニークといえば聞こえはいいが、好みが分かれるところでもありそう。

方々でかぶせる声が上がり、ずいぶんな盛り上がりを見せるも、声に幅がなくそのためラップが一本調子となり、どうしてそこまで歓声を上げられるのかと疎外感を味わう。


"最近俺らの地元の藤沢に引っ越してきた、俺が昔からすげぇお世話になっている・・・"とパフォーマンス終わりに話し始め、オッまさかシークレットでCOMA-CHIが!とちょっと期待を募らせるが、そのまま"浜の大怪獣が控えてるぜ"といい切り、それにかぶせるようにロベルト吉野が"手癖の悪い"鬼スクラッチをかます。

【サイプレス上野とロベルト吉野】 19:44〜19:58

繰り返されるステルス・クライム6の"イチハチヨンゼロヨンゴー"に合わせ大声援が巻き起こる中で、貫録たっぷりに現れたサイプレス上野は早くもダイブ。落とすなと叫びながら10メートルぐらい進むのだから、下で支える方も偉い。ワンマンライブでもなんでもなく、ただのフェスなのに。彼らのライブの良さはふたりの確かな技術に裏打ちされたエンターテイメント性の高さで、"ごちゃごちゃいわんとぶっかます"姿勢は見事だ。

1曲目の「ぶっかます」に続く「サ上とロ吉」では"サ・ウ・エ・ト・ロ・ヨ・シ"のコール&レスポンスの時にみんなを背にあるメインステージの方を向かせ、観客全員でRレイテッドを驚かすよう全力で叫ばせる。楽しい。ひたすら楽しい。メインエリアはどんな感じなのだろう。時間もないからとサクサク進み、次は「よっしゃっしゃっす〆」。女の子たちも口ずさむ。そして、「ヨコハマシカ」。

10分ばかり見たところでちょっと離脱してメインエリアに行くとRYUZOが朝6時に起き出す労務者やシングルマザーの夜の蝶の気持ちをライミングしている。名曲だとか聴くが、まあ人それぞれだ。

サ上とロ吉のステージに戻ってきてみると、「ヒップホップ体操第二」をやっている。以前のは一度その場でしゃがませてから一斉に飛び上るという振りだったが、この第二も何か特別な演出があったのだろうか。終盤にも再びダイブを試みるサ上。外国人観光客も楽しそうに写真を撮っている。

MCバトルエリアではMCバトルの準決勝、決勝が行われるので、メインエリアへ戻ることに。しかし、今年は20時までという時間制限がないようだ。例年なら20時に終了しなければいけないと、終わりの方は駆け足となるが、今年は比較的緩やか。


【RYUZO】 〜20:02
結局、"嘘だといってくれと神に祈る"リューゾウを再び眺めることに。わずかの時間聴くだけでも、歌っている彼の代わりに自分の喉が痛くなりそう。

【AKLO】 20:02〜20:13

バックDJにDJ YUKIJIRUSHIを従えて、"待ち望んだ展開だろ?"と登場。まずは「RED PILL」。ライブでも音源で聴くのと同じ言葉の微妙なニュアンスを、しかもいつも以上に条件の悪いBBPのステージで出せている。決して強く張るわけではないのによく通る声でのラップはそれだけでライブ巧者に映るし、何より同世代のクルーズとはまた別種の華がある。「CHASER」終わりのMCで、ラップを始めた15歳の頃に行ったBBPの話をし出す。当時憧れていたRINO LATINA IIがステージに現れた時に観客が上げた歓声と、今日自分が登場した時の空気感が似ていて嬉しいと語り、その当時同じように熱中していたスポーツをネタにした「サッカー」へ。ボールを蹴る振りをする演出を止めたのは正しい判断。

そして、BBP2013の大トリ。DJユタカがKダブ・シャインの名前を告げる。もちろんバックDJはDJ OASISだ。

【K DUB SHINE】 20:14〜20:30

まずはキングギドラの「UNSTOPPABLE」で始まり、「ECDのロンリーガール」。老いも若きも男も女性も楽しそうに歌う。これまでBBPも含めて何度か代々木公園で彼のステージを見てきたが、声の張りが一番良い。もともと難解な語彙を使わないリリックで、聴き取りやすいラップではあるのだけど、言葉がより明瞭で耳に飛び込んでくる。ツアーに出たり、レコーディングをしたりといった話は聞こえてこないし、コンスタントにライブをしているわけではないだろうによく仕上げてきている印象だ。

ヒップホップとの出会いやその"歴史"を語る「正真正銘」に続くMCで、アメリカで生まれたヒップホップが今年40年記念だという話を始める。DJクール・ハークがニューヨークのブロンクスの集合住宅の一角で後のブロックパーティの原型のようなパーティを行った1973年8月12日がヒップホップ誕生の日としているそうだ。DJユタカも所属しているズールーネイション(Kダブ・シャインは"ズルネイション"と長音なしに発音。ずっと違和感を覚えるが、実際の発音はどうなんだろう)も発足から40年だと話が飛び、その結成を呼び掛けたアフリカ・バンバータの偉大さを語り出す。

ギャングとしてならしていたアフリカ・バンバータは、ヒップホップのパーティやアフリカのズールー人との出会いを通し、それまでの暴力に頼り法律を犯していた行いを改める。しかも支配していた地域のギャングたちをも自分と同じように改心させ、サウスブロンクスのギャングたちは彼の後に続いたというにわかには信じられないどこか理想郷のような話をする。それがズールーネーションの基盤となり、"Love"、"Peace"、"Unity"、"Knowledge"、そして"Having Fun"の精神を掲げ、その後のラッパーたちに影響を与え続けたそうな。

まともな教えだ。BBPでのKダブ・シャインの演説といえば、これまでは安直な政府批判や反原発に固執しがちだったが、今年のは珍しく素直に耳に入ってくるお話であり、幾分牧歌的に過ぎる点もあるけれど、日本で文化としてのヒップホップを根付かせようという啓蒙活動としては有意義な語りだ。

"これからはズルネーションの意志を引き継いだお前たちみんなの時代だぜ"と「新しい時代へ」、そして「自主規制」と社会派ラッパーらしい曲を続け、最後は福島第一原発事故への憤りを歌う「沈まぬ太陽」で締める。

