すばらしくてNICE CHOICE

暇な時に、
本・音楽・漫画・映画の
勝手な感想を書いていきます。
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2021.02.10 Wednesday | - | - | -
無料配信ミックステープ6月号(2014)
国産ヒップホップを中心としたフリーダウンロード・ミックステープの2014年6月発表分一覧。日本語ラップ専門情報サイト2Dcolvicsで紹介された作品を主に取り上げている。



【】VA 『MIKUHOP EP』
2014.06.01 / 全5曲20分 / mp3,flac,... / bandcamp




【】LUNV 『DREAM JOURNEY 2』
2014.06.01 / 全11曲30分 / 256kbps / HP




【】TEETWOまた旅×TENTEKO-BOZE 『MINDSLUM』
2014.06.01 / 全11曲34分 / 320kbps / audiomack





【】MIYABINA 『MIYABINA INST』
2014.06.01 / 全5曲17分 / 128kbps / audiomack




【】Green Assassin Dollar 『assassin dollars mixsoup.』
2014.06.01 / 全2曲38分 / mp3,flac,... / bandcamp
配信終了。



【】ディジー 『ブログ特典』
2014.06.02 / 全8曲22分 / 192kbps / blog




【】CBS 『TOWN』
2014.06.02 / 全12曲40分 / mp3,flac,... / bandcamp




【】A$K The Murder×DJ ABELT 『Project A 〜Return Of The Classic〜』
2014.06.05 / 全19曲34分 / 320kbps / blog




【】菊禅 『COOL DUCK MUSIC vol.2』
2014.06.05 / 全11曲38分 / 192kbps / Twitter




【】JZA 『JZAMPLE01』
2014.06.06 / 全9曲16分 / mp3,flac,... / bandcamp
無料配信終了。



【】T=2 『THE END EP』
2014.06.07 / 全6曲24分 / 160kbps / Twitter視聴




【】Green Assassin Dollar 『csmflow.』
2014.06.10 / 全5曲分 / mp3,flac,... / bandcamp
配信終了。



【】YH Timothy 『King Timothy』
2014.06.10 / 全10曲15分 / 160kbps / datpiff




【】Arμ-2 『Come Green』
2014.06.10 / 全7曲11分 / mp3,flac,... / bandcamp




【】WATARU/ISM 『ISMical Groove』
2014.06.11 / 全11曲28分 / 128kbps / Twitter




【】Ryuei Kotoge 『Hashi Yasume EP Remixed』
2014.06.11 / 全7曲27分 / mp3,flac,... / bandcamp




【】RYUHEYXXX 『Chant For The Dead』
2014.06.12 / 全16曲38分 / mp3,flac,... / bandcamp




【】Crucible & Dodge Noledge 『Fast Delivery』
2014.06.16 / 全15曲47分 / 128,320kbps / audiomack




【】Ryuei Kotoge 『undo,redo.Remixes』
2014.06.19 / 全10曲32分 / mp3,flac,... / bandcamp
無料配信終了。



【】パンチャーakaパン吉 『DRUNKY KONG EP』
2014.06.20 / 全12曲20分 / 256kbps / Twitter
配信終了。



【】10,10,10 『101010 beat tape vol.1 (shitbase)』
2014.06.20 / 全5曲14分 / mp3,flac,... / bandcamp




【】DUDE 『#DUDE_EP 1993VOL.1』
2014.06.21 / 全5曲14分 / 320kbps / Twitter



【】JUNIASEN 『OPEN MOUTH』
2014.06.22 / 全7曲21分 / mp3,flac,... / bandcamp




【】72 『MY WAY』
2014.06.22 / 全9曲33分 / 160kbps / audiomack




【】野崎りこん 『コンプレックスEP』
2014.06.23 / 全6曲19分 / 320kbps / HP




【】hi-channel! 『#SUIKAremix-es』
2014.06.23 / 1枚ファイル13分 / 128kbps / SoundCloud
配信終了。



【】OMSB 『Fake Homiez Beat Tape』
2014.06.24 / 全12曲16分 / mp3,flac,... / bandcamp




【】DubbyMaple 『Path Of The Bass EP』
2014.06.24 / 全5曲19分 / mp3,flac,... / bandcamp




【】tella 『s.ai』
2014.06.25 / 全13曲46分 / 320kbps / HP




【】Arμ-2 『sleepy ep』
2014.06.25 / 全7曲13分 / mp3,flac,... / bandcamp
無料配信終了。



【】tokomanonka 『another cut of your dream (100% dream juice remix album)』
2014.06.25 / 全24曲84分 / mp3,flac,... / bandcamp




【】SEVEN D SIX 『JP Gangsta Crips』
2014.06.25 / 全12曲38分 / 192kbps / audiomack




【】matatabi 『19:40』
2014.06.25 / 全10曲21分 / mp3,flac,... / bandcamp
無料配信終了。



【】ogawa 『73』
2014.06.25 / 全8曲18分 / mp3,flac,... / bandcamp




【】USYN 『COPYHOLIC』
2014.06.26 / 全9曲42分 / 320kbps / HP




【】Gryphin 『HIPHOP FREE INST 1』
2014.06.26 / 全6曲22分 / 320kbps / Twitter




【】Leaseka 『Ambivalence1』
2014.06.28 / 全5曲11分 / mp3,flac,... / bandcamp




【】VA 『#KZK企画vol2』
2014.06.29 / 全25曲91分 / 160kbps / Twitter




【】FMNS 『FMNS EP』
2014.06.29 / 全5曲6分 / mp3,flac,... / bandcamp




【】AKILLY 『逆さまの夢と現実 EP』
2014.06.30 / 全6曲19分 / 256kbps / audiomack




【】CHICK Jr. 『Vintage Black』
2014.06.30 / 全5曲21分 / 320kbps / HP




【】bugseed 『Freeby Frisbee EP』
2014.06.30 / 全8曲23分 / mp3,flac,... / bandcamp
配信終了。





