国産ヒップホップを中心としたフリーダウンロード・ミックステープの2013年10月発表分の一覧。主に日本語ラップ専門情報サイト
2Dcolvicsに紹介されたものとなる。先月末に現在のフリーDLブームを牽引してきたJPRAP.COMが閉鎖となり、情報発信源がひとつなくなったことは大きな痛手ではあるのだけど、ヒップホップ精神のひとつである"ディギン"を今ひとたび見直すのにいい機会なのかもしれない。
ただ、私自身は村の外に住んでいるので、自らの手で情報を獲得するという謙虚さに乏しく、結局誰かを頼るという楽な道を探してしまう。まあ、そんな篤志家はあまり存在しないのが現状であり、2Dcolvics以外で便利なサイトをいくつか挙げようと思ってもふたつしかないわけだけど。
・にんじゃりGang Bang [
link]
主に洋物ミックステープを扱うが、思い出したように日本語ラップも取り上げてくれる。
・netrap mag. SCUBA [
link]
ニコニコ動画に特化していて勉強になる。ただ、最近は停滞気味(人の事いえない)。
あと、なんだかんだいって頼りになるのはトゥイッターのフォロワーで、例えばハードなサウンドクラウドライフをおくる@
igusigusさんや@
bamuletさん、自身でもミックステープを発表したり時にはラッパーのアルバムにスクラッチでクレジットされてたりしてオオっと驚くことがある@
hititlanさん(
ブログではアーティストのインタビューなども)、また@
djcolaboyさんからも有益な情報を頂くことが多い。4人は宣伝用アカウントではなく、個人で呟いているものなので趣味趣向に違いがあるし、必ずしも日本語ラップ関連というわけでもないが(どちらかといえば洋物の情報が多い)、彼らがいなければ私は今以上に情報弱者となっていたことだろう。
それと、最近見かけた"日本語ラップ×フリーダウンロード"という
アカウントは何度も同じ呟きをするのでうんざりさせられるが、50回に1回ぐらいはそれ知らなかったという情報がある。
他はこれといって変わったことをしているわけではないが、気になるアーティストのサウンドクラウドをRSSリーダーに登録することか。バンドキャンプはできないので不便でしかない(自分のページを持てばいいらしいけど、面倒で作っていない)。前者は単曲フリーDLがほとんどで、ミックステープ発表の場となるのはバンドキャンプであることが多く、いかんともしがたい。やはりアカウントを作成するしかないのか。
最後は、人力でトゥイッターでのワード検索。"フリーダウンロード"や"フリーDL"、"フリーアルバム"、"ミックステープ"といった語彙で地味に探す手もある。結構ひっかかる。ただ、最近はロック勢も無料配信を始めているので、今後は煩雑になりそうだ。それと、フリーDLを活発に行っている地域やコミュニティの誰かひとりのトゥイッター・アカウントを時折覗くこともある。身内が音源アップするとRTせざるを得ないわけで全員を見ずともひとり押さえておけば便利。それ用のリストを作ればいいのかもしれないが、それはなんか嫌なのだ(変なこだわり)。
しかし、こうして考えるとJPラップコムを運営していたbenzeezyさんの偉大さが明らかになるというもので、相当にマメでないと日々あれだけの情報を集められないし(実際に閉鎖後はDL量が明らかに減った)、失ったサイトの大きさに改めて悲しんでいる。
<"これだけ聴いとけ作品"を簡潔に教えてくれというせっかちな人のための3枚>
左端は今月唯一飛び抜けていた1本で、バイリンガルラッパー兼トラックメイカーAtsuの作品。真ん中は東京の新世代ラッパー。右端は信頼のインディーズレーベルLow High Who?の新世代トラックメイカー。全曲で無名ながらも有望な文系ラッパーが客演。ジャケットをクリックするとDL先に飛びます。
【○】DJ6月 『DJ6月音源集』
2013.10.01 / 全8曲27分 / 320kbps /
Twitter
Paranel率いるLow High Who?所属のトラックメイカーの初作。初めて名前を見るラッパー(
詳細)が多くて興味深いが、みな言葉を大事にしている人たちで、不可思議/wonderboyや神門を好きなリスナーにはたまらなそうだ。知名度よりも自分が見込んだ才能あるラッパーを起用する姿勢の気持ち良さは、音にもよく表れている。耳馴染みが良く、またビートにひと工夫加えられていて、なるほどこれが先読みの才があるパラネルが選んだ人材かと納得する。M7だけフロウで遊んでいるで、その実遊ばれているだけのラップであり違和感が残る。
【○】NICE GUY$ 『Love Situation』
2013.10.05 / 全6曲20分 / 320kbps /
Twitter
東京のヒップホップグループ・ナイスガイズの、昨年末の『Kissin n Dreamin』に続く第2弾。ERAを彷彿させる、フリースタイルの延長線上のような詰めの弱いリリックと自由度の高いフロウで、今回はエロネタ、時に下品なまでのオッサン臭のする強烈な言葉でラップする。M5冒頭のオリーブ油を使った"巧み"な比喩表現はかなり好きだ。