【CRAZY-A & DJ YUTAKA】 〜20:35

Kダブ・シャインに導かれ、"BBPの長老たち"こと、クレイジーAとDJユタカ、それと背後にはDJ BEATが控え、いつもの締めの言葉を述べるという予定調和の展開を、DJユタカがマイクを持ったまま怒りを突然爆発させ、断ち切る。前列の人間に憤っているようだ。きっと礼儀知らずがいるのだろう。事情がよく分からない後方ではなんだなんだとなるもよく分からない。

結局マイクを譲られたクレイジーAが穏やかに総括する中、今度は前列からふたりの男がもみ合いながら下がってきて、目の前でくんずほぐれつし始める。"ステージが使えなかったとか色々あったけど、最後楽しかったからこれでいいじゃないか"というDJユタカの声が響く一方で、ガタイの良い男が相手を押さえつけようと上下する乱闘が続くわけで、なかなかシュールな光景だ。BBPはこれで何年か来ていることになるが、喧嘩を目の当たりにするのは初めて。

まあそんなこんなで、"来年もまた会おうぜー"とDJユタカが叫び、クレイジーAお決まりの"BBPこれにて終了"という宣言が出され、今年も無事終了!取っ組み合っていたふたりも我に返ったのか争いを止め、立ち上がろうとしている。めでたしめでたし。


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毎年同じ感想で終わり、芸がないのは承知の上だが、行ったら行ったで楽しい。それに尽きる。

開催日の発表が6月末と遅かったり、毎回失笑を買いながらも進歩のない公式HPや、小出しにしすぎる出演アーティスト情報だったりと、いくら入場無料のイベントとはいえ、これだけフェス文化が根付いた昨今ではその緩すぎる運営ぶりに呆れを通り越し、もはや生暖かく見守っていこうと思わせる催しであるのは今年も変わらなかった。音楽フェスと思うから間違いで、町内のお祭り(ブロックパーティ)と考えれば、許せもするのだろうが、そろそろ日本のヒップホップ全体を背負うイベントなのだという強い自負の念が必要なのではと思ってしまう。

BBPがメインステージとして使用してきた代々木公園の野外ステージの使用許可が今年4月から低音の出る音楽イベントでは下りなくなり(ここのブログ記事の中段参照)、2009年以来の2ステージ制となったことは、野外ステージが使えないことと同じぐらい今年の大きい変化だったわけだけど、力をつけてきた若手が例年以上に多く出演しているのも良い変化だった。

サイモンジャップのブログ記事を読むと明らかなように、メインステージは彼と晋平太、D.D.Sの3人が中心となり出演者を選出し、サブステージといえるMCバトルエリアはおそらくノンキーが一任されていたのだろう。しかし、開催10日前に動き始めるというのもすごい話だ。これまで内幕はあまり語られてこなかったので、もしかしたらそれが普通なのかもしれない。恐ろしい。

一方で、以前からこうなればいいのにと思っていたオール・トゥモローズ・パーティーズのようなキュレーターシステムを結果的に導入したともいえる。特にMCバトルエリアでのノンキーが選んだ出演者たちはバラエティに富むと共にひと癖もふた癖もあるアーティストたちが揃い、ジャンルを超えてイベントに出て、顔が広い彼らしいラインナップで素晴らしかった。

また、近いとはいえふたつもステージがあり、見たいアーティストが同時に出演する時間があるなど、BBPらしからぬ悩ましさを味わわされるのも、その時は憤りもある(ゲストで登場したSKY-HIのラップを見られなかったのは悔しい)が、悪くない。いずれにせよ、今年は野外ステージのアリーナエリアがデッドスペースとなり、混雑するのかと思いきや、シーダ以外ではどのアーティストの時も比較的落ち着いて見られたのは、人出がやや抑えられていたこともあるが、出演アーティストの傾向が異なるふたつの舞台を用意したことが功を奏したのだろう。端的にいえばイケイケなお兄ちゃんお姉ちゃんは辛気臭いMCバトルエリアには行かず、ある程度棲み分けができていた。

出演アーティストたちも気にしていたように、音環境は確かに酷く、MCバトルエリアではPAの人が頻繁に場内を歩き、音をチェックし改善を重ねるのだけど、それでもかなり手こずるなど、せっかくいいパフォーマンスをしても肝心の出力のところで問題があるのは演者にとっても不幸でしかない。来年こそは野外ステージが使えればいいが、こればかりはアーティストがほぼボランティアで行っているイベントでもあり、ロビー活動をしようかという話にもならないだろうし、状況の好転を願うのは難しいのかもしれない。

問題といえば、スポンサーが減少し、かなりの費用を負担しなければいけなくなったのも来年の開催に絡む話だろう。ただ、具体的な話を始めるのが1〜2ヶ月前ではそれも当然なのかなと思わなくもない。これまでついていたスポンサーに今年から切られたとしても次を探すのに時間があまりにもないわけだ。

パソコンの急速な発達で録音機材を安価で揃えられるようになり、20歳前後の若いアーティストたちが精力的にフリーダウンロードなどで作品を発表し、また人気番組「高校生RAP選手権」といった追い風も生まれ、文化の存続や拡大にとって大事となる若手が次々に頭角を現すなど、日本語ラップには他の音楽ジャンルにはない(アイドルやヴィジュアル系、ボーカロイドは別にして)勢いが確かにある。ただ、商売に結び付いていないのが現状で、それがスポンサー減にも繋がっているのかもしれないが、シーダ以降確実に盛り上がってきている日本のヒップホップが、毎夜の地下活動ではなく、唯一といっていいぐらいに一般の人たちにも分かりやすくヒップホップというものを伝えられるイベントなのだから、東京の一ブロックパーティという小さい枠に収まるのではなく、大きな目的を掲げたイベントになればいいのにと願わずにはいられない。

最後に。上述したように、龍道以降のライブ写真はトゥイッターで検索したもので、全くの無許可掲載となる。クレームがあればすぐに対処するが、ひとまず感謝を。

それと、会場の和気あいあいとした雰囲気はG-BOYさんのブログ記事に詳しい。

ところで、今年はBボーイたちの味方HIPHOP戦隊B-BOYGERを見なかったが、彼らは出演できていたのだろうか。ああいうお約束は、それこそヒップホップという文化の普及に大事だと思うが。
2013.08.18 Sunday 23:59 | 音楽 | comments(8) | trackbacks(0)
BBOY PARK 2013(8月17日)@代々木公園野外音楽堂
なんだかんだといいながら毎年日本語ラップファンを心待ちにさせるヒップホップの祭典BBOY PARK(以下BBP)に行ってきた。毎回このイベントの記事を書く際には枕に高校野球の話を入れるのだけど、今年は魅力に乏しいのか熱心に見入るほどの試合がないおかげで(仙台育英と浦和学院戦は勝負の面白さとかそういったことは一切なかったものの、真夏の炎天下に開催される大会自体への罪悪感を、部外者ではあるけど、いや、部外者だからこそか、覚える試合で印象に残った)、だらだらとクーラーの利いた快適な部屋で観戦することもなく、さんさんと降り注ぐ太陽光を一身に浴びながら阿呆のように向かった。