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<まとめ>
2010年〜2011年1月〜9月分 Tegetther
2012年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2013年 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
2014年 1月 2月 3月 4月 5月

・「JPRAP.COM presents "The Se7en Deadly Sins"」 →記事(2011.05.26記)
  2010年の主要フリーダウンロードミックステープについてもある程度まとめてある。
・「昨今の国産ヒップホップ・無料DLミックステープ事情」 →記事(2011.09.30記)
  2011年前半の作品に焦点を当てた記事。
・「VA『Fat Bob's ORDER vol.1』」 →記事(2011.10.07記)
  記事の最後に名古屋関連のミックステープをまとめた。
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2014.06.30 Monday 23:59 | 音楽 | comments(0) | trackbacks(0)
ル・コルビュジエの家 / El hombre de al lado

58点/100点満点中

2009年のアルゼンチン映画。人間ドラマ。

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アルゼンチン・ブエノスアイレス州の州都ラプラタ(ブエノスアイレス州の中に首都の"ブエノスアイレス"は位置するが、どの州にも属さなさい自治市扱い)。世界的な成功を収めた若き家具デザイナー・レオナルドは妻のアナとひとり娘ローラと共に、20世紀を代表する建築家ル・コルビュジエ設計の家で暮らす。ある朝、酷い騒音で目覚めると、隣の家のビクトル・チュベロが自宅の壁をハンマーで崩し、彼の家に向く形で窓を作ろうとしていた。
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ル・コルビュジエが1948年に設計し、アメリカ大陸では唯一の彼の建造物だというアルゼンチン・ラプラタの"クルチェット邸"で実際に撮影している。家の中に樹木がそびえ、いかにも"お芸術"な実に暮らしにくそうな邸宅が舞台となる(作中にも出てくる用語・モデュロールを実践することで、"人体における数学的な比率を見出だし、それを建造物の機能の向上のために利用した"そうだ。室内で坂ダッシュできるのは確かに魅力かも)。

そのレオナルド邸の向かいではなく、両脇でもなく、真裏に位置する隣家の住人ビクトルが問題の人物となる。レオナルドが暮らしている側の道には緑が多く、ハイソな一帯となるが、並行に隣を走る道は普通のアパートが並び、ビクトルとレオナルドの部屋が背中合わせで接することになる。江戸川乱歩の世界だったらきっと地下でひそかに繋がっていて、お屋敷町から下町に急に現れた怪人二十面相が明智少年探偵団を驚かせたことだろう。

閑話休題。ミラノのビエンナーレで発表した椅子(エンドロールで紹介されているが、"プラセンテロ・チェア"という実際にある椅子だそうで、実に座り心地が良さそうだ)が大評判をとり、一躍人気を集めたレオナルドにとって、それまでのアートやアカデミックの世界の住人とは真逆の印象を持たざるを得ない、外見からして粗暴で押しが強く不敵な隣人ビクトルと対峙することになる。

彼の望みはひとつで、窓ひとつない自分の部屋に太陽の光を入れたい、ただそれだけだった。しかし、レオナルドや妻アナにとってみれば、ちょうど居間が見られる位置に窓が作られるわけで、プライバシーの侵害以外何ものもでもない。しかも年頃の娘ローラ(ピンク色が好きなようで、ピンクのギターを弾き、ピンクのチェ・ゲバラのポスターが貼られている)までいる。

境界線トラブルを始め、隣人との問題は多種多様だし、お隣さんということでこじれることが往々にしてある。一昨年だったか世田谷で退職した元警察官が隣家の女性を日本刀で叩き切った事件があったと記憶しているが、対応を誤ると大きなしこりを残してしまう。そして、レオナルドもその例に漏れず、ミスを犯す。

映画自体は騒音に悩まされる描写がだらだらと無駄に長くたいして面白くはない。でも、いつの間にか行われている視点の逆転が興味深い。観客は主人公レオナルドの心中を察しながら見始める。つまり、文化人の家に野蛮人が難癖をつけてきたと。よくいえば、その冗長な描写のおかげで彼が抱える不快感や不安感の共有が図られる(もっとうまくできそうにも思うけどさ!)。デザイナーでインテリの彼の境遇に深い同情とビクトルへの憤りが最初はあったはずなのに、見終えた時にはその気持ちが真逆になっている。その趣向が面白い。確かにビクトルは教養がなさそうだし、態度が横暴に過ぎるかもしれない。でも、付き合ってみればそれほど嫌な奴ではなく、もしかしたらどこかの飛行艇乗りのように"気持ちのいい男"かもしれない。人としてクズであるのはひょっとしたら、レオナルドや特にその妻アナではないのかとなるのだ。

ハンマーを叩き込み少しずつ穴を開けようとしている内側の壁と、その逆側の徐々に穴が開けられる外壁のふたつを同じ画面でちょうど縦に二分割する形で映し出す冒頭のシーンがまさに、小賢しくもあるが、肩入れする登場人物がゆっくりと変わっていくその逆転現象を象徴していたのかもしれない。

そうした展開は悪くないといってもいいが、本編だけで98分はやはり不要だ。ル・コルビュジエの家も売りのひとつだとはいえ、それほど有効に使われているとは思えない。ただ、エンドロールは楽しめる。イラストを使っての配役紹介や、何よりイノシシのマリネのレシピを教えてくれるのが良い。