【○】VA 『UNITED BATTS EP1』
2013.10.04 / 全5曲19分 / 192kbps /
Twitter
1週間限定。DJ RYOWがネットで募集し競い合った「Don't Stop Remixコンテスト」でベスト8入りした記念で配信されたもの。UNIVERSAL TOSHIKIとDJ K.A.I、Dogg-J、神獅の4人がUNITED BATTSを名乗り、参加していたようで、その曲はM2となる。他の曲はおそらく4人の仲間たちの曲となり、作品としてのまとまりは当然のようになく、何度も繰り返し聴くものではないが、ところどころで鈍く光っている1本でもある。ユニヴァーサル・トシキは昨年聴きごたえのあるミックステープ(
DL先)を出していただけに、次に繋がる何らかの動きが欲しいところ。
【○】虹夢 『等身大の僕』
2013.10.09 / 全13曲45分 / 128,192kbps /
Twitter
新潟出身1993年生まれのソロラッパー虹夢の、1年ぶりとなる4本目(もしかしたら漏れあるかも。検索したら昨年末に『最終楽章 Another 〜ソラのまち〜』(
DL先)という5曲入りを発表していた)のミックステープ。2011年2月からラップを始めたという彼は、当初出来の酷いラップをそのまま作品にしていて、フリーDLブームの負を体現していたものだったけど、1年ぶりの本作を聴くと、一生懸命やっていれば何事も上達するのだと実感する。言葉をリズムに乗せられるようになったことが大きい。反面その技術を手に入れるために参考にしたフロウがくっきり残ってしまっている。二十代になったようだし、直接的な自分語り以上のラップをそろそろ聴きたい。
【○】Small Circle of Friends 『Superstar Instrumentals』
2013.10.10 / 全13曲46分 / mp3,flac,... /
bandcamp
2日間限定。男女ヒップホップデュオ、スモール・サークル・オブ・フレンズの10枚目のアルバム『Superstar』の発売1周年を記念して無料配信された。SCOFは日本語ラップファンの間では話題にのぼることはないが、日本語でヒップホップを行うことに何ら違和感を抱かせない独自の進化を遂げているグループだ。ただ、ここ2作は低調であることは否めず、今回インストで聴いても明らかなことが分かる。
【○】Stag Beat 『EXtra Virgin EP』
2013.10.10 / 全5曲20分 / 320kbps /
HP
ラッパーのDOPE MENとトラックメイカーMolphobiaによるヒップホップデュオ・スタッグビートの初音源集。今年1月からラップを始めた
とかで、宇多丸が好きなんだなとよく分かるラップは確かにイマイチだが、ビートの方は90年代のシンプルな良さを鳴らしている。テレビ番組「テラスハウス」に出演していたちゃんもも◎という人がライブ音源のM4で客演(当番組を未見なので知らなかったのだけど、
トゥイッターのフォロワー数がすごいことになっているので人気者のよう)。24歳ドープメンの本業は"現代美術家"(
YouTube)だそうだけど、どうして今マイクを持とうと思ったのだろう。
【○】Atsu 『Shiva』
2013.10.10 / 全11曲37分 / 320kbps /
YouTube
新しい才能が出てきたことを感じさせる作品。中学からニューヨークに渡り、現在はイギリスで研究生活を送る
というラッパー兼トラックメイカー。自分のiTunesを検索してみたところ、結果的にミックステープ1本(分)(
DL先)を残し19歳の若さで亡くなった日本とパラグアイのハーフラッパーStouchも在籍していた3人組グループJapanovasとして、JPRAP.COMが2011年に発表したミックステープ『#Nibiru』にも参加していた。LHW?が4月に出した青田買いコンピ『GOLDEN DEMO 3』(
DL先)にもM3が収録されている。バイリンガルではあるのだけど、自然な発音の日本語であり、英語ができないスワッグラッパーたちの奇形なそれとは大きく異なる。自作ビートはサンプリングを生かしたもの人肌の温もりがあり、その上で絶妙なタイミングで言葉を落とし込んでいき、何とも気持ち良いラップだ。後半で客演が入り世界観が広がると、それまであった親密さが拡散されてしまうのがもったいない。
【○】IZZY 『melancholy summer』
2013.10.10 / 全9曲26分 / mp3,flac,... /
bandcamp
9月までニューヨークで暮らし、現在は東京在住のラッパー兼トラックメイカーの初作。上のアツとは異なり、日本語を英語のように発音する今のはやりのラップ。というより、ただのSALU。ビートはまだしも、そのラップはまだ人に聴かせる段階ではないような・・・。私の言葉はそのままの意味で、"裏の意味"はないのであしからず。