13時1分(そうはいってもライブ開始の12時半よりはだいぶ押したわけだ)、代々木公園野外音楽堂のある一角に到着。手前にダンスエリアがあるにも関わらず、NONKEYの声が響き渡っている。きっと今日行われている22歳以下のMCバトルで名司会っぷりを発揮しているのだろう。


今年の"約束の地"は閑散としている。

珍しく直前に詳細なタイムテーブルが発表され、また普段ライブを行っている野外音楽堂(メインステージ。上の写真)が使用できず、そのことと関係あるのかは不明だが、2009年以来の2ステージ制(メインエリアとMCバトルエリア)となる。事前の情報ではDJブースを下に置くとかなんとか耳にしていたので、ラッパーだけはステージの上でパフォーマンスし、ブースをアリーナの前方に置くのかと勝手に思い描いていたのだけど、実際はアリーナ後方にある区切りとなる柵(上の写真だと手前の柵)の外のところに小さいステージを設置し、いわばサブステージとなるMCバトルエリアとほぼ同じ規模になっている。ただ、メインの方が音は若干良い。


【TOLAETH】 〜13:04

ちょうどメインステージでパフォーマンスしていたのは千葉のソロラッパー・トライス。昨年のBBPの1日目にも出演していたから2年連続となる。ゲーム「クロノ・トリガー」の曲を使った最後の1曲だけ辛うじて聴けた。"俺たちは千葉から来たトライスといいます"とMC名をきちんと伝えていたのは前回からの改善か。

【ウキ】 13:05〜13:14

DEN主宰のLEGENDARY ink.からの刺客。今回は晋平太やノンキー、SIMON JAP、D.D.S.らによる仕切りのためか、彼らが行っているイベント「A+」枠がない。それはとても良いことだが、それでも出たいメンツはそれぞれ別個で出演時間をせしめたようだ。踏み外している人間の紋切り型リリックで彩る典型的な怒鳴り声ラップ。

【PRIST】 13:15〜13:23

毎年出ている感がある東京荒川区出身のソロラッパー・プリースト。KLOOZらとサイコロ一家を結成するも、イマイチ浮上できずにいる。打開すべく2月にはミックステープ『THE PURPLE』(DL先)を発表。深夜のクラブレベルでは活躍しているのかもしれないが、浸透したとはいいがたい。向こうの流行にいち早く反応し、取り入れようとする努力は認められるも、ファッションにしか見えなくもない。ラップを聴いて単純に楽しめる何かが足りない。

【PURPLE BLOOD MOTH】 13:24〜13:38

この大所帯グループは良かった。初めて見る名前だったので帰宅後調べてみたら空也MCが率いていて、勢いよくラップしていた女性ラッパーはAYA a.k.a. PANDAだったようだ。そう知ると2DColvicsの新譜情報で見かけたような気もするが、空也MCの名前が挙がっていた時点で、昨年の彼のアルバムを思い出し、真っ先に記憶から抹消したのだろう。

1曲目はPVもアップされている「Violet Fizz」、"俺の知ってる伝説のBBPはこんなもんじゃねぇぞ"と煽り、2曲目に突入するはずが、オケの入ったCD-Rが読み込まれずしばらく中断を余儀なくされ、時間もない中で「徘徊 〜Dead Man Walking〜」と「Mr.アームストロング」を披露。

ともかく小さい舞台に所狭しと8人のMCがわっさわっさしている感じは見ていても楽しい。実力的には玉石混淆で、センターを張る空也MCと機材トラブルの間頑張って繋いだ正宗、体型が大柄な人はDELIスタイルになりやすいとの証明のようなラッパー等はすぐにキャラを掴めるが、それ以外はマイクの調子の関係があるにせよ、まだまだ発展途上だ。パフォーマンスすればするほど粗がどんどん出てきて、それもまた魅力のひとつになるなど若さと荒削りさがいい感じで同居している。SIMI LABが以前のワサワサ感を脱ぎ捨て、グループとしての勢いを一点に集中させようと変化している中で、またこうしたグループが出てくるのは嬉しい。

【MC Lady Cat】 13:39〜13:49

もちろん見た目で判断するのは間違いではあるのだけど、大方の場合は外れることがない。写真通りの酷いラップ。1曲目ではスピーカーから音が出ていないことに気づくことなくラップし続け(メインのPAはステージ脇の椅子から動かず、自分の耳で音をチェックしない。彼女のマイクの状況をPAにすぐ教える人がいないのもどうかと思うが)、2曲目から改善され本来のラップを聴けるようになるが、それは聴こえなかった時と大差ない。ラップもダメ、本人の色仕掛も笑いレベルとなると、頼るのはゴーゴーダンサーということで魅惑的な格好のダンサーがステージに上がり腰をくねらせるわけだけど、ああいうのは薄暗いクラブだから蠱惑的にも映るわけで、明るい日差しの下では厚塗りメイクが露わとなり目も当てられない。

4部構成となるショーケースのうちの第1部のライブが彼女で終了。


【DJ YUTAKA】

彼のDJプレイの前にありがたいお話を拝聴。今年から募金箱を各所に設置したと話す。その理由は、会場やテント屋へのレンタル料に"車1台買える"ほどの費用を必要とするためで、これまではスポンサーが付くことでどうにかやりくりしていたが、今年からは実費でやらざるを得なくなったからだという。大変だ。



メインステージ。屋根は昨年のものを流用。

こちらがMCバトルエリア。

絵描きさん。



DJタイムなので、今年のBBPをぶらり散策していたところ、メインの方から歓声が聞こえてくる。慌てて戻ってみると、DJユタカのサイドMCとして晋平太とサイモンJAP、D.D.Sの3人がステージに立ち、緩くマイクを回している。