ビクトル特製イノシシのマリネ
1.イノシシの肉を細切りにし、ひと晩漬け込む。
2.漬け汁は白ワインとニンニク、月桂樹。
3.翌日、炒める時に小口切りのニンジンとタマネギを加える。お好みで黒コショウを少々。
4.漬け汁とワインビネガー(各カップ1杯)、レモン少々を入れ、しばらく火にかける。
5.全てを瓶に詰め、冷蔵庫に入れる(かなり日持ちする)。

マテ茶を何度か飲むシーンがある。日本でも最近は自販機に普通に入っているようになったが、"アルゼンチンにはマテ茶で意思を伝える文化がある"として"マテ言葉"なるものも紹介されている(wiki)。なかなか奥が深そうだ。
2014.06.30 Monday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ロスト・ボディ / El Cuerpo

88点/100点満点中

2012年のスペイン映画。ミステリー。監督脚本は『ロスト・アイズ』で共同脚本を務めたオリオル・パウロ。カメラマンと4人の製作の内ふたりは『ロスト・アイズ』と『永遠のこどもたち』でも担当し、編集は前者から引き続き。主演は『悪人に平穏なし』で悪徳警官を演じたホセ・コロナド。失われた死体マイカ役は先の2作で主人公だったベレン・ルエダ。「シッチェス映画祭ファンタスティック・セレクション2013」のひとつ。

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死体保管所の夜警アンヘル・トレスが慌てふためき敷地から飛び出した直後に車に轢かれてしまう。駆けつけた警察は当夜心臓発作が原因で運ばれてきたマイカ・ビジャベルデの遺体が紛失していることに気づく。ベルリンで暮らす娘エヴァに会うために取った休暇から戻ってきたばかりのハイメ・ペニャ警部が事件の担当となり、製薬会社経営のマイカの年下の夫で社長を任されているアレックス・ウジョアに連絡を取る。彼の平然とした様子に次第に疑念が膨らむ。
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これはよくできたミステリー映画。もしこのトリックで実際にやってみたら可能かといったら、あまりにでき過ぎているわけだけど、これは映画でありフィクションなのだから、観客をどれだけ騙せるか、楽しませることができるかが最も重要なであり、2時間弱の中で上手にきっちり詰め込んでいる。

深夜の死体保管所を舞台にしたひと晩の出来事を描く物語で、そこに回想シーンを的確に入れることで幅を持たせているが、ほぼワンシチュエーションというのもいい。妻を失った過去を持つペニャ警部と妻を失ったばかりの夫アレックス。次々に挙がる証拠は全てアレックスが犯人であることを指し示している。一方、アレックスにとってみれば、確かに愛人カルラ・ミレルと一緒になりたいがために妻のマイカを毒殺してはいたが、その遺体が行方不明になることは予想外で、しかも彼と妻との間で交わしたやりとりや、カルラとのメールの文面などがひとりの時を狙って、まるで妻殺しを責めるように突きつけられる。

主人公アレックスの語る話が本当なのか、あるいはぺニャ警部の推理を信じるべきなのか、はたまたこれはスペイン映画だしマイカの霊というホラーの線も捨てられないわけで、全てに対し疑心暗鬼になりながら見続け、そして最後にそこか!という解を得られる。ちょっと無理があるよという声も頭の片隅では確かにしているが、それでもそうなるだけの理由やしっかり張られた伏線があり、これは監督の手腕を素直に褒めるべきだろう。
2014.06.29 Sunday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
クイーン 全3話 / Queen

ルーツ』で自身の母方の家系を辿った作家アレックス・ヘイリーが今度は父方の祖母を中心に描いた同名長編小説を原作にしたテレビドラマのミニシリーズ。米テレビ局CBSで1993年2月14日、16日、18日と3日に分けて全3話が放映された(それぞれ94分、91分、95分)。日本では衛星放送で流され、その際に「第1章 〜運命の大地に生まれて」、「第2章 〜愛と自由を求めて」、「第3章 〜長い旅路の果てに」と副題が付けられた。主演はブレイク前のハル・ベリー。チャーリー・シーンやエミリオ・エステヴェスの父親マーティン・シーンがベリーの義父役で、またリチャード・ジェンキンスがKKKの一員として熱演している。

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アラバマの若き農園領主ジェームズ・ジャクソン・Jrと黒人の機織り奴隷イースターとの間で1841年4月に生まれ、クイーンと名付けられた色の白い女の子の流転の人生を描く。
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大ヒットした1977年の『ルーツ』と比べると、長さは各90分全6話から全3話と半分になり、原作はどうだったのかは知らないが、内容的には薄まりを覚える。裏を返せば、ルーツを追えないほど複雑な人生を歩まざるを得なかった黒人奴隷の苦しみでもあるのだろう。それを理解した上でも『ルーツ』ほどに面白味を感じないのはクイーンのキャラクター造形に原因がありそうだ。

綿花農園を営むジャクソン家の黒人執事キャプテン・ジャック(両親がアフリカ生まれで彼は2世代目)とネイティブアメリカンの血を引くアニーとの間に生まれたイースターは、ジャクソン家のひとり息子ジェームズ・ジャクソン・Jr.の寵愛を受け、本作の主人公クイーンが誕生する。白人と間違えられるほど肌が白いという設定にしたいようだが、演じるハル・ベリー(実際に彼女の両親は父親が黒人で、母が白人)は肌の色や顔の特徴が黒人のそれであり、日本人から見ても間違いようがないと思うのだけど、時に白人女性と勘違いしていい寄ってくる白人が現れる。外見からは見分けがつきにくいことから黒人社会からも白人社会からも疎外され、アイデンティティに苦しみ続けることになる。