【○】SOMA奏間 & Dizzy×Franz Snake 『HyperTom Transfer Protocol EP』
2013.10.14 / 全6曲20分 / mp3,flac,... /
bandcamp
名古屋のトラックメイカーSOMA奏間と、ラッパーDizzyとトラックメイカーFranz Snakeのコンビというふた組によるスプリット。ふたりのビートはゴルジェと呼ばれる新しい音で編み上げられている(
ここ!説明させないで。知らないんだから)。フリーDL配信と驚異的な量の呟きでも注目を集め、躍進目覚ましいディジー(旧DRO)のラップは3曲で聴ける。最新のビートを軽く乗りこなし、音の源である山や森を盛り込んだ言葉遊びを見せる。
【○】NICK ANIMA & DIZZY 『MakeSome...』
2013.10.14 / 全7曲15分 / mp3,flac,... /
bandcamp
配信・公開終了。ディジーがNICK ANIMAという今年からラップを始めたラッパー1年生と組んだ1枚。ふたりでラップした曲はもちろんソロ曲も収録している。ニック・アニマはどこかYASURIを彷彿させる。
【○】VA 『Yamagata Trackmaker's Beat Tape』
2013.10.16 / 全8曲32分 / 320kbps /
Twitter
その名前の通り山形在住のトラックメイカーIchiroとSUNTOWER、ZIG-RAW、SLAPSTICKSの4人が各2曲ずつ持ち寄ったビート集。この中では8BLOX所属のスラップスティックスしか名前を知らないのだけど、レゲエの人(
@ZIG-RAW)もいたりするようで、でも音自体はEDM寄りが並ぶ。静謐さと不穏が混じり合うM1で始まり、これはアタリかと期待させるも、その気持ちはだんだんしぼんでいく。
【△】SHOWGO×DJ Casin 『MICROPHONE BLEND』
2013.10.17 / 全14曲47分 / 256kbps /
SoundCloud
次も東北・仙台の4人組ヒップホップグループ独眼竜貿易舎のショウゴが2007年にリリースしたアルバム『くそオリジナル』収録曲を中心に、彼と同郷のDJカシンがリミックスしたミックステープ。初めて聴くラッパーで、今も活動しているのかは不明だけど、ともかくこうして昔の曲をよみがえらせてもらえるということは地元で一定の支持があるのだろう。エロネタも含めRHYMESTERの影響下にあり、宇多丸とMummy-Dを上手にブレンドさせている。ただ、彼らよりもう少し下品にやるのが好きなようだ。その分好き嫌いも分かれるわけだけど。同性愛者を中傷している時点で不快でしかない。
【○】Lil'諭吉 『Ghetto Pop Idol -Deluxe Edition-』
2013.10.20 / 全19曲66分 / 320kbps /
Tumblr
配信限定とはいえようやく初音源をリリースしたラッパーCherry Brownのトラックメイカー名義リル諭吉として、昨年末に発表した5曲入りの同名ミックステープに14曲も追加した豪華版。増量分の詳細はリンク先にある。オリジナルは女性アイドルポップスを素材にして、彼のセンスを爆発させていた。今回楽曲が増えたことでそのコンセプトは薄まったが、すでに
サウンドクラウドにない楽曲もあるわけで、資料的に意味のある作品だ。
【○】Cookie Crunch 『COOKIES』
2013.10.24 / 全9曲31分 / 256kbps(m4a) /
Twitter
クッキー・クランチ。詳細はネットで検索してるだけでは全く分からないが、話題のFla$hBackSからjjjやKID FRESINOが参加しているし、そのラップは強面でも不良でもない東京(というよりも池袋bed)独特の見得を切るもので、新世代に括られるものだ。ラップ自体はとりたてて好みではないが、M4以降からトラックがとにかくかっこよくなる。
【○】Bell & Sugar Back 『Bishop Arcade Presents "Coffee Break"』
2013.10.25 / 全5曲15分 / 192kbps /
blog
ラッパーのBellとトラックメイカーSugar Backによる5曲入り。ビート強めのシンプルでまったりとしたトラックに、日々のつれづれや仲間との他愛ないやり取りを綴るまったりな内容を自業自得感皆無のクリーンなBESといった印象のまったりとしたラップが乗せられる。
【△】JIRO-K 『JIRRO MAN ON DA FLOOR!』
2013.10.30 / 全6曲19分 / 192kbps /
Twitter