【13Dogg】 14:10〜14:19

ショーケース第2部の始まりは、相模原のソロラッパー・13ドッグから。そういわれるとどことなくフロウにNORIKIYOの影がなくもないが、それよりもZONE THE DARKNESSの影響が大かもしれない。前半2曲の歌謡曲使いのトラックが面白い。ようやく写せたが、メインステージの足元はこんな感じ。

【GFAD SQUAD】 14:20〜

黒人も含む多国籍グループ。本場の黒人がステージ上がるだけで、箱根駅伝の山梨学院大学なみの"ズルさ"を覚えもするが、日本人もしっかり鍛えているガタイの良さで、ステージ上の光景はいかにもなヒップホップだ。とはいえ、曲自体は勢い一辺倒で退屈。それよりも自分たちで一生懸命作成したと思しき彼らのウィキペディアが笑える。


飽きるのでプラプラと歩きMCバトルエリアへ(歩いて30秒)。

【CRUNK】 14:25〜14:38

鎌倉からやって来たというクランクのライブがちょうど始まるところ。高速ラップからゆったりとしたフロウ、声音まで器用に変化させるラップは受けが良く、しかもただ速いだけではなく、リリックの内容を伝え、切れ味まで備えている。彼のパフォーマンスをさらに良くしているのは、DJとのコンビネーションの良さだ。地道な練習と経験を積んでいることをうかがわせる。ソロラッパーでも後ろを支えるバックDJが効果的な合いの手を入れることで、ステージに動きや華やかさが加わる。ただ、そのDJも、ラップができるということで最後の曲でマイクを持ち、クランクの隣りに立つが、そのラップがどうにも勢い任せのものでとっ散らかった終わり方をしてしまう。

しかし、こっちのステージは文系の日本語ラップノリで安心する。MCバトルだけではなくライブの時もノンキーが司会進行を務め、クランクが引けると彼はご機嫌にこうのたまう。"いっただろ? 俺はヤバい奴しか呼んでねぇから。マジで。お前ら知らねぇだろ。俺、自慢しに来てんだよ。わっはははは。俺が知ってるみんなが知らないMCを紹介するステージです"。


【たまちゃん】 14:39〜14:49

"この会場で一番のバッドマインドを持つ男"と紹介されてステージに立つのはたまちゃん。MCバトルで名を馳せているのは知っていたが、実際に見るのは初めて。"悪口いいに来たぜ"や、"若い芽摘みに来たぜ"、"何故出れたかって? 伝手やコネに決まってんだろこのボンボクラ"とまだラップも始めていないのにやんややんやの歓声が飛ぶ。曲が始まってもコネを強調していてまさに"Mr.バッドマインド"。ヴァース間の語りが面白く、ラップの印象がほとんどないのは不思議。

【アスベスト】 14:50〜15:03

"困難にぶち当たった時にああなっちゃう人(たまちゃん)もいれば、立ち向かう人もいるんだよ"というノンキーの言葉を受けて、"俺が教えるのはバッドマインドを乗り越える方法だ"といい放つのがアスベスト。不安定な足元を認識しつつ、でも目線を下げずにしっかり前を見つめるリリックは確かにポジティブ思考に満ちている。勇気づけられるファンも多いのだろう。好みとしては逆ギレ上等のたまちゃんに軍配を挙げるが、"僕たち"と一人称複数形を時折交えるリリックはFUNKY MONKEY BABYSなどのオリコンチャートに入ってくる応援ラップにも通じるもので、なのに聴く人を選ぶ彼のフロウが良くも悪くもアンダーグラウンドに彼の住処を作らせているのが面白い。

【DRAGON-1】

"(アスベストが21歳の時に初めてMCバトルに出て、それから7年かけて28歳でようやくBBPのステージに立つことができたと話したが、)調子良ければ一発で出れるというのを紹介しましょう。MCバトルで勝つと一発で出られます"と2週間前に行われたULTIMATE MC BATTLE横浜予選の優勝者ドラゴン1をノンキーはステージに上げ、自らヒューマンビートボックスでビートを生み、彼に16小節を蹴らせる。

【抹 with ネットラップオールスター】 15:05〜15:32

普段はパソコン画面を前にしているニコニコ動画ラッパーが部屋を飛び出して、"BBPのステージをジャックしにやって来た伝説的な瞬間なんですよ"と勇ましい抹 a.k.a ナンブヒトシの、マイクの許容限界まで張った声が響く。うるさいぐらいだ。彼自身は以前所属していたPentaphonicの一員として2011年のステージに立っている。舞台に上げた他3人のラッパーが順繰りにパフォーマンスする。

トップバッターはGLA.boyという家族持ちのラッパー。このグラボーイだけ初めて知るラッパーだが、S.l.a.c.k.を意識したような比較的日本語ラップに近いスタイルで、他ふたりと比べ、音楽的なラップを実践していることもあり違和感なく聴ける。

二番手はフリーDL曲も頻繁に発表しているネットレーベルSTUDIO COCCON創設者のひとりstarscream。トレント・レズナーかと思うような髪型はひとまず置くとして、そのラップはインダストリアルなビートほどには刺激がなく、自作トラックにラップがのまれている。

最後のオンレイにいたっては、言葉を吐き出すことに一生懸命すぎて、本来ダンスミュージックであるヒップホップとは別の地平に立つ彼らニコ動ラッパーのイメージを見事に体現。
締めは、AKLOの「Heat Over Here」を4人でリミックス。フリーダウンロード・ミックステープ『おならBOOの「BOOST COMPI」vol.2』(DL先)に収録されている抹のソロ曲がかなり良くて、彼のパフォーマンスを期待していただけに今回は司会進行を担い、引き立て役に回ったのは残念だ。


MCバトルエリアでは22歳以下の年齢制限バトルの二回戦が始まるので、またフラフラとメインステージに戻る。

【YUKI a.k.a. JUTO】 〜15:36

先月ミックステープ『YSJ』(DL先)を発表したばかりのSTAXEXSESSのユキ aka ジュートのライブ中。見たいと目星を付けていたラッパーのひとりだが、ミックステープのリード曲「Positivly」だけ辛うじて聴けた。曲名が表すように闇雲な明るさを振り撒く曲で、変にポップになろうとして持ち前のフロウの柔らかさを失っている。

【常磐DOPE】 15:37〜

ライブ第2部の最後は千葉の大蛇(オロチ)と福島県いわき市のDAZU-Oのコンビ。ふたり共ソロでも活躍するらしいが、寡聞にして知らず。体はラップスタイルを表すという言葉通りに重量のあるラップを繰り出し、日々の不平不満や管理社会への呪詛を連ねる。