クイーンは当時無数にいたであろう"農園の子"として父親不明のまま戸籍が作られる。それでも父ジェームズからはいくばくかの愛情をかけてもらえ、彼と本妻リジーの娘ジェーンとは姉妹のようにして白人邸宅で育てられる(同じ部屋に寝起きしても、白人のジェーンはベッドで、黒人のクイーンはその脇の床の上というあからさまな差別は受けている)。1861年に始まる南北戦争がなければ、もしかしたら幸せな人生を送れたかもしれないクイーンだったが、4年続いた内戦が彼女の人生を変え、南部の命運に伴いジャクソン家も没落する。

彼女は自分を家族の一員としてジャクソン家に認めて欲しいだけだったけれど、白人と黒人が厳格に分けられていた南部では、いくらか進歩的だったジェームズでも難しく、彼女は失意のうちに生家を出ることになる。

奴隷制度の廃絶を目指した北部が勝利したことで、南部の黒人たちが自らの権利を叫び始めると、白人たちは自らの地位が奪われる怯えからKKKを組織し、黒人をリンチにかけていく。クイーンもまた時代の波にもまれ、屈辱を舐め、肌の色から黒人からも白人からも虐げられる。そんな彼女の味方になりながら本作を見られるかというと残念ながらそれが難しい。まず彼女の話すイントネーションが黒人っぽさをわざと取り入れているようにしか聞こえず嫌味に感じられる。具体的にどうこういえるほどその訛りを知らないので詳細には指摘できないのだけど、イースターとクイーンの話す言葉使いには違和感を覚える。

それ以上に問題なのは上でも書いたように彼女の性格だ。アラバマの農園からサウスカロライナ州の大都市チャールストンに身ひとつで出てきたクイーンを手助けする同じく"白い黒人"のアリスが、彼女からしっぺ返しを食らった際に指摘するように、現実を理解していない上に傲慢であまりに身勝手なのだ。この性質は、何も黒人だから分をわきまえろといいたいわけではもちろんないが、その後に彼女を一時助ける白人のマンディ姉妹に対しても、男と出奔するために感謝の言葉ひとつ告げずに出て行ったり、エピソードのひとつひとつでその考え方や言動が自分本位に過ぎる。実の父親に最後まで認められなかったことや黒人というだけで受けてきたいわれのない数々の差別が蓄積した上でのことだとは分かっていても、どうにも不満の溜まるヒロインだ。

しかし、エキセントリックともいえるそんな性格が第3部の終盤でのまさかの伏線になるとは思わなかったので、その点ではよい裏切りともいえる。それと、これは必ずしもハル・ベリーが悪いわけではないが、彼女が後半で披露する老けメイクが当時の技術を注ぎ込んではいるにしろ、若さ(当時26歳)から生まれる瞳の輝きまではどうすることもできず、そのアンバランスさでずいぶんとグロテスクな人相になってしまう。


使われている言葉が当時に則したものではなく、政治的に正しい語彙に置き換えられている点でも人種差別を描いたドラマとしてはマイナスだ。『ルーツ』から16年経って製作された本作は時代の要請もあったのだろう(アメリカでの当時の時代背景は知らないが、現代の人種差別を扱った『マルコムX』や『評決の時』『真実の囁き』が前後して発表されている)。具体的にいえば、奴隷制度が実施されていた当時一般的だった言葉である"ニガー"が少ない。代わりに"二グロ"が使われている。その使い分けには特に規則性はないように思えるが、粗野な白人が感情的になった際に"ニガー"を使うようだ。黒人への差別意識を根深く持っている南部の白人女性がクイーンを諌めた時は"ニグロスレイブ"を使われ、戦争に勝って南部に進出してきた北軍の軍人は"ブラックスレイブ"を使っていた。


それと、これも原作がどうなのかは知らないが、南部を美化している印象を受ける。もちろん、KKKの怖さを描いたりはしているし、宗教にとらわれ過ぎている南部の底怖ろしさの描写もあるが、特に戦前を舞台にした第1部では古き良き南部を称えているきらいがある。黒人にキリスト教の救済を授け、毎日の食事を与え、大切に保護しているのは白人であると。かたや、北軍は南部農園の生活の拠点である綿花工場を一方的に爆破し、狼藉に及ぼうとするなど横暴な振る舞いをみせる人々と描く。


また、これは作品のいい悪いの話ではないが、この時代を舞台にした映画や小説にしばしば出てくるエピソードのひとつに、白人女性が性行為への嫌悪を表明するシーンがある。白人の男女は義務として子供を作りはするが、その行為そのものは苦痛であるとする。だから、ジェームズと結婚したリジーの母のこんなセリフが飛び出す。"黒人がいなければ男に毎晩付き合わされる。男は淫らな獣だ"。閨房の語らいを現代のようにあけっぴろげにしないという当時の嗜みが故にこうした表現になっているのか、それとも当時の白人女性は、個人差はあっただろうけど、本当にそう思っていたのか。毎回不思議に思うところだ。


そういえば、クイーンの美しさにジェームズの実母サリー・ジャクソンはマルティニーク出身の皇后ジョゼフィーヌの肖像画を引き合いに出すシーンがある。先日ちょうど見た『マルチニックの少年』の舞台となった島だ。このエピソードをヒントに都会に出ようとするクイーンが自分はマルティニーク出身と偽るシーンがある。
2014.06.28 Saturday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
悪人に平穏なし / No habrá paz para los malvados