東京・練馬区出身のソロラッパー。時折単曲フリーDLを行い、またKOOGIのミックステープに参加していたので、名前は覚えていたが、まともに作品を聴いたの初めて。彼が夢中になったバスケットボール・ゲームで使われていた楽曲を使って、バスケネタのラップで統一したコンセプト・ミックステープ。確かにバスケ用語がつかわれているけれど、彼のラップスキルも多分に影響しているが、躍動感が皆無でバスケに伴う興奮は影も形もない。ゲームだけでジローK自身が実際にバスケをしたことがないのだろう。元ICE DYNASTYのKNZZが1曲で参加している。
【○】蛇 『SNAKE IN THE GRASS』
2013.10.31 / 全10曲27分 / mp3,flac,... /
bandcamp
今回は聴かなかったことにする。以前はNakajiを名乗り、昨年から蛇と改めた近江音盤を率いる滋賀のラッパーの通算5本目となる新作。
今回彼はレゲエを取り入れている。これまでもダブステップやジュークに手を出したりとジャンルの越境に意欲的だったし、そもそも歌謡曲や古いスウィングを盛り込んだトラックの上でラップをしていたわけで、腕の確かさも手伝って様々な冒険をしたいと思うのは理解できる。ミックステープといっても先を見ている人にとってはデモテープみたいなものだ。この時期に試行錯誤するのは当然だろう。
ただ、今回は持ち味だった鋭く狡猾で端正なライミングを捨て、替わりに自暴自棄と紙一重の荒々しさを手にしてる。一度組み上げたスタイルをゼロに戻し、また新たに積み上げていく作業もあるのだとは思うが、今年いよいよ市販流通盤をリリースする予定と聴いていたのに、それが実現できなかったのはスタイルの新しい試みがまだ納得できる域に達しなかったためという理由なら納得だ。全10曲中満足に聴けたのはM5だけ。
彼が昨年12月に出した『悶談蛇頭』(
DL先)や、同年7月に以前発表した作品に数曲増量し音質も改善させた『音洒落吐露 (改)』(
DL先)は今聴いても素晴らしい出来だし、これまでアップされた数多くの日本語ラップ・ミックステープの中でも十指に入る傑作だ。
【○】かるえるら 『B.S.I.T. EP』
2013.09.26 / 全5曲11分 / 320kbps /
Twitter
8月に出たネットレーベル・不思議な庭のセッション音源(
DL先)にも参加していたラッパーの初作。難しそうな言葉が列をなす中に時折印象的な単語が放り込まれる。5曲と少ないのに全て同じ調子で唱えられるものだから、曲の違いが分からない。本作のように1文が長い時こそ押韻が力を発揮するわけで、それは言葉遊びの楽しさにもなるし、ラップの節を円滑にもする。語彙はありそうだし、できそうなものだけど。
【○】mocsmall 『Refuge Tunnel』
2013.09.20 / 全15曲46分 / VBR /
Twitter
以前はLHW?に所属し、今はtokomanonkaと共にエレクトロニカユニットLeasekaとしても活動(
DL先・
DL先)しているモックスモールの"過去曲をまとめた"ビート集。個人名義でのミックステープは昨年の7月以来(
DL先)だろうか。これまでは夢見心地だったり空間的な音を作り出すトラックメイカーという印象だったが、本作では躍動的で時に攻撃なビートを叩き付けてくる。
【×】Key (MC U-KEY) 『SPACE (Remixes)』
2013.09.01 / 全15曲43分 / wav,128kbps /
blog
一週間限定。"俳優とラッパー二足のわらじ"を履く16歳高校2年生。演技は知らないが、ラップはまあ酷い。とりあえずどんな作品でも落として、最低1回は通そうとしているのだけど、4曲目で放り投げた。クレバがかわいそう。最近は中学生でも巧いラッパーが出てきているわけで、高校生だからと侮ることはないが、それでも成長速度は人それぞれだと身をもって知った。ラップはダメだけど、歌はまだマシってこともないんだからすごいよ。
*********************************
<まとめ>
2010年〜2011年1月〜9月分
Tegetther
2012年
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2013年
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月
・「JPRAP.COM presents "The Se7en Deadly Sins"」 →
記事(2011.05.26記)
2010年の主要フリーダウンロードミックステープについてもある程度まとめてある。
・「昨今の国産ヒップホップ・無料DLミックステープ事情」 →
記事(2011.09.30記)
2011年前半の作品に焦点を当てた記事。
・「VA『Fat Bob's ORDER vol.1』」 →
記事(2011.10.07記)
記事の最後に名古屋関連のミックステープのまとめた。
*********************************