この手のラップは生理的に受け付けないので、またプラプラと会場内を歩き、戻って来てみるとDJ KOYAが回し始めるようなので、再びMCバトルエリアへ。


【22歳以下限定MC BATTLE 第二回戦】 〜16:15
司会進行は当然ノンキー。Tシャツの胸に輝く言葉は、"The Talk Man Show"。これまでのようなトーナメント方式ではなく、それぞれのMC名が書かれた小さい紙を茶袋に入れ、バトル直前にノンキーが2枚引き出し、最初に引いたのを先攻、次を後攻とする方式に変更されている。

U-Road対クロス戦から見始め、COKE-E対ぽんた、注目の超高校生級HIYADAM対3Tani、Aoringo対アナログ、スドウ(スノー?)対たなこー、T@K対MC.ノッチと数試合見るが、タク・MCノッチ戦を除いては観客の判定が割れることはなく、ノンキーも指摘していたように不利なはずの先攻が楽々と勝つ試合が多い。なまくらな言葉だったり、ビートにすら乗れず勢いだけでまくしたてたりと凡試合だらけで、二回戦最後となるゾンビ対IKASUMIの途中でメインステージへ。ただ、Uロードにしろ、コークイー、アオリンゴ、タク、ゾンビと、これまで何度もBBPのU20バトルに出場してきたラッパーたちが今年もいることになんだか嬉しくなる。


【黄猿】 〜16:26

16時15分ぐらいにメインに戻ってくると、盛り上げているのは黄猿。チェックリストに入れていたアーティストのひとりだ。4月にはフリーDLミックステープを発表している(DL先)。年始にスケートボードを楽しんでいた時に車に引かれたとかで杖を片手にしたパフォーマンスだ。MC中に最前列の女の子が熱中症で倒れるが、彼がステージ上から的確に指示を出したこともあり、彼女は迅速に後方のテントに運び込まれたようだ。

一方でライブは期待していたものとは違う。軽やかなフロウを武器にするラッパーという認識を持っていたが、内容を伝えることを意識しているのか言葉をビートにかなり詰め込むようになってしまい、以前の踊れるラップではない。バトルMCでならしたラッパーがいざ楽曲を作るとなった時に直面する難しさだろうか。

【輪入道】 16:26〜

続けて千葉の輪入道が出てきて、巻き舌のてやんでぇ調なフリースタイルで盛り上げつつ、1曲目に入ったところで、またしてもMCバトルエリアに移動。ほぼタイムテーブル通りに進行しているので、そろそろ一番注目しているMUMAが出るはずなのだ。


が、MCバトルエリアのステージ上ではNATURAL VYBZという大阪のレゲエグループが騒音をまき散らしている。日本のレゲエは興味の欠片もないが、こうした機会に聴く彼らはたいていだみ声でがなるうるさいだけの音楽でしかない。

【MUMA】 16:30〜16:43

作品を聴いてファンになりその大成を期待すると、次に実際のライブを見ることが少し不安になる。ダメだった時のがっかり感はハードルが高いほど大きいからだ。ラッパーでもありトラックメイカー、ノンキーの紹介ではPV撮影もするというムマ。LowPassのGIVVNも多才だが、彼の伝統を意識したストイックな音作りと比較すると、ムマのそれはより華があり、リリックも辛辣だ。すでに店舗限定での作品をリリースしていて、フリーダウンロード作も昨年は『EXIT』(DL先)を、今年3月には『MUMA SAMPLE DEMO』(DL先)を発表している。ノンキーも太鼓判を押しているように、音で楽しませ言葉で殺すスタイルは有力な若手が次々に頭角を現わしている中でもかなり上位に位置する才能といえる。

音が割れやすく、ラップの内容をも売りにするラッパーにはかなり辛いサブステージの音環境の中で、かっこいいながらも乗りにくそうなビートで自らを縛り付けながら、それでもスワッグなラップを見せつける姿には誰の目にも群を抜く実力の持ち主だと認識させるに十分だ。1ヴァース目でジョジョを、続く2ヴァース目がバキ、最後にドラゴンボールをネタにした曲のように才気立つだけではなくキャッチーさも彼は併せ持っている。"中指立てて 人差し指添えて 向け放つ魔貫光殺砲"では大きな歓声が起きるほどだ。

だからこそ、日本語ラップファンの間でもイマイチ知名度が上がらない現状に彼が焦るのも頷ける。MCでこんな嘆きをしている。"メディアなんてクソくらえだよ 一体何曲作れば取り上げてくれるんだよ"。しっかり調べないとどこで売られているのか分からない作品だけではなく、誰もが入手できる一般流通盤で勝負するか、あるいはAKLOやクルーズが苦境を打破したようにまとまった数の曲を収録したミックステープを出すことで、ファン界隈のみならず、レコード会社をも認めさせるか。広く聴かれれば間違いなく伝わる才能だと思う。

彼のライブを見られて良かったと思えたことがもうひとつある。ムマというMC名を意識するようになったのは、RAU DEFがZeebraに対し起こしたビーフに彼がいち早く反応し、ラウデフに放った1曲からだ(その続編)。ラウデフが下剋上を起こそうとしている時に同世代が足を引っ張ってどうするのだと思ったものだけど、MCで彼が話すのを聴き納得できるものあった。

"俺ら平成生まれがいずれ時代を担うことになる。その時に先輩たちが安心して「このバトンをお前らに渡してやるよ」といわれるような大人になろうぜ"といった趣旨を語りつつ、"文句言ってるだけでは何にもならないから"と付け加えている。その考えが当時20歳だった彼にすでにあったのかは知らないが、偉大な先輩に向けたラウデフの無邪気ともいえる一撃へのムマのいら立ちの根底におそらくあったものをあれから2年という月日が過ぎて触れることができたのは面白い。

☆追記 2013.08.25
MUMAは8月25日、"MUMA×Quidam Beatz"名義で15曲入りのミックステープを発表(DL先)。


【GL WORD】 16:44〜16:55

前日にUMB逗子予選(そんなところでもやってるのかという驚きの方が大きいが)で優勝した句潤と、同横浜予選で前述のドラゴン1に決勝で敗れ、それでも準優勝者のLA GLORIAによる横浜のラップデュオ。彼らも昨年フリーDLミックステープを発表していて、そこで耳にしたのは彼らのスタジオの名前通りにオーセンティックなビートとラップスタイルだったわけだけど、実際のライブパフォーマンスは同郷のMACCHOのごとく、ゆとりがないラップでひたすら暑苦しい。