61点/100点満点中

2011年のスペイン映画。監督はロマン・ポランスキー×ジョニー・デップの『ナインスゲート』(1999)で共同脚本を務めたスペイン・バスク地方出身のエンリケ・ウルビス。主演のホセ・コロナドは『ラスト・デイズ』で主人公のバディ役だった俳優。国内のアカデミー賞とされる"ゴヤ賞"では14部門で候補となり、作品・監督・主演男優・脚本・編集・音響の各賞で栄冠に輝く。

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スペイン・マドリードの失踪人捜査課のサントス・トリニダード刑事は、閉店後の酒場で深酒から3人を射殺してしまう。証拠隠滅を図るが、逃走した男に顔を見られ、その足取りを追うことに。一方、その殺人事件を調査する女性判事チャコンは被害者がコロンビア人だったことから麻薬組織の抗争を疑う。ふた組が追った先に恐るべき計画を進める過激派組織が浮上し・・・。
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本作は2004年3月11日に首都マドリードで起きた同時多発テロの"スペイン列車爆破事件"(wiki)をモチーフにしているそうだ。イスラム過激派のテログループが7時半過ぎの通勤ラッシュ時間帯を狙い、市内の鉄道10ヶ所で爆弾を爆破。死者191人、負傷者2000人以上の大惨事となった。

かつては特殊部隊で華々しく活躍していたものの、ある事件をきっかけに失踪人捜査課へ異動となり、荒みきっている悪徳刑事サントスが身勝手な事件を起こし、罪がないわけでもないとはいえ酒場オーナーや用心棒を一方的に射殺する。監視カメラ等の証拠を持ち去ろうとした時に、隠れていた男に顔を見られた上に逃げられてしまう。保身の気持ちから、指示されているサミット警備の業務を放り出し、男を追い始める。その展開と並行して、女性判事チャコンがサントスの元同僚レイバを助手に酒場の殺人事件に着手する。あらすじにもあるように、酒場のオーナーはコロンビア人だったために、麻薬組織のプロのヒットマンによる犯行との線で捜査を進めるも、コロンビアマフィア、アフリカ系イスラム過激派と繋がり、セウティと呼ばれるリーダーに辿り着く。

単独調査にも関わらずチャコン判事に一歩先んじるサントス。彼女は彼の存在に気づくも、ふたりは共闘せず(男を追っている理由をサントスが明らかにできるはずもない)、また過激派が進める計画自体を把握しないままに組織を結果的に追い詰めていく。

ネタとしては面白い。が、圧倒的に説明不足。それぞれの思惑が錯綜するサスペンスということでいえば、韓国の『生き残るための3つの取引』やスウェーデン映画の『イージーマネー』に似ている。不自然な説明口調が省かれることでスピード感が生まれ、自分もその場にいるような臨場感がある。ただ、付いて来たい人だけ来なさいなそのスタイルはなかなか難しい。しかも、リアルさを意識した演出がされていながら、最後まで独断専行のサントスはクライマックスではもはやファンタジーの領域に足を踏み入れている感すらある。

大変な事件を未然に防げなかったスペイン人の無念がそうさせたのかもしれないにせよ、外国人の身にはやや厳しい。サントスの動きや思惑を説明する人物をひとりでも配置していればもう少し違ったのかなと思わなくもない。


Anís del Mono(アニス・デル・モノ)(wiki)。
酒浸りの主人公サントスがバーでまず注文していた酒。

原料のアニスはセリ科の一年草で、その果実はアニス果(アニシード/西洋茴香)と呼ばれ、香辛料にもなる。八角(スターアニス)やフェンネルシード(ウイキョウ)に似た甘い香りがする。有名なアニス酒にペルノーがあるが、このアニス・デル・モノも同種の味ならば避けたいところ。同じアニス酒でもギリシャ産の「ウゾ」(wiki)は飲みやすいということなのでいつか試したい。

アニスが置いていない時(現地でも少し珍しい銘柄のよう)に彼が頼むラム・コークは、日本でいえばホッピーのように、氷とラムの入ったグラス(ナカ)とペットボトルのコーラ(ソト)が分かれて運ばれてきて、自分で調節して飲むというシステムも面白い。
2014.06.26 Thursday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
奪命金 / 夺命金

73点/100点満点中

2011年の香港映画。ジョニー・トー監督作。2007年のトー作品『MAD探偵 7人の容疑者』で主演したラウ・チンワンと、先日の『コンシェンス/裏切りの炎』で悪徳警察ケイを好演していたリッチー・レン、歌手でもあるデニス・ホーを中心とした群像犯罪ドラマ。

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香港警察のチョン警部補が低所得者の隣人同士の刺殺事件現場に駆けつけた矢先、土地価格上昇の前にマンションを購入したい妻コニーからメールが入り、内見中の彼女の元に向かう。一方、銀行の金融商品営業担当テレサ・チャンは成績不振で追い詰められ、リスクに疎い年金生活の女性客に危険な商品を勧めてしまう。香港の片隅では、義理堅いヤクザのパウが逮捕された兄貴ワーの保釈金のため奔走し、兄弟分のロンに助けを求めていた。そんな時、ギリシャの債務危機に端を発したユーロ危機が勃発し・・・。
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"2009年10月のギリシャ政権交代による国家財政の粉飾決算の暴露から"始まった経済危機はすぐさま世界中に影響を及ぼし、危機の連鎖を起こした。その波をもろにかぶってしまうそれまでの成功者と、それ以前から新しい社会体制や状況に対応しきれず苦労している人々の悲喜こもごもを本作は描いている。

