ラップデュオ降神の志人と、アメリカはフロリダを拠点に活動するラッパーbluebird、そしてカナダ・モントリオール出身のトラックメイカーScott Da Rosの3人で結成されたグループTriune Godsが、23日にリリースしたアルバム『≠ Three Cornered World』を引っ提げて行われる日本ツアーのオープニングイベントが原宿のギャラリーで開催されたので行ってきた。
前作に引き続き彼らのジャケットを担当している米ブルックリン在住の日本人画家Hiro Kurataや、ツアーに同行するカナダ人ラッパーThesis Sahib(James Kirkpatrick名義で)、それと降神が所属するTempleATSの作品でもお馴染み戸田真樹らの絵が特別展示としてギャラリーには飾られていた。
【Thesis Sahib】 16:37〜17:04
まずは"ロンドン・ヒップホップのオールドスクーラー"との志人の紹介で始まる。セシス・サヒブは志人が2011年モントリオールで現地ミュージシャンとレコーディングしたセカンドアルバム『
Zymolytic Human 〜発酵人間〜』にも参加していたラッパーだ。"ロンドン"はモントリオールの東に列車で6時間ほどのところにある街の名前で、PVも作られた「一物全体 〜輪廻転生・生命流転〜」(
YouTube)で1分50秒過ぎぐらいから登場するのが彼となる。ちなみに、ブルーバードもこの曲に客演していて、2分45秒過ぎでラップしている。
自作の絵と共に展示されていたブリキのおもちゃを改造した楽器でピコピコとした音を出し、まずはビートをその場で作り始める。ユニークといえばユニークだ。続いて披露したラップは白人特有のポップでとても耳馴染みの良いリズミカルなフロウ。ギャラリー(2階にある)前の中庭で行われるイベントのため、周囲の喫茶店や美容院に配慮して音を若干おとなしめにせざるを得ず、そのやや貧弱な音環境が影響するのかラップの迫力が今ひとつだ。もっと大きな音で聴いてみたい。
上の写真は、この曲のためにかぶったマスクで口が塞がれて、決め台詞"パンチ・ボルケーノ"と叫ぶと自然と格闘ゲームの音声のようになるというオモシロな1曲をパフォーマンスしている時の1枚。サービス精神旺盛で、ライブ自体は十分楽しんだ。それ以外でも会場を歩き回りながら笑顔を振りまいていて好人物そうだ。
【Triune Gods】 17:13〜18:01
いよいよトライウン・ゴッズの出番。フロントのふたりのMCはそれぞれ脇にいくつかのエフェクターを乗せた台を配置している。それを早速使い、向かって左に立つ志人が思いっきり低音に声を変換させてメンバーの名前を告げライブスタート。
まずは、新曲「Stacks on Stacks on Stacks on Stacks」のイントロが鳴る。ブルーバードの"What's up Tokyo!"の第一声に続き、"Masa Iku?(マサ、行く?)"の問いかけに、志人は"Yeah"と応じる。呪術的に響く英詞のフックから"円(つぶ)らかなる白雪(しらゆき)に鈴鹿啼く"とファーストヴァースに入っていく志人のそれは非常に和を意識したリリックで、多国籍なグループという面白さがより強調される。
曲の終わりには志人が"遊ぼうぜ〜"と力強く発するなどいつもとは違う印象だ。2曲目はアルバムの冒頭を飾る「No Gods / 皆神」。最後に、"そこに生えているツクシンボウのように美しい"の一節が加えられる。政治や社会に鋭く物申す「鉛筆殺戮」での高速ラップぶりは、その内容も相まって「禁断の惑星」ファンにも十分訴えかけるものだ。アルバムと同じ曲順で庚申信仰とフクロウ話を交えた「庚申 X La Lechuza」へ。
ひと息つきメンバー紹介。モントリオールとフロリダからやってきたふたりを志人がシャウトし、続けて、"I'm from..."とまで告げた瞬間に、ブルーバードがすかさず、"タカダノババ?"と入れて、大いにウケる。
「Kaonashi」では顔を隠すようにマイクを両手で持ちパフォーマンス(下のセットリストの写真)。最初意味が分からず、Jay Zのハンドサインの拡張版かと思ったら、曲名の"顔無し"にかかっているようだ。志人はマイクにリバーブ系のエフェクトを強くかけ、音源よりもさらに題目のようになっている。ざらついた質感のエフェクトをかけて披露される「Jitensha Punk」は、これまでの志人からは想像できないBeastie Boysな1曲で面白い。"PUNK"でのコール&レスポンス(
YouTube)もあり、うまく機能すると引き出しを増やすことができるというコラボ作業の良さを証明しているようだ。文系ラッパーの最右翼的な存在でもある志人が運動部なパフォーマンスをしているのは本当に新鮮。激しく大きく動くブルーバードに呼応するようにラップスタイルだけではなくステージアクションも大胆になっている。
ただ、曲中で"マザファッキンポリ"なんて志人がラップしているからか、あるいは最高潮に盛り上がったからか(もちろんこっちだろう)、曲の途中で警察が入り口付近に本当にやって来てしまい、主催者側が対応していたようだ。
「Causing Terror」はブルーバードも熱いラップを聴かせるが、志人のヴァースがまあすごい。立て板に水。フックの"仲間は宝だから"をブルーバードは日本語で唱和。曲の最後のところで、"うまくいく奴もいればうまくいかない奴もいる コケたり道からそれたりコケにされたり苔がむしたり"と、フリースタイル気味に人生訓を語る。
冒頭にデスボイスで"誰が気にするんだよ"的なことを志人は警察を意識し英語で呟いてから、アルバムでも最後に置かれた「3 3 3」に向かう。最後のコーラスでは会場のみんなで"らららら"と歌い、メンバーも互いの名前を呼び合い、大団円感が生み出されていく。
"One More"と歓声が飛び、アンコールを待ち望む目が彼らを放さない中、ブルーバードも、"警察は大丈夫だろう"とかいいながら、そのまま
前作に収録された「Same Train」。"We are Same Train"というコーラス部を頭に持ってきて、よりメロウになっている。
最後は志人が3人の個展がギャラリーで行われていることを説明し、今日は初めてのライブでしかも野外でやってみたわけだけど、この後10日間ぐらいかけて日本中を回って、最後六本木で行うので、"僕らの成長具合をぜひ見に来てやってください"と締めた。
いいライブだった。前回の日本ツアーは行かずに済ませてしまったので、どんなライブをしているのかこの日見るまで想像できなかったのだけど、上でも書いているようにブルーバードのアグレッシブさが志人によく作用し、エンターテイナーとしての彼の一面を楽しめるものだった。
1.Stacks on Stacks on Stacks on Stacks
2.No Gods / 皆神
3.鉛筆殺戮
4.庚申 X La Lechuza
5.Kaonashi
6.Jitensha Punk
7.Causing Terror
8.3 3 3
アンコール
1.Same Train