MCバトルエリアはこの後、HYENA、あるま、菊丸&DEJIのライブと続くので、あるまだけは見たかったものの、メインへテクテク歩く。

【GUINNESS】 〜17:02

さて、ギネやん。めでたくアルバムを5月にリリース(棚にあるのを見たことないので売れているのだろう)し、"10年やってアルバムも出せない"と嘲笑されていた彼はもういない。昨年のBBPはBESのバーターだったが、今年は立派にソロとして出演だ。

いわゆる"フロウ"に乏しく、棒読みのお経(うまい坊さんのお経はトリップミュージック)と大差ないのだけど、言葉が明瞭に発声されるために一応聴かせるラップではある。彼が一生懸命言葉を積み上げている只中を、Da.Me.RecordsのDARTHREIDERが拡声器をTARO SOULに持たせ、大声で何やら告知をしながら歩いてくる。ギネやんのお経に飽き始めている観客は一斉に振り向き、一体何事かと後ろを行くふたりを眺める。なかなか痛快な珍事だが、一行はそのままMCバトルエリアにも向かったので、ギネやん狙い撃ちというわけでもないのだろう。それでも同じラッパーがパフォーマンスしている時にそれを邪魔するかのように(妨げられるようなライブをしている方も悪いが)告知するのはダースレイダーらしくもなく、少し面白い光景だ。


ダースレイダーとお供のタロウソウル。

【RAW-T】 17:03〜17:14

ICE DYNASTYのロウT。ソロ曲を聴くのは初めてだが、かつてアイス・ダイナスティとしてSKY BEATZのスタイリッシュなビートの上に乗っていたとは思えないほど、頑固おやじ然とした土方ラップで驚く。全くといってほど好みではないが、これはこれで独自のスタイルを築いてはいる。

【DJ ONE-LAW "MISTY SOUND"】 17:14〜

"DJ ONE-LAW "MISTY SOUND""名義で出演クレジットされているふたり組が「I'm A Cokeboy」のリミックスでライブをスタート。ラップしているのは主に左のラッパーで、写真右のボンバーヘッドはサイドMCなのかもしれない。池袋bedで開催されているイベントCHRONIC SPOTからやって来たぜ〜と再三再四シャウトするそのラップスタイルはありがちな強面ラップであり、どちらかといえば、1ヴァースだけの披露に終わったボンバーヘッドの柔らかいフロウが好みだ。

【MISHIMA aka 潮フェッショナル】

最近CD屋に行くと面陳にされていることが多く、そのジャケットに毎回不愉快な気分にさせられるアルバムをリリースしたばかりのミシマ aka 潮フェッショナル。ご無沙汰感がある鬼の後釜を担えるような演歌ラップはお決まりの不幸語りで泣き落としにかかる。フックにしっかりメロディを付けるも、やや急ぎ過ぎる傾向がありもったいない。歌うなら徹底的にやりきった方が良さそう。最後の曲ではブルースハープを吹き散らし終了。

【Fla$hBackS】 〜17:40

今年頭にファーストアルバムをリリースしあっという間に耳の早い日本語ラップファンをうならせ、とりこにしてしまった3人組。腰の重いBBPにしては珍しく旬のグループを誘ったといえる。最初にjjjが登場し、軽くラップした後に、TETRAD THE GANG OF FOURのSPERBとのユニットCracks Brothersでも知られるまだ19歳のFebb a.k.a Young Masonが姿を現す。期待も高く観客同士の間にあった隙間が一気に埋まる。

新世代とはいっても、いわゆるスワッグなラップではなく、池袋直系な音とラップは90年代東海岸から脈々と受け継がれているスタイルとそうかけ離れたものではないのだけど、直前のミシマのような暑苦しさとは180度違うもので、固唾を飲んで見守る観客の期待に満ちた目を意に介さず、冷ややかな態度を纏ったまま、おそらくは普段通りのパフォーマンスを全うした印象だ。

いまだアルバムは未聴で、同時期に発表されたミックステープしか聴いてないわけだけど、この手のどれだけヒップホップを理解しているのか試されるような音楽はやはり肌に合わない。理解しようと音やラップに身を任せてみても、高度な方程式を解かせられている気分になる。ただ、それを20歳前後の若者が軽々とやってのけているわけで、一部で熱く支持されているのは分からないでもない。




Bエリア1。

Bエリア2。

Bエリア3。

先ほどダースレイダーが告知していた「ダンシング・イン・ザ・パーク トークショー」。風営法について語る場らしい。深夜過ぎたら踊れなくしていいと思うし、ライブ見て終電で帰りたいよ。

BBP内で今年唯一出店している食べ物屋台のためか、予想外の売り上げがあったようで、夕方には売り切れに。

17時45分、ぶらぶらとMCバトルエリアに戻る。


【22歳以下限定MC BATTLE 第三、四回戦】 〜18:21
三回戦が始まっている。「太郎 後藤 vs. kazuu」は愚にも付かない試合で今年は盛り上がらないと思った矢先に、「筋肉を語る人 vs. たなこー」で先攻の筋肉を語る人が、"ガリガリ"との相手の言葉に、"さっきもいったじゃん 俺鍛えてるのインナーマッスルだから 見えないの"でグッと掴まれる。文字にしてしまうと大方の面白味は失せるが、タイミングや言葉の抑揚次第でとてつもないパンチラインになるからバトルも捨てがたい。というわけでようやくバトル熱が温まってくる。

<HIYADAM vs. たかなぎ>

第3回高校生RAP選手権で優勝し、巷で超高校生級ラッパーと噂のヒヤダムは、見た目おじさんとすぐさま口撃し、その後はフロウ重視ののらりくらりスタイルを貫く。しかし、内容重視で言葉による倍々返しを図る、見た目は確かに老けているけれど年齢制限のあるバトルなのだからきっと若いのだろう、たかなぎに圧倒され、ここで高校生王者は敗北。たった2試合しか見ていないけれど、彼はバトルをしているというよりもフロウでひとり遊びしている印象だ。