ジョニー・トーといえば『エグザイル/絆』から見始めたこともあって、主にハードボイルドなノワール作品で本領発揮する監督というイメージがあるのだけど、彼のフィルモグラフィーを見ると結構何でも撮る人のようで、ひょっとしたら本作と同じような演出作はすでにあるのかもしれないが、『エレクション 死の報復』『MAD探偵 7人の容疑者』『エグザイル/絆』『スリ』『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』しか見ていない身には、スティーヴン・ソダーバーグのように時系列と状況をいじりつつ、その結果としてその世界の様々な状況や階層を多角的に映し出す今回の作品はずいぶんと意欲作だ。

その代わりに、トーらしい見得を効かした絵作りやお馴染みの食事シーンが今回はなく、純粋に物語的な面白さをいえばこれまでの作品の方がいい。でも、1980年代から活躍している監督が決して足を止めずに今も新しい技法を試し、毎年のように新作を作り続けていることは素直にすごいと思える。

しかし、冒頭に殺人事件現場が出てくるものの、その直後から30分近くテレサ・チャンの銀行業務が映し出され、さらにもう30分で昔気質の中年ヤクザ・パウが持ち前の馬鹿力で物語を引っ張る。一体どうなることかと思ったら、金貸しチュン・ユン襲撃事件で2本の線がぶつかり、そこに香港警察のチョンが絡まり、さらにはその3本の線がまた解け、それぞれの物語を進みながら、当時の香港の様子を見せていくのはやはり巧さが際立っている。


ど頭のクレジットが終わり、街が俯瞰で映し出される時にかすかに聞こえる歌が"駆け抜ける〜"とあり、邦楽のようで少し気になる。音楽についていえば、エピソード終わりに流れる曲が印象的だ。
2014.06.25 Wednesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ブラッド・ウェポン / 逆戰

57点/100点満点中

2012年の香港映画。『コンシェンス/裏切りの炎』に続くダンテ・ラム監督、ジャック・ン脚本作品。サスペンスアクション。主演は『グリーン・ホーネット』でセス・ローゲンを支えるカトーを演じたジェイ・チョウ。その生き別れの兄役にラム監督の『ビースト・ストーカー/証人』や『密告・者』で主演したニコラス・ツェー。ダメな父役に扮しているのは『コンシェンス』で主人公の警部の相棒役だったリウ・カイチー。

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中東ヨルダン。国際警察のジョンは生物兵器に成り得る天然痘ウイルスを開発した科学者を護送中に、テロリストの襲撃に遭い、科学者を奪われ彼も重傷を負う。一方、貨物船の船員全員が天然痘で死亡する事件が発生、ウイルス・テロが現実に。医師から余命2週間と宣告されたジョンは北京の実家に戻るも、母から生き別れた兄ヨウの存在を告げられ、見つけ出して欲しいと頼まれる。向かったマレーシアへの機内で体調を崩した彼は女医のレイチェルに助けられる。到着後、彼女と別れるが、偶然車中から彼女の異変を察知し追ったところ・・・。
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冒頭の掴みはもうそれは素晴らしい迫力だ。どうして中東でアジア人が一線で活躍しているのかよく分からないまま(国際警察所属とは知らなんだ)、それでも炸裂する火薬と派手に大破する車両の迫力は文句なくハリウッドの大作映画並だ。ジョンは恋人である同僚アイスと共に悪徳科学者を守っていたはずなのに、いつの間にか敵の手に渡っていて(しばらくするとそれがショーンというこれまた同じ中国人だと分かる)、正直よく状況が理解できないままにただアジア映画離れした迫力に飲まれていく。

ダンテ・ラム監督の前作『コンシェンス/裏切りの炎』もそうだったわけで、映画が一旦落ち着けば事態が明らかになるかと思えば、さにあらずで、説明不足とあまりに多くて鼻白むしかない"偶然"の力にひたすら頼り、物語は進行する。

いい点とダメな点がくっきりしていて、まず脚本に関してはお話にならない。でも、アクションは目を見張る。ヨルダンシーンもそうだが、マレーシアでの高速道路から車が脇の川に落ちる場面はそこまでやるかといった香港映画らしい無茶やってる感があり実に楽しい。見せ方のおかげもあるにしろ、都市の高層ビル群でヘリを使ったチェイスも見どころだ。どんなに負傷しても軽々とミッションをこなしていく悪党に成長していたヨンと、かたや警察になっていたジョンという生き別れ兄弟やその両親のドラマも徹底的にベタに描くことでまあ悪くない仕上がりになっている。足が不自由(このエピソードもすごいけど)なふたりの父を演じるリウ・カイチーとヨンの娘を演じた子役の魅力に助けられているのも否定できないが。

外国を舞台にしたアジア映画の近年の傑作に韓国の『ベルリンファイル』がある。そこでの韓国のリアル路線とは違う見映えの良い派手さが香港の昔からの魅力だろうし、その点で本作は決して間違ってはいないが、最初から世界各国で撮るという設定ありきで物語を下手にふくらましたがゆえに、不自然な偶然を多く取り入れなければまとまらなかったと思える。

また、ハリウッドや韓国のよくできているアクションやサスペンスに比べると、香港のお家芸のはずの肉弾戦に迫力を感じない。カット割りのためだろうか。マット・デイモンに比べれば、よっぽど格闘技に精通しているだろうに(偏見)、見せ方の問題からか、決まりきった殺陣をただ演じているようにしか思えない。その点で上記もした車が川に落下するシーンに続く、車中での寝技の攻防は迫力があって良い。


【追記】2014.07.09
「忘れられた天然痘ウイルスの瓶、米研究施設で発見」 →CNN記事
2014.06.24 Tuesday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
コンシェンス/裏切りの炎 / 火龍 Fire of Conscience

75点/100点満点中

2010年の香港映画。監督ダンテ・ラム、脚本ジャック・ンの盤石タッグによるサスペンスアクション。主演は題名だけ知ってる『孫文の義士団』『花の生涯 〜梅蘭芳〜』などのレオン・ライ。共演にジョニー・トー監督の『エグザイル/絆』にも出演していたリッチー・レン。何より嬉しいのは出番こそ少ないもののビビアン・スーが出ていること(思いつめた表情がいい)。"Conscience"は"良心・道義心・善悪の観念"の意。

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娼婦殺害事件が起き、2ヵ月前に路面電車内で身重の妻を殺され、犯人を執拗に追い続けているマン警部が捜査に当たる。一方、携帯電話を盗んだ男を追跡中だった部下を交通事故で失った本庁のエリート警部ケイが所轄のマンに助けを求め、ふたりはチームを組むが・・・。
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香港映画はジョニー・トーだけで十分だろうと思いながらも、ダンテ・ラム、ジャック・ン組の作品は2008年の『ビースト・ストーカー/証人』と2010年の『密告・者』を何だかんだと見ていて、前者では構成の面白さに惹かれたが、最初に見た後者は渋い感想しかなかった。けれど、今回のはいい。存分に楽しめた!

序盤はよく分からないまま進んでいく。もう少し整理が必要かなとは思うものの、火薬の量で有無をいわせないのは香港らしいのかもしれない。警察はこの人たちで、本庁のケイ警部がエリートヅラしてても悪人であり、彼と金絡みで繋がっている闇社会の武装グループがいるのかと次第に把握し始めると、ようやく物語に乗れるようになる。ストーリーそのものは『ビースト・ストーカー/証人』のように入り組んではおらず、ミスリード(身内の風俗通い)はありつつも、武装グループがケイからの内部情報を基に大きなヤマを踏もうというシンプルなものだ。

ジョニー・トーのような男臭いノワール色は抑え目で、ジャッキー・チェンのアクション映画にあったごとくそこまでやるのかといった過剰さと、そんなのありなのかと思わず笑ってしまう死に方(自分で自分の頭を撃ち抜く)に代表されるようなコミカルさが多めとなる。ただ、見得の決まったシーンも多いわけで、両方のいいとこ取りといえるかもしれない。

クライマックスのアクションではまだ決着がついていないというのに、まさかの産婆さんという展開があり、盛りに盛ったその演出は笑える。しかもそれって実は妻が子供をついに宿し、幸せの中に(予断を許さない状況ではあったが)あったのに、唐突に闇に突き落とされた主人公の救済でもあり、題名にある"善悪の観念"がその境界線上からどちらに振れるかのきっかけのひとつにもなるのだ(抜き取った銃弾を戻すシーンに繋がる)。増し増しなエンタメの中にも分かりやすくテーマを盛り込んでいて、香港映画ってひょっとして今また面白くなっているのかもとなった。
2014.06.23 Monday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
ロー・コスト 〜LCCの逆襲〜 / Low Cost

71点/100点満点中

2011年のフランス映画。コメディ。ヒロインの客室乗務員を演じるのは『しあわせの雨傘』でカトリーヌ・ドヌーヴの娘役だったジュディット・ゴドレーシュ。DVDスルー作。

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チュニジアのジェルバ空港で離陸を待つ格安航空会社のパリ行便。出発できないまま深夜となり、もたらされたのは旅行会社の破産で飛べないという最悪の知らせ。自称産業スパイ・ダゴベールの演説で乗客たちはついに蜂起し、過激派をひそかに夢見ていた男が決を取ると圧倒的多数で乗っ取りが支持される。元エールフランスで機長をしていたと話すジャン=クロードに操縦させ、女性客室乗務員ニュアンス共々ようやく飛び立つ。が、着いたのは一面の砂漠地帯だった。
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スペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督の最新作『アイム・ソー・エキサイテッド!』が飛行機内を舞台にしたワンシチュエーションコメディだったと聞くけれど、本作も同様で物語上の移動距離はあるものの(チュニジアは地中海を挟んでフランスの向かいに位置する、アルジェリアとリビアに挟まれた北アフリカの国)、旅客機内の曲者な乗客たちが織りなすコメディだ。ベタな笑いも多めだが、そこはさすがおフランスだけあって、小人を起用しただ笑いに転化するのではなく(最近だと『ウルフ・オブ・ウォールストリート』)、その障害への健常者の"良心"こそをコメディにしてみたり、結構エグ目のグロがあったりと意外に楽しめた1本。

物語の中心となる自称スパイのダゴベールの華のなさはともかくとして、機長たちの耳元で何か囁いて翻意させるのだけど、それが最後まで分からないのはややマイナスか。その分、というわけでもないが、エンドロールのデザインがやけに凝っている。


【追記】2014.06.27
「英航空 グラナダと思いきやグレナダ島に」→CNN記事
映画とはちょっと内容の違う間違いではあるけれど。
2014.06.22 Sunday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
マルチニックの少年 / Rue Cases-Nègres

62点/100点満点中

1983年のフランス映画。西インド諸島にあるフランス領マルティニーク出身の作家ジョゼフ・ゾベル(1915-2006)が1950年にパリで発表した自伝的小説を原作に、同島で生まれ育った女性監督がメガホンを取った時代物。第40回ヴェネチア国際映画祭で主人公の少年ジョゼとその祖母役の俳優がそれぞれ新人賞と女優賞を、国内のセザール映画賞でも新人監督作品賞を受賞した。