続くのは「MC HAMAKI vs. U-Road」。今年も出ている葉巻。勢いと見た目でUロードを飲み込もうとするも、Uロードは最初のターンで葉巻のお家芸の唾が飛んできそうなラップを軽々と真似してみせ、格の違いを見せつける。「OKB vs. YA柳GI」、「諒太 vs. KAZAN」と凡戦が続き、津田沼サイファーの仲間同士だという「IKASUMI vs. COKE-E」は辛うじてヒートアップを見せる。

ベスト8が決まったところで、そのまま四回戦へ。その場のクジで組み合わせを決めるのと8小節2本は変わらず。

<U-Road vs. Aoringo>
互いに2本ずつ終えた後、ノンキーは決も取らずにそのまま"延長行きます"と英断。こういうところで経験を積んだ名司会かどうかが分かる。先攻後攻を入れ替えて、アオリンゴから始まるが、同じクルーでもあるらしいふたりは互いに称えあう方向に行ってしまう。決まらずに再延長に。Uロードの勢いの良いラップか、アオリンゴの変幻自在なフロウか。この日一番の熱い戦いで、ほとんど差がない。"お母さ〜ん、Bボーイの人たちが僕を困らせるよ〜"とのノンキーの嘘泣きまで飛び出すほど判定は割れるが、結局アオリンゴに。私も彼に手を挙げたが、分かりすいジョジョネタをかまし、きれいに着地を決めたのが好印象。

                                        <たかなぎ vs. 諒太>
ヒヤダムに勝ったたかなぎが意味の通るラップで諒太に勝利。負けた諒太は蛇(ex. Nakaji)率いる花魁音盤のメンバーとのことで、なんでも高校生RAP選手権でベスト4に残ったRACKというラッパーも所属しているそうだ。花魁レコーズの面々はともかく、ミックステープ(DL先)を卒業した蛇が今年正規盤を出すらしくかなり楽しみだ。

<たなこー vs. 太郎 後藤>
先輩後輩対決らしく、互いに相手のことを"お前"といいながらも内容は褒め合う方向性で、しかもビートを全く意識しないラップでどちらも面白味に欠ける。大差で太郎の勝利。その彼が告知していたのだけど、小田急線の東海大学前駅でもサイファーが行われているそうだ。ヒップホップは日本に静かに根付こうとしているのかもしれない。

                                      <YA柳GI vs. COKE-E>
四回戦最後の対戦は津田沼サイファーのヤギとコークイー。同門対決。コークイーも毎年BBPで見ている。見た目はパッとしないのだけど、ギアを一気に入れて畳み掛ける姿はファッションなど関係なくなる熱さがあり、ついつい声を挙げたくなる。"ビートの上で吐きたい言葉があんだ!"は気持ちがよく乗っているラインだ。


【KM$】 18:22〜18:34

東京城南地区の仲間で結成し、G.K. MARYANとも繋がりがあるらしく、最後の方では彼も見に来ていたTAKARABUNEクルーからリーダーのKM$がMCバトル明け一発目のライブを披露。紹介するノンキーが慌てて、"行かないで行かないで行かないで"と連呼するほど、本気のラインナップに入り始めたメインステージに観客をがっつり持って行かれる中、ノンキー・セレクトとは思えない、どちらかといえばメイン向きのオラオラなラップであり、類は友を呼ぶとばかりに粗野な仲間を次々とステージに上げるが、結局勢いだけのパフォーマンスに終始する。

途中で放っていたCDは、2007年にタカラブネとして一般発売した作品で、今はここから落とせる。聴く価値もないが。彼らが下がった後、ノンキーはKM$をThe Notorious B.I.G.みたいだと評したが、多分何かの冗談だろう。お追従をいわなければならないほどにステージ下にいたマーヤンが睨んでいたのかもしれない。

【丸】 18:35〜18:50

日も沈みかけ暗さが増す中で照明が入り、"藤沢のドン"こと丸が二番手として現れる。彼が昨年リリースしたファーストアルバムを今年に入ってからようやく聴いたのだけど、これがかなり良い。年内に聴いていたら、ベスト10入り確実の良作だ。何か特別派手な要素があるわけでも、奇をてらったことをするわけでもなく、自分を育て暮らしてきた街を歌い、仲間を称え、失敗から学び、不正義を糾弾するひとりの男の想いをバランスよく詰め込み、愚直なまでにラップにこだわった作品だ。

トラックを差し替えながらアルバムから「Time For Some Action」「FORCUS」「夢のゆくえ」「FUJISAWA STATE OF MIND」がパフォーマンスされる。15分間のショーケースを生でじっくり味わうが、ライブでは分かりやすいがむしゃらさというブレーキを思いっきり踏んづけてしまい、音源でのラップの巧さが全く出ていない。残念だ。


MCバトルエリアはその後はDOTAMAや狐火と続くので、メインエリアに向かう。ZEN-LA-ROCKは当然としても、フラッシュバックスと同じぐらいにこの日一部のコアなラップファンから注目を集めていたはずのKOHHとLIL KOHのステージも終わっていた。

【JBM & KGE THE SHADOWMEN】 〜19:11

この千葉のふたりはBANG BLACKSという名前のラップユニットを組んでいるらしい。JBMはともかくカゲザシャドウメンは新譜が出れば一応チェックはしている。でも世間の評価ほどには毎回ピンとくるものがなく、それは生で見ても同じだ。一般的にヒップホップと聞いてイメージするだろう強面なラッパー像をそのまま体現したようなふたりは、しっかりリリックを聴かせはするが、それ以上に面白いと思えるものがない。いいのはトラック。これまでメインステージで鳴らされたどのトラックよりも音に厚みと重みがあり、条件が悪い中でも健闘している。

まだ続きそうだし、空腹にも耐えかね、BBP外の屋台へ。幟にB級グルメとある"鳥皮炒め"。名前通りにタレを絡め炒めた鳥皮を敷いたキャベツの上に置くというもの。これで500円とはいい商売だ。メインステージに戻っても、ふたりのパフォーマンスは続いている。食べながら見ていると、最後の曲のゲストにRINO LATINA IIが登場し、あの独特の声音を代々木の空に響かす。

【MEGA-G】 19:11〜19:27

お腹も満たされたところで、ステージ上には誰もいないが、確かにラップが聞こえてくる。このサスペンションのよく利いたラップは!と気づき慌てて前方に向かう。メガGだ。すぐにはステージに上がらず、まずは舞台袖でフリースタイル気味のラップをかまし、客席の期待値を高めてから登場というオーソドックスに過ぎる演出は常にヒップホップの教科書に忠実な彼にこそ似つかわしい。