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1930年8月、マルティニークの"塩の河"と呼ばれる農村地帯で生まれた少年ジョゼ・アッサム。母は亡く、祖母から厳しくも愛情深く育てられている。親たちがサトウキビ畑で重労働を強いられる中、夏休み中の子供たちは毎日元気に過ごす。
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カリブ海に浮かぶ西インド諸島の中のウィンドワード諸島のひとつにマルティニーク島があり(海を隔てた北にドミニカがある)、1502年に同島を"発見"したクリストファー・コロンブスは"世界で最も美しい場所"と呼んだ。当初は先住民族カリブ人が西洋の進出を拒んだが、最初はイギリスが、続いてフランスが乗り込み、1658年には抵抗した島民が絶滅させられた。その後、アフリカから黒人を奴隷として輸入し、サトウキビの大規模農園を展開。1789年のフランス革命をきっかけにマルティニークでも黒人奴隷の蜂起が起きるも、結局鎮圧され、イギリス統治の時期もありながら、19世紀中盤ぐらいには奴隷制が廃止されたようだ。ただ、現在も独立や自治が認められずフランスの海外県扱いになっている(ウィキペディアを参考)。

1763年同島で生まれた貴族の娘ジョゼフィーヌ・ド・ボアルネは、1796年ナポレオンと結婚し、1804年には夫が皇帝になったことで、彼女は"皇后"となった(これまたウィキから)。


VHSでしか出ていないだいぶ前の作品を手に取ったのは、『それでも夜は明ける』で当時の奴隷制度に関心を持ったからだが、"カリブの仏領の小島出身作家による少年時代の回想"という情報だけで選んでしまい、やや失敗だった。アフリカ西海岸の黒人がアメリカに強制連行される以前にまずカリブの島々に連れて行かれ、白人たちが経営するプランテーションで働かされた歴史があるわけで、その当時のことを描いた映画と勘違いしたのだ。

本作の舞台となる1930年のマルティニークではすでに奴隷制度は廃止されているが、白人はいまだ大農園を営み、黒人を安給料で酷使している。つまり、"ご主人様から雇い主"に呼び名が変わっただけだ。そうした島の様子を少年の目を通して綴った人間ドラマになる。雰囲気は悪くないが、結局は思い出語り以上の何かがない。

大人たちは労働環境への不平不満を溜めながらも、それでもサトウキビ畑に毎朝せっせと出て刈り取るしか生きる道はない。一方で子供はトム・ソーヤーたちがそうだったようにそれぞれが独自のおまじないや迷信を信じ、毎日を楽しく生きている。学校では教育こそが"未来を切り開く鍵"になると教えられ、黒人たちにも一応の教育制度が整えられている。主人公ジョゼは学校の授業を受けながら、村の物知りじいさんメドゥーズの話にも熱心に耳を傾ける。自分たち黒人のルーツがアフリカにあることやその苦難の歴史、また"自然こそが善"だといった知識や生き方の大事な根幹を教わる。

建前では奴隷制度がなくなり、黒人への教育も行き届き始めているとはいっても、以前と同じく歴然とした格差はあり続けている。フォート市と村を結ぶボートに乗る青年カルメンはジョゼから文字を教わり、希望に満ちた未来を語る。かたや、カルメンの勤め口のひとつ映画館の受付をする女性は同じく肌が黒いにも関わらず同族への嫌悪を隠さない。自分の外見は黒人からもしれないが中身は白人だといい放つ。

彼女のセリフは直接的な問題提起となるが、唐突さがあるのも否めない。それよりも、地主の白人トライユと黒人の妻との子供レオポルドが直面する強い悲しみは物語の流れの中にスムースに置かれ違和感がない。ジョゼの親友レオポルドは慕っていた父が亡くなる間際に聞いてしまう。トライユには跡取りがレオポルドだけなのに、名門と自負するトライユ家の名前を白人ではない混血児に与えることはできない、と。それまで肌の色に関係なく、父からの愛情を確かに感じ生きてきたのに、レオポルドは全てがまやかしだったと知ることになる。

終盤で、黒人にアイデンティティの置き場を決めたらしいレオポルドが搾取されている黒人労働者の実態を明らかにしようとして捕まる。引き立てられていく彼を取り囲む同胞たちの中で歌うでもなく、立ちすくむしかないジョゼは彼の名前をただ叫ぶだけだった。そうした胸を打つドラマがありながら、続けて別の悲劇が起こり、そのまま終幕を迎える。レオポルドがどうなったのか不明のままだ(黒人の犯罪者であり、悲惨な目に遭ったに違いないが・・・)。それもこれも少年の視点で切り取った当時のマルティニークでしかないという演出の元に全てが収束する。設定と作り手などの背景に頼り過ぎでもあり、子役を多く起用しているため演技に難があることも含め、消化不良気味の作品だ。きっと原作はもっと読みごたえがあるのだろうが。


<連行されるレオポルドを見つめる黒人たちが自然発生的に口ずさむ歌>
マルチニック お前は苦しむ
人生なんて知ったことか
青春すらもない
人々は絶望する
人生なんて単純さ
ただ金がないだけ
正義なんてあるもんか
ガードループ島はどんな様子かと俺は海を渡った
だが苦しみは同じだ
俺たちの心の中のこの深い苦しみを
一体 誰が取り除いてくれるのか
なんて怖ろしいんだ
この島では民衆は飢えで苦しむ
とても生きていけない
でも人生なんて単純さ
足りないのは苦しみを終わらせる金と正義だけだ
2014.06.21 Saturday 23:58 | 映画 | comments(0) | trackbacks(0)
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