「JUSWANNA IS DEAD」に始まり、「Ten Budz Commandments」「TOKYO WALKER」。そして先月亡くなったMAKI THE MAGICに哀悼の意を表し、最後はMIKRISやJBMと共に「So Crazy Remix」。音環境の条件の悪さを物ともせず(次第に強く吹き始めた風は気にして、何度かキャップを直すが)、いつも通りの安定したパフォーマンスで楽しませてくれる。やはり実戦経験が豊富な実力者ほど条件の悪さを気にさせないライブをする。さすがだ。


いよいよトリの出番。1日目のメインエリアを飾るのはテトラド・ザ・ギャング・オブ・フォーなので、MCバトルエリアに向かおうとした矢先に、DJユタカが出てきて、残っているラッパーをステージに上げ、今年亡くなったふたりのラッパーBIG-Tとマキザマジックに黙祷を捧げようじゃないかといい出す。そそくさとMCバトルエリアに移動。

ちょうど狐火が泣きそうな声で話しているところで、最後の数十秒だけ見られる。SUMMER SONIC 2012に出演できたこと、今年は残念ながら一度出ているから選考以前の段階ではじかれたこと、それでも売れないけれど頑張っていくしかないとかそんなことを話していたのだろう、きっと。美人のバックDJを確認し忘れたのは痛恨だ。彼についていえば、会場を歩く彼にファンが声をかけ、一緒に写真を撮って欲しいとせがまれ、一体どういう顔をして写ればいいのか分からないといった戸惑いの表情を浮かべながらシャッターが下りるのを待つ姿が印象的だ。だから彼はラップするのだろう。しかし、ライブアクトのトリを狐火にするとはノンキーもすごい選択をしたもんだ。


【22歳以下限定MC BATTLE 準決勝、決勝】 19:31〜19:52
8小節2本から4本に変更。組み合わせはクジのまま。まず2種類のビートをDJ BOLZOIが鳴らし、その選択権は先攻の者に与えられる。

<COKE-E vs. たかなぎ>
ヒヤダムを倒して上ってきたたかなぎだったが、コークイーは同じ津田沼サイファーの仲間らしく、和気あいあいのバトルを望んでいたようで、攻めの言葉がほとんどなく、見た目以上にバトル気質なコークイーに終始攻められ惨敗。

                                     <Aoringo vs. 太郎 後藤>
この勝負は先攻のアオリンゴがオーソドックスなビートではなく、電子音が派手に鳴らされる音を選んだ時点で決したようなものだ。"ヴァイブスラッパー"と指摘された太郎は自分でも"俺は全く不器用で音にうまく乗せられないフリースタイラー"と受け止め、言葉を猛烈に詰め込み、ラップの熱さを極めようとするが、のらりくらりフロウで小節のほとんどを埋め、終盤で急に決めにかかるアオリンゴのスタイルの前では"アナコンダ"のごとくにはリンゴを丸飲みできずに終わる。


さあアンダー22の決勝戦。最後はジャンケンで先攻後攻を決める。

<Aoringo vs. COKE-E>

軽快に跳ねるビートの上でふたりとも気合の入った滑り出しを見せる。アオリンゴはコークイーの後輩らしいが、どちらもつまらない遠慮を見せることなく、言葉の刃を交わし合う。2本目の最後で"そんな外人みたいなフロウは止めてくれ"との指摘を受け、長野県出身のアオリンゴは、"俺の地元はブラジル人いっぱい だから大丈夫"と少しも意に介さない返しをして盛り上げる。続く3本目でもコークイーは俺は留学していたこともあるから大丈夫だけど、"ヘッズたちみんな聴き取れていない"と再びアオリンゴにご褒美を渡してしまう。先攻のアオリンゴは当然4本目で、"オイオイみーんな聴いてくれてるから観客俺に手を上げてる 意味が分からないお前のアンサー 支離滅裂 ハ? 馬鹿じゃないですか? 笑い飛ばすぜ先輩"。アオリンゴ絶好調だ。一方コークイーも、"分かってねぇな 馬鹿じゃないすかって ここにいる奴ら全員馬鹿だから来てんだ"とひと花咲かせるも、やはり中盤以降後手に回った感は拭えない。試合の潮目を読み、ここぞというところで勝負に出て、詰将棋のごとく相手の退路を断っていく展開が良い。


2013年のBBP U22 MCバトルの優勝者はアオリンゴ!その後はベスト4に残った太郎 後藤、たかなぎ、コークイー、そしてノンキーも加わってのサイファーで大団円。誰かがノンキーさんにマジででかいリスペクトを送るぜとラップしていたけれど、本当にそう思う。
2013.08.17 Saturday 23:59 | 音楽 | comments(0) | trackbacks(0)
Max Roach『We Insist!』

Max Roach / We Insist!
Label: Candid
Release: 1960

Personnel:
Abbey Lincoln - vocals (Tr.2-3, 5)
Booker Little - trumpet (Tr.3 omit)
Walter Benton - tenor sax (Tr.3 omit)
Coleman Hawkins - tenor sax (Tr. 2)
Julian Priester - trombone (Tr.3 omit)
James Schenk - bass (Tr.3 omit)
Max Roach - drums
Michael Olatunji - congas (Tr.3 omit)
Raymond Mantilla - percussion (Tr.3 omit)
Tomas du Vall - percussion (Tr.3 omit)

Recording Date:
1960.09.06: Tr.1, 4
1960.08.31: Tr.2, 5

Song List:
01. Tears For Johannesburg
02. Driva' Man
03. Triptych: Prayer-Protest-Peace
04. All Africa
05. Freedom Day
2013.08.17 Saturday 00:00 | ジャズ | comments(0) | trackbacks(0)
Art Blakey & The Jazz Messengers『A Night In Tunisia』

Art Blakey & The Jazz Messengers / A Night In Tunisia
邦題: チュニジアの夜
Label: Blue Note
Release: 1960

Personnel:
Lee Morgan - trumpet
Wayne Shorter - tenor sax
Bobby Timmons - piano
Jymie Merritt - bass
Art Blakey - drums

Recording Date: 1960.08.14

Song List:
01. A Night In Tunisia / チュニジアの夜
02. Sincerely Diana
03. So Tired
04. Yama / 山
05. Kozo's Waltz / 小僧のワルツ
2013.08.16 Friday 00:00 | ジャズ | comments(0) | trackbacks(0)
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